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しおりを挟む駅を降りて、怜の自宅マンションまでの近道さえすっかり覚えてしまった。
由宇は勉強道具がぎっしり入ったリュックを背負い、右手にはアイスの入った袋を持って裏道を急いでいた。
まだ夕方とはいえ、人通りの少ない寂しい道なので気持ち早歩きになってしまう。
横着せずに大きい人通りの多い方に行けば良かったと後悔しかけていた由宇は、目線の先に怪しいグループを見付けて急ブレーキをかけた。
(あれ……また橘先生だ……)
裏道を抜けた先のこじんまりとした公園に、橘と舎弟五人が居た。 思わず由宇はコソコソと物陰に隠れて様子を窺う。
橘の前にズラッと並んだ舎弟達に何やら叱咤する声が飛んでいて、とても出て行ける状況ではなかった。
やたらと遭遇してしまうのは、この辺が橘の縄張りなのかもしれないと気付いて由宇はハッとする。
「お前らアイツの居所まだ分かんねぇの? 揃いも揃って役立たずか」
「……いやでも風助さん!」
「でもは聞かねー。 早く見付けて俺の前に寄越せ。 事情は話しただろうが。 一刻を争うんだよ」
「はい! 何としてでも見付けます!」
「有言不実行だと俺の蹴りが飛ぶぞ。 行け」
一喝された舎弟達は急いで路駐してあった車二台に乗り込んで行ったが、橘はそこに佇んでタバコをふかし始めた。
物騒な会話を立ち聞きしてしまい、そこに橘が居るせいで出るに出られない由宇は、しゃがんだまま今のほんの少しの会話を反芻する。
(誰かを探してるんだ……。 誰だろう)
由宇には橘の目的の人物の見当すら付かなかったが、あの雰囲気的に探し出したら容赦なく制裁を加えそうだ。
……恐ろしい世界。
完全に橘をそっちの道の人だという妄想で背筋を震わせた由宇は、いつ出て行こうかと唇を真一文字に結んだ。
ガサガサっとアイスの袋が音を立てる前に、夕焼けに染まった空を見ながら煙を吐く橘が、唐突に「もういーよー」と声を張ってビクッとした。
まるでかくれんぼの隠れる側のような言い回しに、気付かれてたんだと冷や汗が噴き出す。
「何してんだよ、お前。 俺の事尾けてんの?」
「そんなわけないだろ! ……あ」
「やっと口利いたな。 最近またぷんぷん丸復活しやがって。 ぷんぷん丸どころかぷんぷんぷんぷん丸だったよな」
「なんだよそれ!!」
ザッ、ザッ、と砂利を踏む音を立てながら由宇のもとへやってきた橘は、ゆっくりしゃがんで視線を合わせてくる。
(しまった、シカト作戦が……っ)
足が痺れて立ち上がれない由宇は自然と橘と見詰め合う形になり、久しぶりの悪魔顔との対面にムムムッと不機嫌を顕にせざるを得なかった。
「橘先生こそ、俺の行くとこに必ずいるだろ!」
「たまたまじゃん? 俺ん家この辺じゃねーから土地勘ないし」
「じゃあなんでこんなところに!」
「……お子様は知らなくていー事。 じゃな」
ふっと口角を上げて凄まれ、由宇は「お子様」と言われて怒鳴り返そうとしたが、踵を返した橘の背中に言葉を投げ掛ける事はしなかった。
「なんだよ、子ども扱いして……」
一体誰を探しているんだろう。
それは由宇に教えてもらう権利など無い事も、首を突っ込むべきじゃない事も分かってはいても、橘の行動はどうしても気になる。
なぜ婚約者を野放しにしているのか、舎弟とはどういう意味なのか、謎だらけな橘の事が頭から離れなかった。
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