T.M.C ~TwoManCell 【帰結】編

sorarion914

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第2章・邂逅

#9

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「本題に入ろう」

 ふいに、ウォーミングアップはここまで、というような線引きをされて、宇佐美は我に返った。
 互いの間に流れる空気が僅かに変わる。
 野崎の顔からも笑みが消えていた。
 自然、宇佐美も居住まいを直す。
「事件の事は知ってる?」
「殺人の?ニュースでならね」
「これはまだ捜査中の案件だから、詳しくは言えないんだ。でも――ちょっと」
「なにか気になることでも?」
 言い淀む野崎を先回りして、宇佐美は聞いた。
 野崎は苦笑すると「まぁね……」と頷いた。
「肝心の被疑者がまだ意識不明で、詳しい状況が分からない。だから分かっている範囲でしか推測できないんだけど……」
 野崎はじっと宇佐美を見た。
「君の考えを聞きたい」
「……」
「今から言うのは、俺の独り言だと思って聞いて欲しい」
 宇佐美は黙って頷いた。
 野崎は、可能な範囲で事件の状況を話した。
 大人しかった男が、数か月前から様子が変わったこと。
 事件当日は錯乱して女を刺したこと。
 その後、後頭部に何か強い衝撃を受けて意識を失くしたこと。
 第三者の介入はない。現場には男女の2人だけ。
 女は男より先に絶命していた可能性が高く、男の頭部外傷から見て、現場にはそれに相当するような凶器は見当たらないこと。
「男が自分で自分の頭を殴打する以外に説明がつきそうにないけど、状況から見てそれは難しい」
「何か薬を飲んでいた?」
「事件の数日前に精神科に行ってた。鬱と診断されて薬を処方されてる。一般的な眠剤と安定剤。幻覚を引き起こすような強いものじゃない」
「アルコールと一緒に飲んでたんじゃ?」
「体内からアルコールは検出されていない。ついでに言うと、危険薬物も」
 宇佐美は頷いた。
「俺には、橋から飛び降りた男の姿がダブって見えたんだけど……宇佐美はどう思う?」
「……確かに似てるね」
「もっと言うと、駅で死んだ男も……同じように見える」
「――」
 野崎はコップの水を一口飲んだ。
「駅と橋の男と、今回の事件の男に接点はない。駅の男とは近所に住んでいたけど、顔見知りだった事実はないし、ごく普通の生活を送っていた人間だ」
 それがある日突然――と両手を広げて首を振る。
「これって何かの祟りかな?」
 自分で言ってて、野崎は思わず笑ってしまった。
 宇佐美も苦笑する。が、すぐに真顔になると、「一度、現場を見てみたいな」と言った。
「見たら何か分かるの?」
「それは分からないけど……実はあなたと会う約束をした日、あの橋の上を見てきた」
 宇佐美は、男が飛び降りたあの場所に立って、何か感じるものがあるかどうか確認してみたことを話した。
「それで?何か感じた?」
「残念だけどなにも……時間が経ちすぎたのかも。人や車の往来も激しいし」
 そうか……と野崎は呟いた。
「でも、今度の事件はまだ日が浅いし、事が……大きいから、もしかしたら何か残ってるかも」
「早い方がいいってことか」
「たぶん」
 野崎は少し迷ってから、言った。
「室内は検証中だから入ることはできない。でも外からなら見られるけど……それでもいいなら?」
「それでもいいですよ」
 宇佐美の返事に野崎は頷くと、「じゃあ、明日の昼はどう?」と聞いた。
「いいですよ」
「じゃあ12時に今日と同じロータリーで」
 分かりました、と宇佐美は答えた。

 店を出る頃にはもう21時を回っていた。
 家まで送るよ――と野崎は言ったが、宇佐美はそれを断ると「駅まで乗せてくれればいいです」と言った。
「そう……」
 その様子から、それ以上押すのはやめた。野崎は駅のロータリーに車を寄せると、そこで宇佐美を下ろした。
「ありがとうございます」
「じゃあ明日。何かあったら連絡ください」
 はい、と答えて宇佐美は立ち去りかけたが、ふと何を思ったのか急に振り返り助手席の窓に寄った。
 野崎はウインドウを下げて「なにか?」と聞く。
「あの……」
「?」
 なに?という目をする野崎に、宇佐美は一言。
「おやすみなさい」と言うと、そのまま踵を返して改札の方へ小走りに歩いていく。
「――」

 呆気にとられた野崎は、そのまま無言でアクセルを踏んだ。

 なんだ?
 あいつ……

 なぜだか急におかしくなってきて、野崎はハンドルを握りながら思わず笑った。
 ろくに挨拶もしないと思っていたら、わざわざ戻ってきて最後の最後に「おやすみ」って。
 なんなんだ?
「変な奴……」
 思わず声にだして呟く。
 だが不思議と気分が高揚している。
 アルコールも入っていないのに……

 先生の言う通り。


 あいつほんと、だ。
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