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しおりを挟むどこ行くんだよ、って聞いても返事をしてくれない柊一に連れて来られたのは、ラブホテルだった。
初めて来る場所にドキドキしながらも、柊一はずっと怒っててときめくどころじゃない。
雑にベッドに放り投げられて、スプリングで体が弾む。
間髪入れずに不機嫌な柊一が覆い被さってきて、乱暴に口付けられた。
「ん、っ……!」
この一年で上達した舌遣いをこれでもかと披露されると、好きな人という欲目が頭をもたげて抵抗出来なかった。
柊一との逢瀬は本当に数え切れない。
どこに居ても突然求めてくる柊一の必死さが愛おしくて、俺もすぐ流される。
「一週間離れてみてどうだった?」
「え、?」
何分も舌を交わらせていた艷やかな柊一の唇が、意地悪く歪む。
「俺と別れるなんて無理だって気付いてくれた?」
「それは……」
「俺は無理。龍之介に抱かれてうっとりしてた葵は誰でもいいのかもしれないけど、俺はそうじゃない。葵がいい」
「違う、うっとりなんかしてない! あれは……!」
「なんだよ」
そう見えてたとは思わなくて全力で否定すると、柊一の整った顔が近付いてきて思わず視線を逸らす。
身を引くんだって堅かった決意が崩れ始めた。
「柊一に抱かれてる気になって、しまって……」
「俺に抱かれてればいいじゃん。なんで急に別れるとか言い出したんだよ。この一週間、ずっと俺の事見てたの知ってるんだぞ」
「え……っ」
「俺の事好きだって甘ったるい顔して。それなのに別れられるわけないだろ」
「でも、でも、俺が居たら柊一の事を好きな女の子達が泣いてしまう……! 俺が居なくなれば、柊一も気兼ねなく告白受けられるかなって……」
「は?」
説明せずには居られない状況に追い込まれて、俺は意を決して思ってた事ぜんぶ打ち明けた。
たどたどしく説明する俺を見詰めていた柊一の瞳が、だんだん優しくなってくる。
俺なりに心を痛めて、身を引いた方がいいと思ったって話すと……柊一は優しく頭を撫でてくれた。
「あのさ、告白してきたのが葵だったから俺は付き合ってるんだよ。なんで好きでもない子に同情しなきゃなんないわけ。断る時も別に傷付いてないし」
「だ、だって俺……男、だし……暗いし……なんで付き合ってくれてるんだろってずっと思ってて……」
「さっきも言ったけど、甘ったるい顔して毎日見られてたら気になるに決まってるだろ。葵から告られた時、俺は即答だったはずだけど」
「うん……」
「別れるとか言ってごめんなさい、は?」
互いの唇が触れ合う寸前の位置で止めた柊一が、イタズラに笑う。
明るく言ってるけど、これは相当怒ってる。
まだ許せないんだと思う。
俺の突然の別れ話に柊一も肝が冷えたんだと、その笑わない瞳が訴えかけてきた。
「……ごめん、なさい……」
「次言ったら放置じゃ済まないからな。これからは思ってる事があるんなら言ってよ。俺まだまだ十七歳のガキだけど、もっと葵に頼りにしてもらえるように成長するから」
「柊一……」
「俺の事好きって言ってよ、葵。一週間も聞いてない」
柊一がふわりと俺を抱き締めた。
ふかふかの広いベッドの上で、ピタリと密着した柊一の鼓動が間近に聞こえると、彼の言った事は正しかったと認めざるを得ない。
「……好き。好きです」
「いいよ」
一年前、激しかった雨音にかき消される事なく告白した言葉そのまま言ってみると、柊一は顔を上げ、あの日と同じ返事で優しく微笑んでくれた。
ぎゅっと抱き締めてくれる柊一の腕にしがみつきながら窓の方を向くと、カーテンの隙間から雨模様が垣間見える。
柊一と付き合って一年が経ち、今日また新たに付き合い始めたって事に…なるのかな?
俺達の記念日はいつも雨模様だね。
── 柊一。
終
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