個人授業は放課後に

須藤慎弥

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 翌日から、真琴の猛アタックが始まった。

 怜はあの晩、とにかく静かにしてくれるなら泊めると条件を出し、真琴と一晩一緒に過ごしたらしいが、まだ何も起きてはいないようだ。

 ただ、毎日昼休みと放課後に怜の元へ真琴がニコニコでやってくる生活を一週間も続けていると、「今日は遅いな……」などと怜は時計を見て溢し始めている。

 無人となった放課後の教室で、由宇と怜は真琴を待っていた。


「……怜、すっかり真琴のペースじゃん」


 由宇はというと、放課後は橘との個人授業があるので、今まで仕方なく怜は一人で帰宅していたのだが最近は真琴が一緒で寂しくはなさそうだ。


「そんな事ないよ。  あの子ほんとどうにかならない?」
「照れちゃって。  今日の昼休みも真琴来るまで弁当に手付けなかったよね。  やっぱ怜は押しに弱いタイプだったな~」
「由宇っ。  俺は由宇の事が好……」
「怜様お待たせ~!!  橘先生が絡んできて怖かったよー!」


 ブレザーの下にフード付きのパーカーを着用しているからか、真琴は度々色んな教師から注意を受けている。

 カッターシャツは寒いんだもん!と無邪気さ全開で教師にも文句を言うので、そろそろ親に連絡がいく頃かもしれない。

 恐らく橘もその件で真琴に絡んだのだろう。

 けれど、由宇はそんな真琴がとても羨ましい。  由宇が言いたい事を全部言うなんて、橘にしか無理だった。

 誰が相手でも変わらない態度と、折れない強靭なハートはさすがだと思う。


「由宇、橘先生が早く来いってよ~!」
「あー……うん、分かった。  ありがと。  じゃあまた来週ね、怜、真琴」
「由宇、ツラかったらいつでも連絡して」
「うん。  ありがと」
「由宇、また来週ね~!」


 ニコニコな真琴に手を振って見送られる。

 「恥ずかしい」と照れるかと思いきや、話した当日から怜と仲良くなれて、真琴は毎日本当に楽しそうだ。

 由宇へのLINEメッセージは以前の半分ほどに減っているが、それでも毎日欠かさず届く。

 何気ないスタンプや、もちろん怜の事、進学校故に、勉強についても。

 それらは由宇を友人として接してくれているのが分かって、思いがけない出会いは由宇の方にもあったと実は喜んでいる。

 若干うるさくて空気が読めない所はあるけれど、怜と友達になれた時のような照れくさい友情の始まりは、どうしたって嬉しいものだ。

 廊下へ出ると、お決まりの二人のやり取りが耳に入った。


「怜様!!  明日は貴重な土曜休みだから、お泊りしたいなー!」
「嫌だよ。  君といると疲れるんだって」
「ふっふっふっ~!  そんなとこも好き!」
「公衆の面前って言葉を今すぐスマホで調べて」
「それなに~?  カタカナでしか浮かばなかった!」
「……なんでこの学校に入れたの?  カンニング?」
「違うよ!  おれの実力っ!!」


 言い切った真琴に、フッと怜が優しく微笑んだ。


(なーんだ。  あの二人、時間の問題じゃない?)


 なんとかならない?と言う怜の言葉とは裏腹に、あのやり取りは由宇にはイチャついているようにしか見えなかった。

 そういえば二人は連絡先の交換はしたのだろうか。


(あの様子じゃ、してるよな)


 真琴の恋がみるみる形になってきて、由宇の内心は喜び半分、羨望半分だ。

 一方の由宇は、好きでいてもいいやと開き直ってからは橘との個人授業もツラくない。

 むしろ楽しくて仕方が無かった。

 仏頂面の悪魔をこんな風に見てしまう日が来るとは、入学式当時からはとても考えられない。

 偶然かもしれないけれど、あの日橘がくれた三枚の桜の花びらは、パウチした状態で生徒手帳に挟んで毎日持ち歩いている。

 すっかりドライフラワーのようになってしまっているけれど、これを見ると少しだけ勇気が出るのだ。

 この半年強、由宇のこれまでのささやかな人生の中で一番濃密なる時を過ごした。

 本当に色んなことがあって、笑って、泣いて、悩んで、いやらしい事も覚えて、由宇はひと皮もふた皮も剥けた気がしている。

 自身の心の成長が大きなところで、恋を知った由宇は背伸びをしながらも一つ大人に近付いた。


「遅えよ」
「はいはい、ごめんなさーい」
「お前最近態度悪くね?」


 生徒指導室の扉を開けると、いつも通り椅子ではなく机に腰掛けている橘に咎められたが、まったく気にならない。

 この不機嫌そうな物言いこそが橘だからだ。



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