俺のスローライフが、美少女どもに蹂躙されている

シワルキ・イナガ

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第一話『アマダランの政変』

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「じゃあ、それを未然に防ぐためにはどうしたらいい?」



「それも簡単。現状のまま魔躯の侵略を止めればいい」



「そのために必要なのは?」



「竜の巫女、紅蓮隊、自警団。そして……」



 ひと呼吸置いてから、エリーザは隣のシルビィに顔を向けた。



「世界樹の巫女・シルビィ。あんたの力だ」



 言われたシルビィは、相変わらずうつむいたまま話を聞いていたが、その様子は徐々に変わってきていた。



 時折、顔の前で組んでいた両手をぎゅっと握るしぐさをしていた。そしてエリーザに名前を呼ばれたとき、最も強くそれを握ったのだ。



「あのさ、アマダランの竜の巫女って、どんな感じなの?」



 ロロッカが訊く。確かにそれは知っておきたい情報だった。



「あの人はねえ……すごい人さ」



 憧れの人を語るかのような口調で、エリーザは話し始めた。



「まず言葉で人を引っ張れる。あの人の言葉を聞くと、みんな勇気が出るんだ。ちょっと普通の人からは変な感じに聞こえるかもしれないけどね」



「変な感じ?」



「あー、なんというかね……。ときの声って分かるかい? あの人の言葉で、みんながガッと背中を押される感じがするんだ。そんで気合が入る。たとえ相手が魔躯だろうとカオスボーンだろうと、勇気を持って戦えるんだよ」



 リーダーとして適格だ、ということだろうか。



 確かにそんな存在が先陣を切って戦ってくれたら、みんなついていこうと思うだろう。



 しかし、それよりも根本的な疑問が頭をもたげてきた。



「今さらなんだが、竜の巫女っていうのはなんなんだ?」



「……は? おいこのオッサン、年いってるうえ金もなくて、そのうえ知識もないのかよ」



 めっちゃボロクソに言ってくるなあ。しまいには泣くぞ。



「竜の巫女ってのはー、ここんとこ売り出し中の巫女さんさ。15年ぐらい前だったかな、その時期から存在を認識され始めたと思う。最初はアマダランの地方から名を上げていったようだが、ハーマで魔躯をブッ倒している姿が目撃されてからは、人気はうなぎ上りさ」



「つまりは正義の味方だと? 世界樹の巫女とは、また別の」



「そうなんじゃねえの? 別に出自なんて関係ないさ、助けになってくれるならな。民衆にとって正義の味方って、とどのつまりはそんなもんだろ?」



 それは、確かにそうだが……。



 俺が子供のころ見ていたヒーローものとか、海外コミックの主人公だって、よく考えてみれば怪しげなやつも多かったもんな。人を助けてくれるから支持されてはいたものの。



 しかし、また15年前とは。そのワードが出てくるたびに、俺の心がうずいてしまう。



「助けといえば、さっきのケンカだよ。巫女さんがなんとかしてくれたのかと思ったら、そっちの小さいほうの巫女さんが1人でやってくれたんだって?」



「え? あー、あはは」



 再び話題に出されて、照れたような、謙遜したような表情をロロッカはしている。



「ちょっと熱くなりすぎちゃったかも。ごめんねシルビィ、先走っちゃって」



 シルビィは口元だけで笑った。ロロッカの行動よりも、自分が何もできなかったことに後悔しているようなそぶりだった。



 そこからしばらくエリーザが質問し、ロロッカは身振り手振りで先ほどの戦いの様子を語り始める。俺はその光景を眺めながら、おもむろにHIDを立ち上げた。



『データベースが更新されています』



 初期画面に『データベース』という新規項目が追加されている。そしてウィンドウ右上には「〇」が点滅していた。



 〇は何かしら更新がなされたときの目印だろう。データベースを開くと、確かに新しい情報がいくつか追加されていた。



 グーパンチ、フロントスープレックス……。ロロッカの使った技だ。HIDはそれを確認しては記録しているのだろう。俺の視覚と連動して。



 しかし……俺が分かりやすいように翻訳してくれているのかもしれないが、これらの技、どう見てもプロレスのそれだよな。まさかこっちの世界でこの名前を見ることになるとは思わなかった。



 俺は顔の角度を変えて、ロロッカにウィンドウを合わせる。すると彼女の基本情報が表示された。
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