小学生に戻ってるっ!?……の裏側で ~引きこもり高校生と入れ替わった小学生がいつの間にかハーレムを築いている話~

日々熟々

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8話 一人でご飯

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「よぉ、今日もお前らと一緒に学食に行ってやるよ」

 昼休みになって僕らの席を囲んだ野田くんがニヤニヤと笑いながら言う。

「お前らまだダチいねーみたいだからな。
 かわいそうだから俺らが一緒に飯食ってやるよ。
 ありがたく思えよ」

「コーキ、やっさしー♪」

 僕らを馬鹿にした笑いを浮かべながら言う松戸くんの腕に、一宮さんが楽しそうに抱きつく。

 白井さんもニヤニヤ笑ってるし、館山くんも見下しきった笑いを浮かべてる。

 佐倉さんだけはスマホを見ているけど、別に止めたりしてくれる気はないみたいだ。

「ほら、早く立てよ『グロチン』くんよ」

 座ったままの僕を引っ張り上げながら野田くんが口にした言葉を聞いて、先に素直に立っていた遥くんが少し不思議そうな顔をしている。

 ここだと思った。

「あ、あの……きょ、今日は僕だけでお願いします……」

 僕の言葉を聞いて……僕に逆らわれてイジメっ子グループの顔から一瞬笑顔が消える。

 遥くんも「なにを言ってるんだっ!?」って顔で僕を見てる。

「はぁっ!?なに言っちゃってんのっ!?グロチンくんよぉっ!?」

 一瞬でキレたらしい野田くんに胸ぐらをつかまれる。

「なにっ!?昨日といいもしかしてこの男女に惚れちゃったっ!?
 ゲイのグロチンくんよぉっ!?」

 ここからは僕の演技力次第だ……。

「……あ、あの……そ、それです……。
 それ本庄くんに知られたくないんです……」
 
 僕の言葉を聞いた野田くんが何を言ってるのか分からない顔をする。

 ここでもっと悩ませて答えにたどり着いてもらわないと……。

「それ知られるのだけはマズイんです……。
 だから、お願いです……これからは僕だけで……」

 極力核心には直接触れないように、でもちょっと考えれば分かる程度に……。

「なんのこと言ってやがんだぁっ!?グロチンくんよぉっ!?
 言いたいことがあったらもっとはっきり言おうかっ!?」

「…………カズ、ちょっと落ち着けよ」

 キレっぱなしのままさらに言い募ろうとするカズ――野田くんを松戸くんが止める。

「はぁっ!?コーキまで何なんだよっ!?」

「いいから……。
 分かった、今日の所は坂東一人でいいや」

 そう言って、松戸くんたちイジメっ子グループとそれに囲まれた僕は呆気にとられた様子の遥くんに見送られて教室を出ていった。

 作戦成功だ。



「……で、コーキどういうことなんだよ?
 俺はグロチンが歯向かったことまだ許してねーぞ」

「まずそれをやめろ」

 機嫌の悪そうなまま廊下を歩く野田くんに松戸くんがピシャリと言う。

「そ、それってなんだよ?」

 松戸くんの様子に野田くんも流石に少し鼻白んだ様子だった。

「坂東の呼び名だよ。
 人のいるところじゃ、やめろ」

 松戸くんの言葉を聞いて、僕の意図が完全に伝わったことを確認した。

「な、なんでだよ?」

「坂東がヘタれたおかげで気づいけたどな、『あれ』の存在がバレるのは坂東はもちろん俺等もやばい」

「は、はあ!?何の話だよ」

「……あ、そっか」
 
 松戸くんのは説明を聞いても野田くんはピンときていない様子だったけど、一宮さんはなにか気づいたようだった。

 佐倉さんも気づいたみたいでずっと見続けていたスマホからハッと顔を上げている。

「アーヤ……コーキ何いってんの?」

「えっとね、晶。
 あの動画あるでしょ?
 あれ撮ったこと周りにバレると流石に私らもヤバいのよ」

 こちらもまるで分かっていない晶――白井さんに説明する形で、一宮さんがみんなにも状況の説明をしてくれる。

「で、でも、アレがある限りグロ……坂東は俺たちに逆らえねーから問題ねーじゃねーかよ」

「坂東は……ね。
 例えばアレの存在が本庄とかに知られてみなさいよ」

 一宮さんの説明を聞いた館山くんが苦い顔をした。

「……本庄にとってはアレがばらまかれても痛くも痒くもないから、センコーにチクるってことか」

「そ。
 それどころか警察沙汰とかになったら、色々面倒なことになるわよ」

 一宮さんの話を聞いてイジメっ子グループに沈黙が落ちる。

 そう、僕もこれに気づいた時はどうしたもんかなぁ……と思った。

 本庄くんのことを思えばこの事を話してイジメっ子グループを撃退する役に立ててもらうのがいいんだろうけど……。

 そうなると最悪本当に動画をバラ撒かれかねないし、流石にそこまで自分を犠牲にする覚悟は持てなかった。

 ということで、せめて僕がいる間だけでもターゲットを僕だけにするのに利用することにした。

 場合によっては逆に僕だけが開放される可能性もあったけど……。

「…………そんならこんなの消しちまおーぜ」

 しばらく黙っていた野田くんが硬い表情で小さな声でそういう。

「そ、そうだよ、そんな面倒なもの捨てちゃおうぜっ!
 持ってたってキモいだけだしよっ!」

 焦った顔をしている白井さんもそれに同意してるけど……。

「まあ、もしものことがあっても拡散しなけりゃあんなのイタズラの範疇で済むし、坂東一人と『遊ぶ』ならこれ以上ない材料になるからな」

 ただ一人ずっとニヤニヤ笑いを浮かべたままだった松戸くんが冷たい声でそう言った。

 そう、ヤバいブツなだけあってその見返りも大きい。

 だから、性格の悪い人なら有効利用するのを考えるんじゃないかな?と思ったんだけど、正解だったみたいだ。

「な?坂東、お前はこれバラ撒かれんの嫌だよな?」

 そう言って見せびらかすようにスマホを振る松戸くんに……。

「は、はい……何でもしますからそれだけは許してください……」

 僕は素直に頭を下げた。

 お前らは『僕に』僕をイジメさせられるんだ。

 何を言ってるのか自分でもよく分からなかったけど、ほんの少しだけ気分は良くなった。



 その後、イジメっ子グループにまたお昼を奢らされて、午後の授業の後、呼び出されてまた野田くんのサンドバッグになった。

 またお金も取られたし、動画も撮られちゃったけど、数が増えれば『ジョーシューセー』も重くなるらしいから、今更動画が増えても関係ない僕にはむしろ良い事だった。

 ………………と思わないとやってられない。

 今日も何故か高いところがやたらと目に入りながら寮の部屋に戻ると、いきなり遥くんに抱きつかれた。

「ぐえっ」

 とりあえず野田くんに殴られまくったお腹が痛くて変な声が出た。

「なんであんな事したのっ!?」

 そんな僕の様子も遥くんには目に入ってないらしい。

 あふれ続けてる涙で前が見えていないのかもしれない。

 なんであんなことをしたかかぁ……。

 少しでもなにかやり返したかったとか、出来ると気づいちゃったからとか、せっかく出来た友達だからとか色々あるけど……。

「実を言うとさ、僕、お兄ちゃんの準備ができたら学校辞めるんだよね。
 だから、その間だけ、休んでてよ」

 僕の言葉を聞いた遥くんが怒ったような悲しんでるようななんともいえない顔で涙を流しながら僕を見つめて……僕のお腹に顔を押し付けてわんわん泣き始めてしまった。

 色々あるけどさ……。

 一人でも、一時でも、いじめられてる人を減らせたら、学校を辞めるときお兄ちゃんに胸を張って会えると思ったんだ。

 遥くんに顔を押し付けられて、野田くんに殴られたお腹が痛むけど今は耐えるときだと思った。



 その後、また遥くんに体を洗ってもらってから、晩ごはんのお弁当を一緒に食べた。

 僕と話をしながら食べたいからってわざわざ帰りにコンビニで買ってきてくれたらしい。

 その日はお兄ちゃんに『友達とご飯を食べたこと』、『友だちと仲良くやれていること』を報告できたのが少し嬉しかった。

 一通りやることを終えて、今日はもう寝ようとベッドに入ってウツラウツラしているとき、遥くんの小さいけどはっきりとした声が聞こえた。

「優太くん、ボク、何でもするからやってほしいことあったら全部遠慮なく言ってね」

 ありがとう。

 ……でも、そういう事言われるとちょっと重たいです。

 お兄ちゃんっていう逃げ道が見えてるから出来たことなんだから、そんなに重く受け止めないでほしいです。



 それから数日間、僕は毎日お昼を奢らされて、放課後は野田くんに殴られて、動画を撮られて、お金を取られる学校生活を送った。

 それでも、お兄ちゃんとLINEで話をする時間と、なぜか自室でご飯を作ってくれるようになった遥くんと一緒にご飯を食べる時間があったから、なんとか頑張ってこれた。

 そんな僕のイジメられっ子生活に変化が訪れたのは、僕が高校に通いだして一週間が経った頃だった。
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