優しい狼に初めてを奪われました

須藤慎弥

文字の大きさ
12 / 206
バッティング

しおりを挟む



 二人同時に玄関を振り返り、顔を見合わせる。

 ほんとに俺ん家知ってたの、あいつ……!

 まだ確認してないけど、ほぼ確実にピンポン鳴らしたのは和彦だ。

 動かない俺を見て何を勘違いしたのか、九条君が立ち上がろうとしたのを急いで引き止める。


「ま、待って! 俺出るから」
「大丈夫か?」
「うん、ちょ、ちょっと死角に居て」
「は? なんで」
「いいからっ」


 玄関の向こう側に居る危険人物に、これ以上誤解を与えて面倒な事になりたくない。

 訝しむ九条君を、ワンルームを仕切る心許ない磨りガラスの扉まで誘導する。

 ──まるで、浮気の証拠を隠そうとしているみたいだ。

 そんなつもりも事実もないけど、心臓がドキドキしてくる。

 じわっと玄関を開けて少しだけ外を伺おうとすると、扉が勢い良く開いて大きな体が飛び付いてきた。


「七海さんっ!!」
「……わ、っっ、ちょ、……!」


 足元にドサッと紙袋を落とし、ギュッと抱き締めてくる異様な力強さ。

 昨日と同じ、優しそうで綺麗な面立ちなのにこの身動き出来ないほどの馬鹿力は、どっから湧いてくるんだ。


「頭痛いの大丈夫ですかっ? お薬飲みましたかっ? ハッ……! ほっぺた熱いですよ、熱があるんじゃ……っ!?」


 頭を撫で、ほっぺたを撫で、最後におでこに行き着いた大きな手のひらが熱かった。

 俺じゃなくて和彦の手が熱いんだろ。


「ない、熱はないから! もういいだろ、帰れ……」
「僕が昨日無理に抱いちゃったからですかっ? ごめんなさい、七海さん、ごめんなさい……っ」
「ちょっ……そんなこと言うなっ」
「何? 七海、こいつ誰?」
「あ、い、いや、あの……」


 九条君に聞かれたらマズイ事をポロッと喋りやがった和彦は、仮にも体調不良を訴えている俺を力強く抱き締めてきた。

 謝りながら、さらに腕に力を込めてきて苦しい。

 逃げようにも捕われの身になってしまい、俺は顔を歪めて必死に抵抗していると……九条君があっさり出て来て脱力した。

 あーあ……面倒な事になった。

 九条君が現れた事で和彦の力が緩み、その隙に彼の腕から逃れてやる。


「…………あなたこそ誰ですか」
「七海のこと抱いたって? 七海、ほんとなのか?」
「うっ……うぅ……っ……」
「抱きましたよ」
「………………」


 頷きたくなくて唸っていると、頼んでもないのに和彦が代わりに返事をした。

 九条君、怒ってる……俺がこんな大事な事、黙ってたから……。

 沈黙が怖くてチラと二人の表情を窺ってみた。

 声色通り、九条君は見るからにムスッとしていて、和彦もムッとした表情で九条君を睨み返している。

 この訳の分からないバッティングを、阻止しようとしてたんだよ……俺は。
 
 和彦が誤解してしまうと厄介だなって思ってたけど、二人ともが怒り出すなんて想定外だ。


「も、もういいだろ、和彦! 俺の事はほっといてくれ! 昨日の事は思い出したくないし、もう……嫌なんだってば!」
「ほっとけませんよ! 僕のせいで体調崩したのなら、僕が看病します!」


 こいつ~~~~めげないなぁ!

 ここまで言われたら、普通はすごすごと帰るよ!


「看病なんかいらない!」
「……おい七海、マジなのか? ほんとにこいつと?」
「……えぇっ? ……う、うん……。で、でも不可抗力で……!」


 和彦に文句言ってたら、後ろから九条君に腕を取られた。

 説明するのも恥ずかしいし、消し去りたい記憶を今さら思い出したくもない。

 言葉を濁して九条君を見上げていると、自由だった方の腕を今度は和彦に握られた。


「あなたも七海さんの「友達」なら分かるでしょう? 可愛いですよね、七海さん……忘れられなかった。七海さんの乱れた姿が頭から離れなくて、眠れませんでしたよ」
「~~っっ和彦!!!」


 わぁぁぁっっ!

 それは絶対に言わなくていいやつ!

 相手が九条君だからとか関係なく、言っちゃダメなやつーー!!

 俺は両サイドから両腕を取られたまま、俯いて震えた。

 無神経な和彦に怒り狂っていて、頭が沸騰しそうだ。

 頭痛薬飲んだのに、これじゃ効くはずない。外的要因が大き過ぎる。

 グラグラと眩暈を起こしそうになってたところに、九条君からグイと腕を引っ張られて部屋の中へと連れ込まれた。

 そして壁際に押し付けられて、耳打ちされる。


「七海、アイツが初めてじゃないの? てか男もいけたの?」
「それは……っ」
「ひどいじゃん。俺にはそんな事一言も言わなかった」
「だ、だってそれ、それは……!」
「俺バカみたい。この一年ずっと我慢してたのに」
「…………っ?」


 そんなの言えない、むしろ九条君のために言わなかったんだ。

 俺がゲイだって知られたら気味悪がられるかもしれない、一度は俺に告白してきた九条君が万一にも期待したらいけない、……俺はそう思ってあえて言わなかった。

 でも九条君、……我慢してた、って何を……?




しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。 想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。 悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。 ※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。 二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。

脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない

綿毛ぽぽ
BL
 アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。 ━━━━━━━━━━━ 現役人気アイドル×脱落モブ男 表紙はくま様からお借りしました https://www.pixiv.net/artworks/84182395

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

処理中です...