19 / 25
18. 大切
しおりを挟む「………どうしてこうなった」
アルガは、ジト目で天井を見つめながら、低くつぶやいた。
「え?なんかいいじゃん、夫婦みたいで♡」
ソルは相変わらず軽やかに言い、アルガの首後ろにまわした手で、その柔らかい黒髪に指を通す。
「いつ夫婦になった!!」
「同棲、ダブルベッドで就寝、もう夫婦じゃね?」
ベッドが小さいせいで2人の身体は密着し、ソルはその大きな腕をアルガの頭の下に置き、寄り添って天井を見つめている。確かに側から見れば、もうカップル—————いや、それを通り越して夫婦だ。
「おかしいだろ!」
「しょうがねえじゃん、お前の寝室大破してんだから」
—————そう、カイザールとの戦いの後、アルガの部屋はとても寝泊まりができる状態ではなかったため、アルガは仕方なく、ソルが寝泊まりしていた城の余り部屋にやってきたのである。
「絶対、変なことすんなよ、触ったら突き飛ばす」
「ん。昼散々やったから今日は寝かす」
ソルは天井を見つめて、こくりと頷いた。彼の性質を見てきてわかったこと。それは、ソルは絶対に嘘をつかないと言うことだ。—————まあ、逆を返せば、「やる」と言ったことは本当にやるので恐ろしいところもあるが。
「………」
アルガはどことなく落ち着かない様子で、シーツの中でもぞっと動く。ソルへの信頼感と安心感、そして、少し近づきたいという想い。アルガはふと、温もりを求めるように、微かにソルに擦り寄って顔を埋めていた。
は!?うっわ、……なんだこのかわいい生き物!!自分から触れるなと言っといて……
本人はわからないようにしているつもりだろうが、ソルが感じ取らないはずがない。その小動物のような行動に、ソルは静かに悶える。
いや、だめだ我慢しろ、俺。アルガは疲れてんだよ。
今すぐ抱擁してメチャクチャに蕩けさせたいという本能を、ギリギリの理性で制す。スー、ハー、と自分を落ち着かせるように深呼吸をしていると、アルガがくぐもった声でつぶやいた。
「なあ、ソル」
「……ん?」
「お前さ」
「うん」
「何で、挿れないんだよ」
その小さな呟きに、途端ソルはゲホッっっと咽せた。思わずアルガから手を離して、背中を丸めて咳をする。アルガはそんなソルを怪訝そうにシーツの中から見つめる。
「お、おま、いきなりミレーナみてえなこと言うな」
「お前がいつもそういうことしてくるからだろ。でも、ずっとおかしいと思ってた、お前が、その……一向に、俺を抱かないのを」
アルガの表情に、どこか暗い影が気がした。珍しく打ち明けるような言葉に、ソルは驚いて、しばし沈黙する。
「俺が………汚れてるからか」
アルガは重ねて、小さく声を漏らす。羞恥や哀しみがない混ぜになった、複雑な響き。
自分の身体はすでに、純真無垢ではない。あの悪魔の「儀式」は、いつしかエスカレートしていき、彼の身体を芯まで犯していた。自分がそれに抗えなかったこと、されるがままに、応じてしまっていたこと—————
今までも、ソルに触れられるたびに、度々そのフラッシュバックが襲っていたことは事実だった。
『お前には「夜の儀」の才能があるな。淫魔の血のおかげか』
父の、静かな笑みが思い出される。彼が誉めてくれた数少ないもの—————それはアルガの承認欲求を、錯覚的に満たした。嫌なはずなのに、父に認められたいという想いが、刻まれる快楽の心地よさを増幅させていく。
自分が嫌いだった。淫魔の血を引いていることが、道具にされていることを知りながらも、それに縋ってしまったことが。
「違う」
と、その時。ソルの声が隣ではっきりと響いた。
「大切にしたいから」
そんなソルの言葉に、アルガは微かに目を見開いて彼を見上げる。
「俺さ、女の子との経験しかないから」
どことなく気まずいように言ったソルに、アルガは少しだけ、胸がチクリとするのを感じた。
……ああ、そうだ。時々忘れてしまうが、こいつは「陽光の国」の者。
彼の今までの人生はそこにあって、自分の知らないことや、もちろん関係もあったのだろう。だって、簡単に乱れさせてくる彼の指や唇は、経験のない者の手つきではない。
「でも男同士の行為はしたことない。だから、うーん……受け入れる方の負担とか、よく知らねえ」
ソルは少し考えを巡らせるように、呟く。一瞬、なぜか安堵している自分がいるのに気づく。そう、か。俺が初めての、ソルにとっての男——————。
「それに、お前が嫌な経験をしてきたのなら尚更、俺はそうはなりたくない」
ソルの確かな言葉に、じわりと胸がアツくなった。自分を尊重し、受け入れ、気遣う優しさ。それは、何かとても、大事なもののように思えた。
「………そんな、理由だったのか」
「まあー……とは言ってるけど、俺の覚悟が足りねえだけかも」
はは、と乾いた笑いを零すソル。
「俺もその意味で、『処女』じゃん?ちょっとドキドキするというか」
「それは処女って言わねえよ」
「でも、お前と繋がんのはやっぱ……その場のノリとか、合意なしで、とかは絶対嫌だから」
真っ直ぐにこちらを見つめる瞳に、キュン、と胸が締め付けられた。どこまでも、大切にされる。揺るぎない安心感と信頼に、もう疑うという感情ごとかき消される。
想いが溢れて、いつの間にか、手を伸ばしてソルに抱きついてしまっていた。その温かい心音を間近で感じたくて、頬を擦り寄せる。
「…っ!やめろやめろ、離れろって!」
グッと強い力で押し返され、アルガは目を瞬かせた。
「……何でだよ」
「また手出したくなるから。でも休ませるって決めた」
「……」
「もう寝る。俺は健全で理性を持った誠実な勇者だからな」
ソルはそう言うと、微かに染まった頬を隠すように寝返りをうち、こちらに背を向けた。
「っは、どの口が言ってんだ」
言い返しながら、少し寂しい想いもしてくる。でも、ソルのせっかくの気遣いを無駄にしたくない。
大丈夫だ、もう魔王がいない今、時間はたくさんある。ゆっくり、一つずつ、距離を縮めていけば……。そんな微かな希望はしかし、「ソルが父王を倒した今、『陽光の国』に帰ってしまうのではないか」という不安に苛まれ始める。
その大きな背中をじっと見つめた。規則的に上下する肩は、数分後には微かな寝息に変わっている。
「ほんと……犬みたいなやつ」
アルガは、小さくそう呟いて、その背に顔を擦り寄せた。
10
あなたにおすすめの小説
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる