T.M.C ~TwoManCell 【帰結】編

sorarion914

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第7章・過去

#4

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 宇佐美は黙って清次を見た。
【人でなし】とは――つまり、人では無いということ。そう呟いて、清次は続けた。

「弱った人の心にすり寄って死を囁く――兄はまるで死神のようでした。あなたはまさか……そんなことはないでしょうが」
 そう言って苦笑すると、「こんな事実。知らない方がよかったんじゃないですか?」と聞く。
 そして、少し辛そうな顔をして体を動かした。お茶の入ったコップに手を伸ばす。
 宇佐美は腰を上げて、その手にコップを近づけてあげた。
「ありがとう……」
 落とさないように片手をそっと添えたまま、飲み終えたコップも受け取ってテーブルに置く。その物慣れた手つきに、清次は優しい目を向けた。
「わざわざこんな所にまで来て聞く話だったのかどうか……私には分からないが。よければ理由を聞かせて貰えないか?なぜ今頃になって、兄の事を聞きに来たのか」
「……」
「兄が死んでもう30年以上経つ。その名前を聞くのも久しい」
 宇佐美はどう説明したらよいか迷った。話したところで信じて貰えるかどうか。
 それでも体調が思わしくない中、対応してくれたことに感謝して、宇佐美はまず自分の持つ不思議な力について教えた。そして母親の力についても。
「そうか……お母さんにもそういう不思議な力があったんだね。お互いに……引き寄せ合ってしまったのかな」
 そして何かを気にするように、不安げな顔をする宇佐美を見て言った。
「自分が父親のようになるんじゃないかと恐れているね」
「……」
 清次はジッと宇佐美の目を覗き込んで言った。
「あなたは確かに兄によく似ているが、唯一違う点があるとすれば、その目かな?」
「目……ですか?」
「兄の目は救いようがないほど絶望的で暗く沈んでいた。でもあなたの目は違う。寂しそうではあるが、実に聡明で優しい。お母さんの目に似ているのかもしれないな。その目は兄じゃない」
「――」
 そして、宇佐美が話す信じがたいような事件の話に及ぶと、しばらく何も言わず。黙って窓の外へ目をやった。
 被害者たちを死へ追いやったのは、宇佐美征一に間違いないだろう。
 幽霊の正体は、自分の父だ。でも――なぜ?目的はいったいなんなのだ?

「死神に目的を問うなら、それは死へ導くためだろう」
「彼を止めたいんです。山梨へ行った時、彼の気配を感じました。あの地にいます。でもそれがどこか分からない」
 川を遡上した先。そのどこかに、ヤツは潜んでいる。
「昔住んでいた集落が山梨にあった。もう廃村になってしまったが……さすがに家屋はないだろうが、名残くらいは残っているかもしれないな――」
 清次は言った。
「兄は子供の頃に住んでいたその家に何故か執着していた。引っ越した後も、1人で度々訪れていたようだ」
 そして、隣室にいる裕子を呼び、生家の住所を調べるように頼んだ。
「昔の住所録よ。参考になるかしら?」
 古い住所を頼りに現在の地図と照らしあわせる。
「でも、もうずいぶん前に廃村になってるんでしょう?道だって……どうなってるか分からないわよ」
「おおよその座標が分かればGPSで探せます」
 宇佐美は礼を言うと、長居してしまったことを詫びた。
「駅まで送ります」
 裕子に言われ、「甘えます。すみません」と素直に頭を下げる。
 そして、清次の側に寄ってその手をとった。
「ありがとうございました。お会いできてよかったです」
 清次は微笑むと、「私の方こそ……今更だけど会えてよかった」と頷く。
 そして、その年老いた両手でしっかりと宇佐美の手を包み込むと、優しい眼差しを向けて言った。
「尚人君……あなたは兄とは違います」
「――」
「僅かな時間だけど、一緒にいて分かりました。私は兄から、こんなに穏やかな雰囲気を感じた事がない。きっとお母さんの力が、あなたを守ってくれているんだろう……だから大丈夫。安心しなさい。あなたはお父さんとは違う――」
「――」


【人でなし】ではない。


 そう言われたような気がした。
 宇佐美は何も言わず。黙って頭を下げた。


 駅前のロータリーに着いて、宇佐美は礼を言った。
「お世話になりました」
「いえ。こちらこそ……ありがとうございます」
 何故か礼をいう裕子に、宇佐美は不思議そうな顔をした。
 裕子は俯くと、ハンドルに手をかけたままポツリと呟いた。
「父は……末期のガンなんです」
「え?」
「余命宣告を受けていて、すでにひと月過ぎています」
「――」
「実は……あなたが来られる少し前に、危篤状態になって――さすがにもうダメかと諦めていたんですが、持ち直したんですよ。医者も驚いていました」
 そう言って裕子は笑うと、助手席の宇佐美を見て言った。
「まるで、あなたが来るのを待っていたみたい」
「……」
「じき、父は亡くなると思います」
 宇佐美はじっと裕子を見た。裕子は寂しそうに笑うと、「でも」と言った。
「あなたのせいではないから、気にしないでくださいね。これは天命ですから」
 隣の部屋で、それとなく会話を聞いていたのだろう。
 宇佐美が死を携えて訪れたわけではないと、気にかけているのだ。
 訪ねて来ても来なくても、結果は同じだと。
 裕子もまた清次同様、あなたは死神ではない、人でなしではない、と言っているのだ。

 宇佐美は深々と頭を下げると車を降りた。
 そして走り去る車をじっと見送る。
 遠くに見える山影が徐々に黒く染まっていくのを、宇佐美はただ見つめていた。
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