T.M.C ~TwoManCell 【帰結】編

sorarion914

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第8章・生滅

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 道なき道を、2人はしばらく無言で歩き続けた。
 時折野崎が振り返り、遅れがちな宇佐美に目を向ける。幾度かそれを繰り返し、何度目かに振り返った時、宇佐美が立ち止まったまま自分をじっと見上げていることに気づいて、野崎は「どうした?」と聞いた。
「俺……あなたにまだちゃんと謝ってない」
「……」
 野崎は黙って宇佐美を見た。
「昨日あなたに言われた事――ずっと考えてた」
「……」
「その通りだよ。俺は人と関わりたくない。自分が傷つくことも、人を傷つけることも……もうたくさんだ」
「……」
「なのに、あなたを傷つけてしまった。あんな事――言わなきゃよかった」
 宇佐美は唇を嚙んで俯いた。
「一生知らずに済めばよかった事だったのに……」
「宇佐美……」
「本当に……ごめんなさい――」
 そう言って深く頭を下げる。
 野崎はしばらく黙っていた。
 この数日間、宇佐美自身も悩み苦しんでいたのだろう。
 不本意ながら伝えてしまったことに対して。
 それによって相手を傷つけてしまった事を。そしてその痛みを、自分の事のように感じていたのだろう……

 宇佐美が死神の息子であっても、こいつは人を傷つけて喜んだりなんかしない。
 そこに喜びを見い出す父親ヤツとは違う。
 共に傷つき、悩み、苦しむ。
 この男には、人間らしい思いやりと優しさがちゃんとあるのだ――

 野崎は言った。
「教えてくれてありがとう」
「え……?」
 宇佐美は驚いて顔を上げた。
「そりゃ……あの時はショックだったけど、でも――」
 そう呟いて、宇佐美の目を見る。
「ちゃんと手を合わせてあげることができた」
 野崎はそう言って小さく笑った。
「お前が教えてくれなきゃ、一生知らずに生きてた。きっと……気づいて欲しかったんだと思う。だからお前に姿を見せたんだ。お前にはそれが見えて……それを俺に教えてくれた」
「……」
「あの子の魂を、宇佐美は救ってくれたんだ」
「――」
「だから感謝してる。ありがとう」
 何も言わずに、ただ黙って聞いていた宇佐美は、ゆっくりと野崎の方へ歩み寄った。
 上空で鳥のさえずりが聞こえる。2人は同時に空を見上げ――再び歩き出した。

「お前のその力にはさぁ……ちゃんと意味があるんだよ」
 傾斜がキツくなった山道を、周囲の木立を掴んで登りながら野崎が言った。
「人を傷つけるだけじゃなくて、救うこともあるんだって――俺はそう思う」
「そうかな……」
「誰かを救う為の力だって思ってた方が、希望が持てるだろう?」
 野崎はそう言いながらキツい傾斜を登り、振り返って宇佐美の方へ手を差し延べた。
「だからもっと自信持てよ」
「――」
 宇佐美は何も言わなかった。ただ、自分の方へ差し延べられたその手を黙って掴む。
 強い力で引き上げられる。
 互いに息が上がり、しばらくその場で呼吸を整えた。
「それにしても、すごい所だな……本当にこんな所に集落があったのか?」
 道なき道の先は、まだ鬱蒼とした雑木林だ。
「方角は合ってる。多分もうすぐだ」
 GPSの地図を確認して、宇佐美はふと視線を上げた。
 何かに惹きつけられるように、じっと前方を見据える。その表情が少し強張るのを
 野崎は感じた。
「宇佐美――」
「野崎さん」
 言いかけた言葉を遮るように、宇佐美は言った。
「ここからは俺1人で行くよ」
「え?」
「あなたはここにいて」
 驚く野崎を尻目に、1人で傾斜を登っていく。
「お、おい!こんな所に置き去りかよ」
「あなたはこれ以上進まない方がいい」
「ここで待つのもどうかと思うぜ?」
 宇佐美は振り返って笑った。
「怖いの?」
「……アホ」
 怖いことあるか!と嘯く。
「幽霊より動物の方が怖い」
「熊は出ないよ」
「1人で平気か?」
「……」
 宇佐美は黙って頷いた。その表情には、静かな覚悟が見て取れる。
「そうか……」
 野崎はも何も言わなかった。
 黙って頷き、歩いていく宇佐美の後ろ姿を見送る。

 奴にだけ見えている世界。
 自分には見えない世界。
 その両者を隔てる境界線が今、スーッと目の前に引かれたような気がした。
 これを飛び越して、向こう側へ行くことが出来たら……

 俺に奴が救えるだろうか―――

 もどかしい思いを抱えながら、野崎は木立の向こうへ消えていく宇佐美の後ろ姿をじっと見つめていた。
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