13 / 206
バッティング
3
しおりを挟むジッと見詰められて居心地が悪い。
俺が九条君にゲイだって事を打ち明けなかっただけで、なんでこんなに怒るのか分からなかった。
「最悪……だから言っただろ。もっと危機感持てよ……」
「く、九条君……っ?」
「昨日来なかったのはアイツと寝てたからって事だよな」
「あ……! うっ……! ……そ、そうです……」
「最悪……」
そうか……約束すっぽかしてセックスしてたなんてどういうつもりなんだって意味で怒ってんのか……。
そりゃそうだよな。
俺が同じ立場だったらやっぱムッとするよ。
約束してるのに何の連絡も無いまま、後から「エッチしてたから行けなかった~」なんて言われたらその友達とは絶交もんだ。
うう~ごめん、九条君……最悪だよね、俺……。
「二人でコソコソ何を話してるんですか。そこのあなた、僕が七海さんを看病するのでお引き取り頂いて結構です」
勝手に部屋に上がり込んで俺の腕を取った和彦は、強過ぎるメンタルで九条君に向き直る。
ただし九条君も負けてない。
同じくらいの背丈の二人は睨み合っていて、間に挟まれた俺はどうしていいか分からなかった。
「お前が帰れよ」
「なんで僕が。帰りません」
「俺も帰らねぇよ」
「仕方ないですね。二人で看病するなんて納得いきませんが、……仕方ない」
俺の頭上で言い合いをするな!
こんなに怒った顔してる九条君を初めて見るけど、これは俺のせいだと分かる。
でも和彦のは違うだろ、帰れって何回も言ってるのに……!
忘れようにも忘れられない、俺の大事な初めてを奪いやがったんだから、顔も見たくないって台詞は合ってるはずだ!
「仕方なくない!! もう顔も見たくないって言っただろ! お願いだから帰って!」
「そんな……っ、七海さん!」
「い、痛い、痛いって……っ」
ショックなのは分かったから力を緩めろよっ。
どう考えても、自分が犯した罪を認めないでずっとここに居座ってる方が悪い。
なんで分かってくんないんだよ。
いきなり初対面の男から、ほんとに大事に大事にしてきた初めてを奪われた事がどんなに悔しくて悲しかったか、ノンケの和彦に分かるわけないと思うけど少しは分かってほしい!
九条君も九条君だ、そんなに和彦睨むくらいキレてんなら俺に直接怒ってよっ。
すっぽかしてごめんって謝るから!
……俺はすごく嫌だった。
何だか分からない、どんよりとした空気がこの俺の部屋に流れてる事が──。
「帰れってよ」
「嫌です。僕が帰ったらあなた七海さんを抱いちゃうでしょ。そんな目をしてる」
「……かもな」
「それが分かってるのに帰るわけないです。僕は決めました。七海さんを僕だけのものにする」
「その七海からめちゃくちゃ嫌われてんだろ。……無理だな」
「これから好きになってもらうんです。ヤンチャな七海さんは一筋縄ではいかないかもしれないけど……七海さんは可愛いからしょうがないですよ」
「七海が可愛いのは認めるけど、お前腹黒そうだから渡せねぇな」
「やだなぁ、褒めないでください」
「褒めてねぇよ」
ギッと睨み合う二人は、言い合うごとに俺の腕を掴む力を強めてくる。
体格差を考えてほしい。
これ以上そんなにギリギリ掴まれてたら、俺の貧弱な腕がポキっといっちゃうって。
「や、やめろよもう……何の話してんだよ……。ぅぅ……っ、頭痛い……」
両サイドからの圧と握られた両腕、さらに狭い部屋中に立ち込める重たい空気で俺の頭痛がもはや薬の効力を跳ね除けた。
そろそろ効いてきてもいい頃なのに、頭痛は増すばかり。
こんな事になってなきゃ、偏頭痛持ちな俺は空を見上げて「明日は雨かな?」って呑気に思えたのに。
「大丈夫ですか!? ……ねぇ七海さん、昨日の事ちゃんと謝りたい。僕の気持ちも伝えたい…だから……帰れなんて言わないで……」
俯く俺を覗き込んでくる優しげな顔。
すごく綺麗に、すべてのパーツが寸分の狂い無く配置されたモデルさんみたいに美しい顔面だ。
声もとびっきりのイケボ。
何も知らなかった昨日は、この声で不意打ちに耳元で囁かれてドキッとしたっけ……。
けどな、俺は忘れない。
和彦……あんたは俺を襲った狼だ。
優しそうな兎と見せかけて、とんでもない狼が内に潜んでるって、もう知ってるんだから。
絶対許さないんだから。
「……あ……俺やばい。……二人とも、もう勝手にして……」
覗き込んでくる和彦の綺麗な顔がぐにゃぐにゃと歪んでいた。
遅れて視界に入ってきた九条君の姿も、ぐにゃぐにゃ。
頭痛ってものを甘く見ちゃいけない。
人は痛みの限界がくると気を失って、痛み、苦しみから逃れようとする生き物なんだよ。
──ん? じゃあ何で……俺は昨日、犯されてる最中に目を覚ましたんだ。
2
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!
僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして?
※R対象話には『*』マーク付けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる