恋というものは

須藤慎弥

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◆ 年下の理解者 ◆

第六十八話※

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 潤はスマホ片手に寒空の下まで出て行った。

 瞳で制されてしまった天はというと、ふわふわとフェロモンを漂わせたまま動けない。 何となく、置き去りにされたという寂しい感覚に陥っていた。

 通話相手は誰なのか……鼓膜に焼き付いている女性の声が思い浮かび、それを打ち消すかのように別の相手である可能性を思う。

 年明け早々何日も外泊をしている潤の両親から、いつ帰るのかとせっつかれでもしているのではないか。 都合のいい思い込みのすり替えかもしれないが、無い話でも無い。

 自身では感じる事の出来ないフェロモンの放出を指摘され、素早く布団を敷いた潤の思惑はいくら "にぶちん" な天でも分かった。

 夫婦の関係修復がうまくいった事に喜びを感じながら、やたらと心配してくれる豊の声音が心地いいと思ってしまったのも本当だったが、それがフェロモンを誘発するほどの事であったのか……天自身には分からない。


「───潤くん、……っ、今の、……っ」
「ん? あぁ、電話の相手?」


 通話を終えて戻ってきた潤は手を洗い、暖房で指先を温めてから天の両頬に触れた。

 それからすぐだ。

 押し倒され、ジーンズと下着を一緒くたに脱がされ、首根っこを掴まれたのは。


「ぅ、ん……、誰だった……?」
「気になるの?」
「……ご両親かな、って、……っ、」
「そんなわけないじゃない。 僕は信用されてるから、友達の家に泊まりに行くって言えばあとは放任」
「え、……っじゃあ……!」
「天くんの想像と違わないと思うよ」
「…………っ」


 天の性器をふにふにと弄ぶ潤は、頭がいいというか察しがいい。 二択だったはずが一択になってしまい、露骨に傷付いた天の体が一瞬だけ竦んでしまう。

 発情してません、とは言えない天の性器は触れられる喜びをすでに知っていて、潤の掌に先走りを滲ませていた。

 どういう気持ちで潤が天のものに触れているのか、フェロモンにあてられて本能の赴くままに行動しているだけのように見えた天は、性器を握る潤の腕を弱々しく取った。


「やめ、っ……やめようよ、……! 俺、ここまで潤くんに、迷惑かけられない……っ、もう遅いかもしれない、けど……! 今ならまだ……っ」
「……僕がやめちゃったら……このフェロモンはどうやって抑えるつもり?」
「それ、は……」
「さっきの人を呼んで、助けてもらう?」
「えっ、……っ!?」


 そんなつもりで言ったのではない。

 潤があとから後悔しないように、手遅れかもしれないが年上らしく拒否抵抗しているだけだ。

 ほんの少しだけ、豊がここへ来るという小さな小さな妄想だけはしたが、まさか後孔に触れられるとは思いもしない。


「……ちょっと、天くん。 におい濃くなったんだけど。 想像しないでよ」
「なっ、ち、違っ……想像なんかしてない! ん、んんぁ……っ」


 潤と目が合う度にどんな抵抗も無駄になる。

 性器への刺激が途絶えたかと思うと、潤の右手はついにこの二日触れられる事の無かった場所へ伸びていた。

 これまで、自分でも怖くて触れていない秘部。 首を抑えられたままなので、まるで腕枕をされているかのような愛され体位での愛撫。

 指先を舐めて濡らし、くぷっと中指を挿れられ思わず喉を鳴らした。


「…………ッッ!」
「すごい……とろとろ……」


 潤の声が近かった。

 じわじわと押し入る指は優しさで溢れてはいる。 禁断の場所を潤から拓かれている事にドキドキもしていた。

 ただし、恥ずかしくてどうしようもない中、唾液でほんの少し濡らしただけのそれが難無く入って行く訳に気付くと瞳を開けていられなくなった。

 触れられるのは初めてなのに、まるでこの手の上級者のようにΩの特性上悲しいほどに濡れそぼり、感じてしまう。


「ん、っ……はぁ、……だめ、潤くん……だめだって、……あ、んぁ……っ」
「挿れたりしないから「だめ」って言わないで。 気持ちよくなってくれたらそれでいいの。 にぶちんな天くん」
「ふぁ……っ、……っ……も、……っ……」
「天くん、キスしていい?」
「……っ!? だ、……だ……」
「だめ、でしょ。 それは聞かない」


 指が内襞を容赦なく幾度も擦り上げている。

 そんな最中に、ただただ甘いだけのキスを受けた。 舌の交わらない、可愛いキスだ。

 何度「ダメ」だと言っても聞いてくれない、何を考えているのかさっぱり分からない強気な潤が怖かった。


「んっ……ん……っ……!」
「あと一本腕が欲しいや」
「……や、っ……だめ……っ、潤くんっ……だめ……っ」
「発情期、終わらないでほしいな……僕がずっとこうしててあげるのに」
「あっ……あっ……ふ、ぁっ……」


 潤の考えている事が分からない。

 発情を治してくれるのはありがたいけれど、彼は怖がる天の性をどんどんと目覚めさせてくる。

 足を絡ませて、天が内股になってしまわないように妨害した。 知らなかった快感を、潤の指一本と唇だけで次々と与えてくる。

 くちゅくちゅと音を立てながら指を抜き差しされ、どうしていいか分からない腰が悶えた。

 下腹部に力が入る。

 もうやめて、と閉じていた恐る恐る瞳を開くと、潤が天を熱く見詰めていた。


「天くん、イきそうだね」
「な、なんっ……っ?」
「中すごく締まってる。 僕の指をきゅうきゅう締め付けてくるよ。 気持ちいいね?」
「……っ……ぁあ……だめ、だめ……っ……ゆび……ゆび、うごかす、だめ……っ」
「…………可愛い……」
「あぁ……っ……潤く、ん……っ、だめ、も……イきそ……っ、だめ……!」
「触ってないのにイけちゃうの? すごいね、天くん」
「ぅ、あ、っ……あっ……っ───!」


 感心されて恥ずかしかった。

 ふわりと微笑まれて 、仰け反った顎に優しく口付けられても、挿れられた指を知らず締め付けた事によって何もかもがバレてしまいそうで、怖くて怖くてたまらなかった。

 好きな人が居る潤をここまで狂わせた自身のフェロモンが、この瞬間、憎いものから悲しいものになった。

 余韻でヒクつくそこには、まだ潤の指が入っている。


「うぅー……挿れたい……入りたいよ、この中に……」
「……っ……、だ、め……」
「…………分かってる。 分かってるもん……」
「────っ?」
「ちょっと僕、……無理だ。 あとで拭いてあげるからこのままこうしてて。 ごめんね」
「………………」


 潤はそう言うと、じわりと指を引き抜いて立ち上がり、連日と同じくトイレにこもった。

 言われなくても、動けなかった。

 何をどうすればいいのか分からない。

 孔にはまだ確かに潤の指先の感覚がある。 腹が汚れた精液の感触もある。

 射精直前に目が合ったあの瞬間、得体の知れない大きな感情が心に湧いた事も覚えている。


「……好き、なのかな……」



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