T.M.C ~TwoManCell 【帰結】編

sorarion914

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第5章・揺心

#6

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 野崎は、通話が切れた画面をしばらく見ていた。
 そして、手元にある新聞記事のコピーに目を移す。
「これって、ウサギちゃんのことじゃないか?」
 そう言って白石が持ってきたものだ。
 あの資料室での一件で、恐れをなしたかに見えた白石だったが、意外にも率先して調査に協力する。心の観葉植物の効果は偉大だな……と感じて、野崎は呆れるよりも感心してしまった。
「先生から聞いた8年前って情報とも一致するな」
 それは――
 川を遡上してその支流にまで範囲を広げながら、管轄外の事件や事故など、気になる事案を調べている中で、目に留まった記事だった。

 宇佐美昭子さん(57)
 マンションの5階ベランダから転落。自殺とみられる。発見者は同居していた息子(31)。

 場所は同じ県内。現場の近くを流れる鳩川は相模川の支流のひとつだ。
 そうある苗字ではないし、年齢的にも符合する。
「ウサギちゃんのお母さんも被害者の1人なのか?」
「さぁ……でも、もしそうなら奴も何か言うだろう」
 黙っていたのは、言いにくい事だったからだろうか?
 野崎の中に、微かな疑惑がよぎる。

 まさか、な――

 (いや、そんなことはない……)
 野崎は首を振る。あいつ自身も被害に遭ってる。一緒にいる時に影を見ているし、調査にだって協力的だ。
 あいつが幽霊の正体なわけない――
 そんなわけはないとは思うが……
 確認せずにはいられない。
 野崎はスマホを見る。折り返し掛けると言っていたが、何も音沙汰がない。
「もう一度かけてみろよ」
 白石に言われ、掛けてみたが呼び出すだけで応答なし。メッセージにも既読がつかない。
 妙な胸騒ぎがした。
 そう言えば、電話口の様子もなんだかおかしかったような……
「……」
 野崎はスマホを掴むと「俺、ちょっと出るわ。なんかあったら呼んで」と白石に言うと、そのまま刑事課の部屋を飛び出して、駐車場に向かった。
 自分の車に乗り込み、神原に電話をする。
「あ、先生、急にすみません。宇佐美の住所、教えて貰えますか?できれば大至急」
 教えられた住所をカーナビに入力すると、礼を言いそのまま車を走らせる。
 佐々木が自殺を図った河川敷のある公園の前を走り抜け、細い裏通りへ進む。
 確かに歩いて来れない距離ではない。
 自分の車では、すれ違うのがやっとな程の狭い道を進み、路地の一角にあるアパートの前に横づけした時、ふいにスマホが鳴った。
 画面を見る。
 宇佐美からだ。
「もしもし⁉」
『ごめんなさい。遅くなって……』
「あのなぁ……」
 野崎はそう言うと、ほっとした様に息をついた。
「心配させるなよ。何かあったんじゃないかと思って――」
 そう言って車窓からアパートを見る。
「今……割と近くにいる」
『え?』
 驚く宇佐美に、「窓の外見て」と言った。
 2階の角部屋の窓が開いて、宇佐美が顔を見せた。路上に停まっている車の運転席から、野崎が手を振っている。
「なにしてんの⁉」
 宇佐美は呆れたように言った。
『電話の様子がおかしかったから……なんか――変なこと考えてるんじゃないかと思って』
「――」
 宇佐美は、心配げに自分を見る野崎に一瞬泣きそうに顔を歪めたが、すぐに何でもないような顔をして「今そっちに行くから待ってて下さい」と言って奥に消えた。
 しばらくすると、スウェットにTシャツというラフな服装の宇佐美が、右手にスマホを持っただけの状態で車に駆け寄ってきた。
「なんで来たんですか。仕事は?」
「ちょっと抜けてきた」
 呆れた顔をしてため息をつく宇佐美に、「乗ってよ」と言う。
「戻らなくていいんですか?」
「どうせもうあと2時間ほどで退勤時間だ。ついでだから、少し話そう」
「……」
 宇佐美は迷ったが、ここまで来られては逃げ場がないと思い、仕方なく助手席に座った。
 野崎は横に座る宇佐美の顔を覗き込んで、頬を指差した。
「どうしたの、ここ?」
 貼られた絆創膏はまだ新しい。血もにじんでいる。
「髭剃ってて……切った」
「首も?」
「……」
 宇佐美は顔を背けて頷いた。
 泣きはらした顔を、あまり見られたくはなかった。でも野崎には気づかれているだろうなと感じる。
 刑事の観察眼を侮ってはいないが……勘の鋭さも侮れないと痛感する。
 だが野崎はそれ以上なにも聞かず、「そう」とだけ言って静かに車を走らせた。

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