22 / 195
3
3一2
しおりを挟むいかにも悪そうな仲間数人の先頭で歩く三白眼を見つけ、その者は周囲を圧倒しその辺のチンピラ達をもペコペコさせていた。
しばらくその様子を見ていた由宇達は、見付かると面倒だと互いに気持ちが通じ合い、同時に回れ右する。
「おいコラ、お前らうちの生徒だろー」
背中にそう声を張られ、二人で「逃げるのが遅かったな」と視線で会話した。
生徒相手にその口の利き方はどうかと思う、由宇は瞬時に言い返したい衝動をグッと抑えて、怜がいる前なので無視を決め込む。
怜の家族を苦しめている橘(の、婚約者)なんか大嫌いだから、シカトをしても許されるはずだ。
「あ、ぷんぷん丸じゃん。 そっちは園田怜か。 お前らこんな時間に何してんの」
「……言う必要ないですよね。 俺ん家に帰るとこですから。 失礼します」
よく見ると橘はいつものクールビズ仕様のまま、左腕には学校の校章が描かれた腕章を付けていた。
橘が言っていた例の「舎弟」を引き連れて、単に街を闊歩していただけではないような気配に、由宇は少しばかり柔軟に目の前の輩達を見た。
すでに怜は踵を返して歩いて行ってしまったので、由宇も後を追おうとしたのだが。
「家近いのか?」
気が付くと由宇の目の前まで迫っていた橘に見下されていて、逃げ腰のままウンウンと頷いておく。
断固として喋りはしない。
「ふーん。 今日はひょろ長のとこに泊まんの?」
由宇はもう一度頷いて、怜を追い掛けようと振り向くと真後ろには怜が戻ってきていた。
いつの間に、と思いつつも橘と取り巻きが怖くて後退ってしまう。
怜は橘へ強い視線を返しながら、ビビり上がる由宇の腕を取った。
「家は学校のすぐそばです。 由宇、行こ」
「う、うん」
休日にまで憎い橘の姿を見てしまったからなのか、怜はいつになく怖い顔で由宇の腕を引いている。
橘と取り巻きからはぐんぐん遠ざかって、物言いたげな無表情の橘はそれ以上追っては来なかった。
怜が腕を握る力が強過ぎて少しだけ痛かったが、そんな事を言い出せる空気でもなくて、由宇は連れられるままに怜の自宅へと着いた。
現在ほぼ一人で生活している怜にとっては、いきなり家族の輪を乱し破壊させた女性を恨むのも仕方がない事だし、それをほったらかしている橘にも怒りが向かうのは当然だ。
キッチンに入るなり無言で料理を始めた怜に、ソファにちょこんと座った由宇は掛ける言葉が見つからなかった。
正直、橘に婚約者がいるというのも驚きだったが、その婚約者が浮気をしているのを見て見ぬフリしているだなんて、由宇にはまだ信じられずにいる。
あんなに正義感たっぷりに由宇の悩める事件を解決してくれた人が、みすみす浮気を、しかも家庭を壊す恐れのある不倫というものを果たして許すだろうか。
(なんか腑に落ちないんだよなー……)
見詰める先には、何かを忘れたいと望むようにもくもくと料理を仕上げている怜の姿があって、この現実を目の当たりにすると由宇の中の疑問は深まるばかりであった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる