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3-3 許嫁③
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「体は貧弱、技術も下の下。だけど、一番の問題は闘気の精度ね」
吹き飛ばされ、埃を被ったレンジに語りかける。
「こ、殺す気かよ……」
「これでも十分手加減した方よ。でも、もしさっき少しでも闘気を出すのが遅れてたら、骨の一、二本折れてたかもね」
レンジはゾッとした表情で背筋を凍らせた。
「あれでも、全力で防御したつもりだったんだけど……」
「あれが全力? 有り得ていい話じゃないわね」
そんなこと言われたって。
と、顔を背けて不貞腐れる。
エリスは柳眉を下げて、膝をついた。
「ほら、立って」
「いいよ。放っておいてくれ」
レンジは差し伸べられた手を払って、自力で立ち上がった。
エリスはしばらく払われた手を見つめて、それから視線をレンジに戻した。
「ねえ、武闘会、本当に来るよね?」
「は? 別に、行くけど」
「私、レンジのこと見に行くから」
そう言うと、レンジはあからさまに怪訝な顔になった。
「やめてくれよ、そんなところまで監視する必要ないだろ」
俺が不甲斐ないのはわかるけどさ。
そんなことを言いながら涙目で呻く。
「違うし。監視のためじゃないし」
「はあ? じゃあ尚更なんのためだよ? クレメール家のエリート様が、俺の試合を見たところで何の参考にもならないだろ」
意味がわからない、とでも言いそうな顔でレンジは吠えた。
エリスはムッとなって目を背けた。
「聞かなくていいから。あなたが理解する必要な無いの」
「何だよ、訳がわからねえ」
そうぼやきつつも、レンジは追求をやめた。
「俺、もう家事の時間だし、家に戻るよ」
背を向けて、トボトボとボロボロになった足を引きずる。
——レンジ・ベリオスは、最弱である。
区域ごとに行われる武闘会でも、全戦全敗。
民衆の前に恥を晒し続けている。
それでも、彼が決闘に現れなかった日は、一度もない。
挫けもせず、諦めもせず、何度も蔑まれに戦いの舞台へと踏み込む。
五年の間、エリスなそんなレンジの姿をずっと見てきた。
「ねえ、待ってるから!」
背中に向かって、声を飛ばす。
「ああ、いつもの大樹の下で待っててくれ」
彼は振り返りもせず、右手をあげた。
再び、誰も居なくなったところでエリスはつぶやいた。
「ずっと、待ってるから……」
吹き飛ばされ、埃を被ったレンジに語りかける。
「こ、殺す気かよ……」
「これでも十分手加減した方よ。でも、もしさっき少しでも闘気を出すのが遅れてたら、骨の一、二本折れてたかもね」
レンジはゾッとした表情で背筋を凍らせた。
「あれでも、全力で防御したつもりだったんだけど……」
「あれが全力? 有り得ていい話じゃないわね」
そんなこと言われたって。
と、顔を背けて不貞腐れる。
エリスは柳眉を下げて、膝をついた。
「ほら、立って」
「いいよ。放っておいてくれ」
レンジは差し伸べられた手を払って、自力で立ち上がった。
エリスはしばらく払われた手を見つめて、それから視線をレンジに戻した。
「ねえ、武闘会、本当に来るよね?」
「は? 別に、行くけど」
「私、レンジのこと見に行くから」
そう言うと、レンジはあからさまに怪訝な顔になった。
「やめてくれよ、そんなところまで監視する必要ないだろ」
俺が不甲斐ないのはわかるけどさ。
そんなことを言いながら涙目で呻く。
「違うし。監視のためじゃないし」
「はあ? じゃあ尚更なんのためだよ? クレメール家のエリート様が、俺の試合を見たところで何の参考にもならないだろ」
意味がわからない、とでも言いそうな顔でレンジは吠えた。
エリスはムッとなって目を背けた。
「聞かなくていいから。あなたが理解する必要な無いの」
「何だよ、訳がわからねえ」
そうぼやきつつも、レンジは追求をやめた。
「俺、もう家事の時間だし、家に戻るよ」
背を向けて、トボトボとボロボロになった足を引きずる。
——レンジ・ベリオスは、最弱である。
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それでも、彼が決闘に現れなかった日は、一度もない。
挫けもせず、諦めもせず、何度も蔑まれに戦いの舞台へと踏み込む。
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「ねえ、待ってるから!」
背中に向かって、声を飛ばす。
「ああ、いつもの大樹の下で待っててくれ」
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再び、誰も居なくなったところでエリスはつぶやいた。
「ずっと、待ってるから……」
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