俺のスローライフが、美少女どもに蹂躙されている

シワルキ・イナガ

文字の大きさ
1 / 24
第一話『アマダランの政変』

1-1

しおりを挟む
 その山の木は、二人だけの秘密だった。



 俺と「彼女」は、そこで育ったようなものだ。幼いころから二人でそこに行き、遊び、持ってきたごはんを食べた。



 お互いの立場は、いつしか変わっていった。幼なじみから恋人へ、そして夫婦へと。



 就いた仕事はつらかったけど、なんとか頑張れた。それも妻と、おなかに芽生えた小さな命があるからだった。



 ――終わりは、突然やってきた。



 流行り病だ。どこからか病気をもらってきた妻は、その日の夜には高熱を出し、救急車で入院。一か月ほど頑張ってくれたが、その後、あっさりと逝ってしまった。



「あの木の下で、また過ごせたらいいね」



 うつろな目をしながら言う妻の手を必死に握り、俺は誓ったんだ。



 どれだけ月日が過ぎて、たとえ生まれ変わってしまったとしても、二人で必ず会おうと。



 あの木の下で。



                ◇



「……ああ、寝ちまってたか」



 目を開けると、自分の両足が見えた。



 背中に硬い感触がある。あの木だ。



 忙しくもむなしい日々の合間を縫い、こうして山に出かけ、木の下で腰かけていた。傍らには妻の遺影を携えて。



 いい天気だ。見上げれば青空と、そして鮮やかな緑の葉が茂った木の枝が――。



 ない。



「えっ?」



 強烈な違和感を感じ、俺は目を見開いた。



 茂っていない。まるで冬のように枝が枯れてしまっている。



 辺りを見回した。そして二度ビックリした。



「山じゃ……ない」



 ふもとから歩いて一時間はかかる距離のはずだった。周囲には森が広がっているはずだ。



 それが、ただのなだらかな平地になっていた。何度まばたきしても、現実の映像は変わってくれない。



 立ち上がり、改めて周りを確かめる。



 木の幹は――多少痩せ枯れてはいるが、あまり変わっていない気がする。ただ、寝る前と同じものはそこだけだ。



 あとは、全く違う光景だった。



 緑の平原。牛や馬でも放牧されていそうなくらいだ。



 森はそこかしこにある。遠くに山も見える。



 そして、真横に一軒の家。



「なんだこれは、タチの悪い夢か?」



 白日夢か、それとも明晰夢ってやつか。しかし何度自分の頬をはたいてみても、ただヒリヒリ痛むだけだ。



 混乱する俺の頭に、一つの選択肢が浮かんだ。



 ――この家を調べるか、それとも遠ざかるか。



 誰かいるかもしれない。ここが日本かどうかも分からないんだ、何か武器でも持っていたら、自分は抵抗できずにやられてしまう。



 くるぶしほど高さのある草を踏み分けて、俺は足を進めた。



 目線は家のほうに向けたままだ。自分がいる側の壁に窓がついていたが、中は暗く、何も見通すことができなかった。



 なるべく音を立てないように、すり足で歩く。折れたところにドアがあった。きっちり閉まっている。



 よくよく見てみると、古い、と感じた。ドアノブなどはなく、黒い鉄の取っ手がついている。



 まるで倉庫か、それともファンタジーの世界によくある中世風の建物か……。



 ゴクリと唾を飲み込み、取っ手に手をかけた。静かに開けていく。



 ――誰もいない。



 中にあったのは、丸テーブルに二つの椅子。奥には木製のベッド。



 それから手前の壁際。台所なのだろうか、広くとられた窓から光が差し込んでいるその場所は、下の穴に薪が詰まっており、台の上には灰と墨。さらに天井から鎖が延び、鍋がその下にぶら下がっていた。



 なんだか殺風景のような、温かみを感じるような。



 誰かがここで生活をしていたのは確かだ。もしくは「している」のかもしれないが。



 ほかに、小さなチェストがあった。中を開けてみると、調味料らしき粉や粒が入った瓶がいくつか、そしてキャベツらしき葉物野菜とトマトがあった。



 ……いや、手にとってよく見てみると、何かが微妙に違う。別に俺は農家じゃないから詳しくもないが、スーパーなどで見るそれらの野菜とは違うものに感じた。



 腹は少し減っている。しかし、勝手に調理して食うわけにもいくまい。



 かがんで野菜をチェストに戻そうとする。



 そのとき背中から声がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...