魔王サマの光堕ち 〜父の期待に応えて魔王をやってますが、勇者が俺を倒さないどころか溺愛してくる〜

宇地流ゆう

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18. 大切

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 「………どうしてこうなった」

 アルガは、ジト目で天井を見つめながら、低くつぶやいた。

「え?なんかいいじゃん、夫婦みたいで♡」

 ソルは相変わらず軽やかに言い、アルガの首後ろにまわした手で、その柔らかい黒髪に指を通す。

「いつ夫婦になった!!」

「同棲、ダブルベッドで就寝、もう夫婦じゃね?」
 
 ベッドが小さいせいで2人の身体は密着し、ソルはその大きな腕をアルガの頭の下に置き、寄り添って天井を見つめている。確かに側から見れば、もうカップル—————いや、それを通り越して夫婦だ。

「おかしいだろ!」

「しょうがねえじゃん、お前の寝室大破してんだから」

 —————そう、カイザールとの戦いの後、アルガの部屋はとても寝泊まりができる状態ではなかったため、アルガは仕方なく、ソルが寝泊まりしていた城の余り部屋にやってきたのである。

「絶対、変なことすんなよ、触ったら突き飛ばす」

「ん。昼散々やったから今日は寝かす」

 ソルは天井を見つめて、こくりと頷いた。彼の性質を見てきてわかったこと。それは、ソルは絶対に嘘をつかないと言うことだ。—————まあ、逆を返せば、「やる」と言ったことは本当にやるので恐ろしいところもあるが。

「………」

 アルガはどことなく落ち着かない様子で、シーツの中でもぞっと動く。ソルへの信頼感と安心感、そして、少し近づきたいという想い。アルガはふと、温もりを求めるように、微かにソルに擦り寄って顔を埋めていた。

 は!?うっわ、……なんだこのかわいい生き物!!自分から触れるなと言っといて……

 本人はわからないようにしているつもりだろうが、ソルが感じ取らないはずがない。その小動物のような行動に、ソルは静かに悶える。

 いや、だめだ我慢しろ、俺。アルガは疲れてんだよ。

 今すぐ抱擁してメチャクチャに蕩けさせたいという本能を、ギリギリの理性で制す。スー、ハー、と自分を落ち着かせるように深呼吸をしていると、アルガがくぐもった声でつぶやいた。

「なあ、ソル」

「……ん?」

「お前さ」

「うん」

「何で、挿れないんだよ」

 その小さな呟きに、途端ソルはゲホッっっと咽せた。思わずアルガから手を離して、背中を丸めて咳をする。アルガはそんなソルを怪訝そうにシーツの中から見つめる。

「お、おま、いきなりミレーナみてえなこと言うな」

「お前がいつもそういうことしてくるからだろ。でも、ずっとおかしいと思ってた、お前が、その……一向に、俺を抱かないのを」

 アルガの表情に、どこか暗い影が気がした。珍しく打ち明けるような言葉に、ソルは驚いて、しばし沈黙する。

「俺が………汚れてるからか」

 アルガは重ねて、小さく声を漏らす。羞恥や哀しみがない混ぜになった、複雑な響き。

 自分の身体はすでに、純真無垢ではない。あの悪魔の「儀式」は、いつしかエスカレートしていき、彼の身体を芯まで犯していた。自分がそれに抗えなかったこと、されるがままに、応じてしまっていたこと—————

 今までも、ソルに触れられるたびに、度々そのフラッシュバックが襲っていたことは事実だった。

 『お前には「夜の儀」の才能があるな。淫魔の血のおかげか』

 父の、静かな笑みが思い出される。彼が誉めてくれた数少ないもの—————それはアルガの承認欲求を、錯覚的に満たした。嫌なはずなのに、父に認められたいという想いが、刻まれる快楽の心地よさを増幅させていく。

 自分が嫌いだった。淫魔の血を引いていることが、道具にされていることを知りながらも、それに縋ってしまったことが。

「違う」

 と、その時。ソルの声が隣ではっきりと響いた。

「大切にしたいから」

 そんなソルの言葉に、アルガは微かに目を見開いて彼を見上げる。

「俺さ、女の子との経験しかないから」

 どことなく気まずいように言ったソルに、アルガは少しだけ、胸がチクリとするのを感じた。

 ……ああ、そうだ。時々忘れてしまうが、こいつは「陽光の国」の者。
 彼の今までの人生はそこにあって、自分の知らないことや、もちろん関係もあったのだろう。だって、簡単に乱れさせてくる彼の指や唇は、経験のない者の手つきではない。

「でも男同士の行為はしたことない。だから、うーん……受け入れる方の負担とか、よく知らねえ」

 ソルは少し考えを巡らせるように、呟く。一瞬、なぜか安堵している自分がいるのに気づく。そう、か。俺が初めての、ソルにとっての男——————。

「それに、お前が嫌な経験をしてきたのなら尚更、俺はそうはなりたくない」

 ソルの確かな言葉に、じわりと胸がアツくなった。自分を尊重し、受け入れ、気遣う優しさ。それは、何かとても、大事なもののように思えた。

「………そんな、理由だったのか」

「まあー……とは言ってるけど、俺の覚悟が足りねえだけかも」

 はは、と乾いた笑いを零すソル。

「俺もその意味で、『処女』じゃん?ちょっとドキドキするというか」

「それは処女って言わねえよ」

「でも、お前と繋がんのはやっぱ……その場のノリとか、合意なしで、とかは絶対嫌だから」

 真っ直ぐにこちらを見つめる瞳に、キュン、と胸が締め付けられた。どこまでも、大切にされる。揺るぎない安心感と信頼に、もう疑うという感情ごとかき消される。

 想いが溢れて、いつの間にか、手を伸ばしてソルに抱きついてしまっていた。その温かい心音を間近で感じたくて、頬を擦り寄せる。

「…っ!やめろやめろ、離れろって!」

 グッと強い力で押し返され、アルガは目を瞬かせた。

「……何でだよ」

「また手出したくなるから。でも休ませるって決めた」

「……」

「もう寝る。俺は健全で理性を持った誠実な勇者だからな」

 ソルはそう言うと、微かに染まった頬を隠すように寝返りをうち、こちらに背を向けた。

「っは、どの口が言ってんだ」

 言い返しながら、少し寂しい想いもしてくる。でも、ソルのせっかくの気遣いを無駄にしたくない。

 大丈夫だ、もう魔王がいない今、時間はたくさんある。ゆっくり、一つずつ、距離を縮めていけば……。そんな微かな希望はしかし、「ソルが父王を倒した今、『陽光の国』に帰ってしまうのではないか」という不安に苛まれ始める。

 その大きな背中をじっと見つめた。規則的に上下する肩は、数分後には微かな寝息に変わっている。

「ほんと……犬みたいなやつ」

 アルガは、小さくそう呟いて、その背に顔を擦り寄せた。
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