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第8章・生滅
#3
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10月16日。
前日のこともあるので、2人は早めに動くことにした。
朝7時にチェックアウトを済ませ、途中のコンビニで朝食を買い、車中で食べながら目的地を目指す。
ただ、今日は何故だか順調に進んでいる。道も滞ることなく、信号機さえもタイミングよく青に変わり……
「なんだか、ウェルカムって感じだな」
野崎は苦笑した。
「誘い込まれてるみたいだ……」
両腕を広げて待ち構えてる。その懐に、今から自分たちは飛び込もうとしているのだ。
宇佐美は不安な面持ちで、じっと流れる景色を見ていた。薄曇りだが雨の心配はなさそうだった。それがせめてもの救いだ。
車は川に沿って林道を抜け、山道を行く。ハイキングコースでもあるのか、立て看板が目に付くようになった。
「集落があったのはもう少し先だな」
「車でどこまで行けるだろう」
とりあえず行ける所まで行ってみよう――と、野崎はアクセルを踏み込んだ。
GPSの地図を確認しながら、少し開けた場所に来て車を止める。
舗装された車道から、少し逸れた場所に脇道があった。2人はその場に車を置くと、歩いて様子を見に行った。
脇道は未舗装で道幅も狭く、どこまで車で行けるか分からない。
「車はやめた方がいいかも」
「仕方ない。歩いて行こう」
そう言うと、2人はトレッキングを装い、脇道へと入っていった。
気味が悪いほど順調に進んでいる。
途中すれ違う人も車もほとんどなく、誰にも見咎められることなく山中へと進んでいく。
この先にあった集落が廃村になって、もう50年近く経つ。
当時は生活道路として使われていた道も、今では車も通らないのだろう。轍は消え、自然の姿へと返りつつあった。
それでも、途中まではまだ道らしきものが見えていたが――10分も歩くと既に道の様相はない。
「ここからは地図が頼りだな」
「方角で見ると、このまましばらく真っすぐだ」
宇佐美はGPSの地図を見て言った。
山の中は涼しいが、歩いているとジットリ汗ばんでくる。足場もやや傾斜しており、自然、息も上がってきた。
宇佐美は足を止めると、肩で大きく息をついた。それを見て野崎が笑う。
「お前、体力ないな」
「……」
宇佐美は上目遣いで睨みつけると、「山登りは嫌いなんだよ」と言い捨てた。
「それでよく1人で来ようと思ったな」
野崎にそう言われ、宇佐美は不貞腐れたような顔をすると、「うるさい」と呟いて歩きだした。
が、足を取られて躓きそうになる。その腕を野崎は慌てて支えた。
「な?俺がついてきて良かっただろう?」
「――」
無言で腕を振り払い、何も言わずに前を歩く宇佐美の背中を、野崎は笑いながら見つめた。
「素直じゃねぇなぁ……」
30分ほど歩くと、既に道と呼べるようなものはなく、2人は獣道のような斜面を時折地図を確認しながら進んでいた。
木立の間から日差しが降り注ぐ。こんな目的でなければ、絶好のハイキング日和だろう。足元は枯れ葉や木の根が張り、気を付けて歩いていても足を取られそうになる。
さすがの野崎も息が上がり、立ち止まって周囲を見回した。
人工物がないか探すが、まだそれらしきものは見当たらない。
「50年も経てば村の面影なんて消えちまうよな……」
宇佐美も立ち止まり、息をつきながらその場に座り込んだ。それを見て野崎は言った。
「少し休もう」
2人は近くの岩に腰を下ろすと、水分補給をした。
「早めに出て正解だったな。意外と時間がかかる」
「ごめん……俺が足を引っ張ってる」
己の体力のなさに項垂れる宇佐美を、「想定内だよ」と野崎は言った。
「不測の事態を想定して動く。捜査の基本その1ってところかな」
そう言って笑う野崎に救われたように、宇佐美も笑った。
「野崎さんは……どうしてそんなに優しいの?」
その言葉に、野崎は視線を向けた。
宇佐美は俯いたまま、まるで独り言のように続ける。
「本当は責められてもおかしくないのに、やんわりと受け止めてくれるし……必要なことは聞くけど、そうじゃないことは無理に聞いてこないし」
「……」
「気づいてても、気づかないふりをしてくれる。どうしてそんな風に……優しくできるんですか?」
「俺……優しくなんかないよ」
野崎は照れたように笑った。
「本当は色々気になるよ?お前の……彼女の事とかさ」
「……」
「けど、別に今知るべき事柄でもないし……話したくなった時に話せばいいやと思ってるから聞かないだけで」
「……」
「それを優しさと捉えてくれるかどうかは、人それぞれだと思うけど」
でも――と言って、野崎は宇佐美を見た。
「宇佐美がそう感じてくれているなら良かった」
野崎はゆっくりと立ち上がる。それを、宇佐美は眩しそうに見上げた。
「さ、行こう」
再び、2人は山道を歩きだした。
前日のこともあるので、2人は早めに動くことにした。
朝7時にチェックアウトを済ませ、途中のコンビニで朝食を買い、車中で食べながら目的地を目指す。
ただ、今日は何故だか順調に進んでいる。道も滞ることなく、信号機さえもタイミングよく青に変わり……
「なんだか、ウェルカムって感じだな」
野崎は苦笑した。
「誘い込まれてるみたいだ……」
両腕を広げて待ち構えてる。その懐に、今から自分たちは飛び込もうとしているのだ。
宇佐美は不安な面持ちで、じっと流れる景色を見ていた。薄曇りだが雨の心配はなさそうだった。それがせめてもの救いだ。
車は川に沿って林道を抜け、山道を行く。ハイキングコースでもあるのか、立て看板が目に付くようになった。
「集落があったのはもう少し先だな」
「車でどこまで行けるだろう」
とりあえず行ける所まで行ってみよう――と、野崎はアクセルを踏み込んだ。
GPSの地図を確認しながら、少し開けた場所に来て車を止める。
舗装された車道から、少し逸れた場所に脇道があった。2人はその場に車を置くと、歩いて様子を見に行った。
脇道は未舗装で道幅も狭く、どこまで車で行けるか分からない。
「車はやめた方がいいかも」
「仕方ない。歩いて行こう」
そう言うと、2人はトレッキングを装い、脇道へと入っていった。
気味が悪いほど順調に進んでいる。
途中すれ違う人も車もほとんどなく、誰にも見咎められることなく山中へと進んでいく。
この先にあった集落が廃村になって、もう50年近く経つ。
当時は生活道路として使われていた道も、今では車も通らないのだろう。轍は消え、自然の姿へと返りつつあった。
それでも、途中まではまだ道らしきものが見えていたが――10分も歩くと既に道の様相はない。
「ここからは地図が頼りだな」
「方角で見ると、このまましばらく真っすぐだ」
宇佐美はGPSの地図を見て言った。
山の中は涼しいが、歩いているとジットリ汗ばんでくる。足場もやや傾斜しており、自然、息も上がってきた。
宇佐美は足を止めると、肩で大きく息をついた。それを見て野崎が笑う。
「お前、体力ないな」
「……」
宇佐美は上目遣いで睨みつけると、「山登りは嫌いなんだよ」と言い捨てた。
「それでよく1人で来ようと思ったな」
野崎にそう言われ、宇佐美は不貞腐れたような顔をすると、「うるさい」と呟いて歩きだした。
が、足を取られて躓きそうになる。その腕を野崎は慌てて支えた。
「な?俺がついてきて良かっただろう?」
「――」
無言で腕を振り払い、何も言わずに前を歩く宇佐美の背中を、野崎は笑いながら見つめた。
「素直じゃねぇなぁ……」
30分ほど歩くと、既に道と呼べるようなものはなく、2人は獣道のような斜面を時折地図を確認しながら進んでいた。
木立の間から日差しが降り注ぐ。こんな目的でなければ、絶好のハイキング日和だろう。足元は枯れ葉や木の根が張り、気を付けて歩いていても足を取られそうになる。
さすがの野崎も息が上がり、立ち止まって周囲を見回した。
人工物がないか探すが、まだそれらしきものは見当たらない。
「50年も経てば村の面影なんて消えちまうよな……」
宇佐美も立ち止まり、息をつきながらその場に座り込んだ。それを見て野崎は言った。
「少し休もう」
2人は近くの岩に腰を下ろすと、水分補給をした。
「早めに出て正解だったな。意外と時間がかかる」
「ごめん……俺が足を引っ張ってる」
己の体力のなさに項垂れる宇佐美を、「想定内だよ」と野崎は言った。
「不測の事態を想定して動く。捜査の基本その1ってところかな」
そう言って笑う野崎に救われたように、宇佐美も笑った。
「野崎さんは……どうしてそんなに優しいの?」
その言葉に、野崎は視線を向けた。
宇佐美は俯いたまま、まるで独り言のように続ける。
「本当は責められてもおかしくないのに、やんわりと受け止めてくれるし……必要なことは聞くけど、そうじゃないことは無理に聞いてこないし」
「……」
「気づいてても、気づかないふりをしてくれる。どうしてそんな風に……優しくできるんですか?」
「俺……優しくなんかないよ」
野崎は照れたように笑った。
「本当は色々気になるよ?お前の……彼女の事とかさ」
「……」
「けど、別に今知るべき事柄でもないし……話したくなった時に話せばいいやと思ってるから聞かないだけで」
「……」
「それを優しさと捉えてくれるかどうかは、人それぞれだと思うけど」
でも――と言って、野崎は宇佐美を見た。
「宇佐美がそう感じてくれているなら良かった」
野崎はゆっくりと立ち上がる。それを、宇佐美は眩しそうに見上げた。
「さ、行こう」
再び、2人は山道を歩きだした。
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