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第5章・揺心
#7
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車は、以前来た公園の駐車場に入った。
2人は車を降りて、ゆっくりと河川敷の方へ歩く。
日が傾き始めると、辺りには早くも秋の気配が漂い始める。
だが屋外で遊んでいる子供や親子連れは、まだ大勢遊具の周りにいた。そんな人たちを横目に、2人は少し離れた所にある、あずま屋に腰を下ろした。
遠くの山並みが良く見える。ここからは確認できないが、焼身自殺があった現場の規制線はすでに解かれ、辺りはすっかり日常に戻っていた。
騒ぎは一瞬。
当事者でない限り、事件現場などそんなものだ……
野崎は、遠くを見ている宇佐美の横顔に目をやった。何を考えているのか――そこから相手の考えている事を読み取ることなど自分にはできない。
だが宇佐美は、今自分が思っていることを読むことが出来るんだろうか?
「――」
野崎は、試しにじっと念を送ってみた。が、宇佐美は無反応だ。
「……」
視線に気づいて、宇佐美が言う。
「なんですか?」
「いや。俺の考えてること……伝わるかな?と思って」
「――」
宇佐美は驚いたような顔をした。
「実はこの間。先生に会って……話をした」
宇佐美は黙っていた。戸惑った表情を浮かべている宇佐美には、あえて気づかぬふりをして野崎は続けた。
「宇佐美は人の心が読めるって聞いたよ。まぁ……なんとなくそんな気はしてたから、それほど驚きはしなかったけど」
「いつもじゃないよ。いつも聞こえるわけじゃない」
言い訳めいた口調に野崎は言った。
「そうみたいだな。今俺が思ってたこと、気づかなかったみたいだから」
「――」
「聞こえてたら、そんな涼しい顔してない」
「なに言ってたの?」
教えない、と野崎は言った。宇佐美はムッとした様に顔をしかめる。
「お前と会っての感想も聞かれたよ」
「どうせそれも、ろくな事じゃないんでしょう?」
「そういうお前はどうなんだよ?どうせろくな事じゃないんだろう?」
「……」
「だったらお互い様だ。第一印象は最悪同士。ある意味、気が合うな」
「だから前にそう言ったでしょ。相性良いのかもって」
そうだったな……と言って、野崎は笑った。つられて宇佐美も笑う。
2人はしばらく、ぼんやりと遠くの景色を眺めていた。川を渡ってくる風が心地よい。
野崎は、ワイシャツの胸ポケットから新聞記事のコピーを取り出すと、宇佐美の前にそっと差し出した。
宇佐美はそれに目をやる。
「これ。お前のことだろう?」
「……神原さんに聞いたの?」
「8年前に亡くなったってことだけね」
そう――と、宇佐美は頷いた。
「宇佐美のことだよな?」
「そうですよ」
そう言って切り抜きのコピーを手に取った。
「住んでた場所の近くを川が流れていた。覚えてる?」
「そうだったかな……」
「鳩川も相模川の支流のひとつだ」
宇佐美は黙っていた。
「お母さんも被害者の1人なのか?」
野崎はストレートに聞いた。宇佐美はじっと野崎を見つめた。
いつもの、網膜を通して何かを見るような鋭い視線ではなかった。どこか精彩を欠いた弱い眼差しだ。泣きはらした後の、重い瞼を眠たそうに伏せる。
「野崎さん……」
宇佐美は手にしたコピー用紙に目を落としたまま、囁くように言った。
「俺は過去に一度、ヤツに会ってる」
2人は車を降りて、ゆっくりと河川敷の方へ歩く。
日が傾き始めると、辺りには早くも秋の気配が漂い始める。
だが屋外で遊んでいる子供や親子連れは、まだ大勢遊具の周りにいた。そんな人たちを横目に、2人は少し離れた所にある、あずま屋に腰を下ろした。
遠くの山並みが良く見える。ここからは確認できないが、焼身自殺があった現場の規制線はすでに解かれ、辺りはすっかり日常に戻っていた。
騒ぎは一瞬。
当事者でない限り、事件現場などそんなものだ……
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だが宇佐美は、今自分が思っていることを読むことが出来るんだろうか?
「――」
野崎は、試しにじっと念を送ってみた。が、宇佐美は無反応だ。
「……」
視線に気づいて、宇佐美が言う。
「なんですか?」
「いや。俺の考えてること……伝わるかな?と思って」
「――」
宇佐美は驚いたような顔をした。
「実はこの間。先生に会って……話をした」
宇佐美は黙っていた。戸惑った表情を浮かべている宇佐美には、あえて気づかぬふりをして野崎は続けた。
「宇佐美は人の心が読めるって聞いたよ。まぁ……なんとなくそんな気はしてたから、それほど驚きはしなかったけど」
「いつもじゃないよ。いつも聞こえるわけじゃない」
言い訳めいた口調に野崎は言った。
「そうみたいだな。今俺が思ってたこと、気づかなかったみたいだから」
「――」
「聞こえてたら、そんな涼しい顔してない」
「なに言ってたの?」
教えない、と野崎は言った。宇佐美はムッとした様に顔をしかめる。
「お前と会っての感想も聞かれたよ」
「どうせそれも、ろくな事じゃないんでしょう?」
「そういうお前はどうなんだよ?どうせろくな事じゃないんだろう?」
「……」
「だったらお互い様だ。第一印象は最悪同士。ある意味、気が合うな」
「だから前にそう言ったでしょ。相性良いのかもって」
そうだったな……と言って、野崎は笑った。つられて宇佐美も笑う。
2人はしばらく、ぼんやりと遠くの景色を眺めていた。川を渡ってくる風が心地よい。
野崎は、ワイシャツの胸ポケットから新聞記事のコピーを取り出すと、宇佐美の前にそっと差し出した。
宇佐美はそれに目をやる。
「これ。お前のことだろう?」
「……神原さんに聞いたの?」
「8年前に亡くなったってことだけね」
そう――と、宇佐美は頷いた。
「宇佐美のことだよな?」
「そうですよ」
そう言って切り抜きのコピーを手に取った。
「住んでた場所の近くを川が流れていた。覚えてる?」
「そうだったかな……」
「鳩川も相模川の支流のひとつだ」
宇佐美は黙っていた。
「お母さんも被害者の1人なのか?」
野崎はストレートに聞いた。宇佐美はじっと野崎を見つめた。
いつもの、網膜を通して何かを見るような鋭い視線ではなかった。どこか精彩を欠いた弱い眼差しだ。泣きはらした後の、重い瞼を眠たそうに伏せる。
「野崎さん……」
宇佐美は手にしたコピー用紙に目を落としたまま、囁くように言った。
「俺は過去に一度、ヤツに会ってる」
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