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バッティング
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しおりを挟む二人同時に玄関を振り返り、顔を見合わせる。
ほんとに俺ん家知ってたの、あいつ……!
まだ確認してないけど、ほぼ確実にピンポン鳴らしたのは和彦だ。
動かない俺を見て何を勘違いしたのか、九条君が立ち上がろうとしたのを急いで引き止める。
「ま、待って! 俺出るから」
「大丈夫か?」
「うん、ちょ、ちょっと死角に居て」
「は? なんで」
「いいからっ」
玄関の向こう側に居る危険人物に、これ以上誤解を与えて面倒な事になりたくない。
訝しむ九条君を、ワンルームを仕切る心許ない磨りガラスの扉まで誘導する。
──まるで、浮気の証拠を隠そうとしているみたいだ。
そんなつもりも事実もないけど、心臓がドキドキしてくる。
じわっと玄関を開けて少しだけ外を伺おうとすると、扉が勢い良く開いて大きな体が飛び付いてきた。
「七海さんっ!!」
「……わ、っっ、ちょ、……!」
足元にドサッと紙袋を落とし、ギュッと抱き締めてくる異様な力強さ。
昨日と同じ、優しそうで綺麗な面立ちなのにこの身動き出来ないほどの馬鹿力は、どっから湧いてくるんだ。
「頭痛いの大丈夫ですかっ? お薬飲みましたかっ? ハッ……! ほっぺた熱いですよ、熱があるんじゃ……っ!?」
頭を撫で、ほっぺたを撫で、最後におでこに行き着いた大きな手のひらが熱かった。
俺じゃなくて和彦の手が熱いんだろ。
「ない、熱はないから! もういいだろ、帰れ……」
「僕が昨日無理に抱いちゃったからですかっ? ごめんなさい、七海さん、ごめんなさい……っ」
「ちょっ……そんなこと言うなっ」
「何? 七海、こいつ誰?」
「あ、い、いや、あの……」
九条君に聞かれたらマズイ事をポロッと喋りやがった和彦は、仮にも体調不良を訴えている俺を力強く抱き締めてきた。
謝りながら、さらに腕に力を込めてきて苦しい。
逃げようにも捕われの身になってしまい、俺は顔を歪めて必死に抵抗していると……九条君があっさり出て来て脱力した。
あーあ……面倒な事になった。
九条君が現れた事で和彦の力が緩み、その隙に彼の腕から逃れてやる。
「…………あなたこそ誰ですか」
「七海のこと抱いたって? 七海、ほんとなのか?」
「うっ……うぅ……っ……」
「抱きましたよ」
「………………」
頷きたくなくて唸っていると、頼んでもないのに和彦が代わりに返事をした。
九条君、怒ってる……俺がこんな大事な事、黙ってたから……。
沈黙が怖くてチラと二人の表情を窺ってみた。
声色通り、九条君は見るからにムスッとしていて、和彦もムッとした表情で九条君を睨み返している。
この訳の分からないバッティングを、阻止しようとしてたんだよ……俺は。
和彦が誤解してしまうと厄介だなって思ってたけど、二人ともが怒り出すなんて想定外だ。
「も、もういいだろ、和彦! 俺の事はほっといてくれ! 昨日の事は思い出したくないし、もう……嫌なんだってば!」
「ほっとけませんよ! 僕のせいで体調崩したのなら、僕が看病します!」
こいつ~~~~めげないなぁ!
ここまで言われたら、普通はすごすごと帰るよ!
「看病なんかいらない!」
「……おい七海、マジなのか? ほんとにこいつと?」
「……えぇっ? ……う、うん……。で、でも不可抗力で……!」
和彦に文句言ってたら、後ろから九条君に腕を取られた。
説明するのも恥ずかしいし、消し去りたい記憶を今さら思い出したくもない。
言葉を濁して九条君を見上げていると、自由だった方の腕を今度は和彦に握られた。
「あなたも七海さんの「友達」なら分かるでしょう? 可愛いですよね、七海さん……忘れられなかった。七海さんの乱れた姿が頭から離れなくて、眠れませんでしたよ」
「~~っっ和彦!!!」
わぁぁぁっっ!
それは絶対に言わなくていいやつ!
相手が九条君だからとか関係なく、言っちゃダメなやつーー!!
俺は両サイドから両腕を取られたまま、俯いて震えた。
無神経な和彦に怒り狂っていて、頭が沸騰しそうだ。
頭痛薬飲んだのに、これじゃ効くはずない。外的要因が大き過ぎる。
グラグラと眩暈を起こしそうになってたところに、九条君からグイと腕を引っ張られて部屋の中へと連れ込まれた。
そして壁際に押し付けられて、耳打ちされる。
「七海、アイツが初めてじゃないの? てか男もいけたの?」
「それは……っ」
「ひどいじゃん。俺にはそんな事一言も言わなかった」
「だ、だってそれ、それは……!」
「俺バカみたい。この一年ずっと我慢してたのに」
「…………っ?」
そんなの言えない、むしろ九条君のために言わなかったんだ。
俺がゲイだって知られたら気味悪がられるかもしれない、一度は俺に告白してきた九条君が万一にも期待したらいけない、……俺はそう思ってあえて言わなかった。
でも九条君、……我慢してた、って何を……?
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