幻想使いの成り上がり

ないと

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3-2 許嫁②

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「……なあ、エリスさんや。今日は茶会の予定のはずでしたよね」

「ええ、そうね」

 俺は手をこまねかせながら尋ねる。

「これは、茶会には見えないのですが……」

「そうね。私にも見えないわ」

 よかった。
 どうやら俺は言語能力を失ったわけではないらしい。

 では、一体この状況をどう説明するというのだろう。

 訓練場の片隅。
 薪に手を添えながら思う。

「茶会とは元来、誇り高き責務を果たす者が、互いを労うために行うものよ。逆説的に考えれば、努力をしていないものがそんなことをするのは貴族の理念に反するわ」

 高階級者の間ですでに婚約が決まっているものたちは、定期的に茶会を通して仲を深める決まりとなっている。

 ちなみに、俺はエリスと結ばれる決まりになってから五年間、一度も茶器に手を触れていない。

 触れているものといえば、しけた木材くらいなものだ。
 なんて哀れなんだろう。

「俺だって、努力してるのに……」

「それは結果を出してから言いなさい」

 何も言い返せない。

「でも、薪割りばっかはもう飽きたよぅ」

 なんて強情な。
 エリスは肩を落とした。

「はあ、仕方ないわね。私が模擬戦の相手をしてあげる」

「やっぱり薪割りで——」

「何? せっかく提案してあげたのに断るの?」

 顔を近づけ、視線を合わせる。
 それだけでレンジは怯んだ。

「あなた、今度武闘会に参加するでしょう? もう全戦全敗なんて言わせないためにも、実戦の訓練は必要よ」

 耳の痛い話かもしれない。
 だけど、これは必要な努力。

 勇者の一族として。
 そして、婚約者として。

 彼には強くなってもらわなければならないのだ。

 =====
 
 腕を引っ張って立たせ、脇に置いてあった木剣を構える。

「範囲はお互いの三歩後ろまで。そこから出るか、一本取るかしたら勝利よ」
 
 本来はもう少し範囲が広いが、擬似的な決闘だ。こだわる必要はない。

 レンジは木剣をフラフラと持ち上げながら柄を握りしめた。

「お、お手柔らかに……」

「——行くよ」

 軽く足を踏み出す。

 剣士にとって攻防の要は間合い。
 まずはそこから戦いを作り上げていく。

 右足、左足と交互にステップを踏み、エリスは距離を一瞬にしてつめた。

 バチン。
 剣が弾けた。

「レンジ、剣は間合いって何度言ったらわかるの? ちゃんとステップを踏んで」

「でも、そんなこと言われたって——」

「でもじゃない……!」

 続け様に身を翻す。
 ——次に、刀身の扱い。

 無駄なく力を敵に伝え、あるいはいなす。
 腕から放たれる技術は、間合いの不利をも押し返す。

 ——しかし。

 腰の捻りを生かし、全身の力を込めたエリスの剣戟が、容赦無くレンジの肩を穿った。

「グエッ!?」

 当然、貧弱なレンジの体躯では、満足に剣で防御することもできない。

 この時点で、すでに二回。
 三本先取なら、もう敗北の確定だ。

 それでも、エリスは攻撃の手をやめなかった。

 まだ、一つだけ重要なことが残っていたから。

 空気が蠢く。
 宙がゆらゆら揺れる。

「え、エリス……? 一体、何を……」

 剣士にとって、最重要となるピース。
 それは——闘気。

 体内から送られた闘気が、刀身に余すことなく巡る。

 レンジの頭に、嫌な予感がよぎった。
 そう、死の一文字だ。

 振り上げられた剣。
 完璧な間合い、完璧な技術、そして完全な闘気。

 それら全てを合わせた一撃が、振り下ろされた。

「——あ、終わっ」

 爆破。
 粉塵が辺りを舞って散らばった。
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