T.M.C ~TwoManCell 【帰結】編

sorarion914

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第6章・影

#5

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 車は国道1号線から129号線に入る。
 道路は比較的空いていた。この調子なら1時間とかからずに家に帰れそうだ。
 2人はしばらく無言のまま、ラジオから流れてくる音楽を聴いていたが、ふと思い出したように野崎が言った。
「あれだけ行動を起こしてたヤツが、急に大人しくなった理由は何だと思う?」
 宇佐美は野崎の方を見た。
 資料室で野崎と白石が襲われたのを最後にヤツは気配を消している。宇佐美もあれ以降、ヤツの気配を感じない。
「もう飽きたのかな?」
「どうだろう……」
 宇佐美は眉間を寄せた。
「このまま止めてくれたら助かるんだけど」
 その言葉に、宇佐美はゆっくりと首を振った。
 信号待ちで停車する。野崎は宇佐美の方を見た。
「俺にはヤツが、何かを待っているように感じる」
「待つ?なにを?」
「分からないけど、そう感じるんだ」
「……」
「息を潜めて、こっちの様子を伺っている」
 野崎は無言でアクセルを踏んだ。
 束の間の休息というわけか……いやそれとも、嵐の前の静けさだろうか?
 野崎は、ずっと気になっていたことを宇佐美にぶつけた。
「お前は幽霊の正体に気づいているんじゃないのか?」
「え?」
「明言はできなくても、なにか思うことがあるんじゃないかと思って」
「――」
 そして、いつぞやも感じていた思いもぶつけてみる。
「俺はなんとなくだけど、幽霊と宇佐美は無関係じゃないような気がするんだ」
「……」
「霊感がない俺でもそう感じるんだから、宇佐美はもっとハッキリと意識しているんじゃないかと思ってさ」
 どう?と聞いてみる。
 宇佐美は、茫漠とした感覚を必死にかき集めようともがいていた。だが、もがけばもがくほどそれは無造作に散らばっていく。何かが思考の邪魔をして、それ以上先に進めないように抑え込んでる感じだった。
 忘れなさい、という母の声が――恐らくその枷になっている。

 これを外せば、見えてくるのだろうか?
 そいつの姿が――

 宇佐美は黙って首を振った。
「さすがに正体までは分からないよ……でも、こいつが物凄く執念深くて嫌な奴だっていうのは分かる」
「……」
 車窓を流れる国道沿いの景色をぼんやりと見つめたまま、宇佐美は言った。
「こいつは自分の仕掛けた罠に獲物がかかるまで、ひたすら待つことが出来るんだ。目的を果たすまでずっと――こいつにとっては、それさえも苦痛じゃなくて喜びなんだ。いや、快楽かな?そして執拗に追い詰める。人が苦しむのを……人の死を……見て楽しんでいる――」
 そして宇佐美は野崎の方へ振り向き小さく笑った。
「こんなヤツと自分に繋がりがあるなんて思いたくないけど」
「宇佐美……」
 でも、と宇佐美は肩を竦めると「もう後戻りできない気がする」と視線を再び外の景色に向ける。
「俺は罠にかかったんだと思う。いつ殺されてもおかしくないのに、それをしてこないのは……怯えてる姿を見て楽しみたいのか。もがく姿を見たいのか。それとも」
「……」
 宇佐美はゆっくり息を吸い込んで、言った。
「俺の方から動き出すのを待っているのか――」
「――」
 宇佐美は「あのさ……こういうこと言って、また変な誤解されたくないんだけど」と前置きしてから、野崎の横顔に視線を向けて言った。
「もう俺には関わらない方がいいかも」
 野崎は黙っていた。
「ヤツの目的は多分俺だよ……理由は分からないけど、そんな気がするんだ。2人が襲われた時、アイツ俺のところに来て挑発していった。これから野崎さんのところへ行くぞ、止めれるもんなら止めてみろって」
「……」
「何度も電話をかけたけど、ちっとも繋がらないし。タイミングよく助けられたと思ってたけど、たぶん違う――アイツ、からかってただけだ」
 野崎はチラッと宇佐美に視線を投げた。その目を見て、宇佐美は言った。
「次は本気で危害を加えてきたら、俺には野崎さん達を守る自信がない」
「だから自分に関わるのはよせって?安易だな……」
 野崎は言った。
「お前が言ったんだぞ。もう手遅れだって」
「――」
「今更関係ないふりしたって遅いだろう。お前が罠に嵌ったんなら、俺も白石も一緒だよ。みんな一緒に網の中だ」
「……」
「なら一緒に抜け出す方法を考える方が賢明じゃない?俺たちのことを心配して言ってくれてるのは分かるけどさ」
「……」
「そうやって、なんでも1人で背負いこもうとするなよ」
 宇佐美は黙って俯いた。拒絶されると分かっていたが――でも、不謹慎だが嬉しかった。
 宇佐美はもうそれ以上何も言わなかった。

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