優しい狼に初めてを奪われました

須藤慎弥

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七海さんは魔性の男 ─和彦─

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 王様に命令されて、半ば強引に奪った唇は柔らかくて温かくて、周囲の雑音が一瞬にして消え去ってしまうほど夢中で七海さんの舌を追った。

 七海さんはまるで初めてのキスみたいにぎこちなく、これも策の一つなのかもしれないと思うと妙に合点がいく。

 逃げられないように後頭部を押さえて深く口付けてみれば、どうしていいか分からないと舌は引っ込んでしまって、及び腰な舌先を舐めて誘い出すのもまた異様に興奮した。

 もっと長くキスしていたいと思わせておいて、さっさと僕を置いて別の男の元へ行こうとした七海さんがいけないんだよ。





 七海さんはとても軽かった。

 意識のない七海さんを抱え上げて、難なく(女の子達からは大ブーイングを食らったけど)合コンを抜け出せた事が嬉しくてたまらない。

 こんな事、人道に反してるって分かってる。

 でもしょうがないよ。

 王様ゲームにかこつけてキスまでした僕を、七海さんはお持ち帰りしようとしてくれなかった。

 むしろ迷惑がってるように見えた。

 タクシーでホテルまで行く道中、七海さんを膝の上に乗せて抱っこしたままだったから運転手さんに変に思われてしまったかもしれない。

 二度と会う事はない人だから、どう思われてもいいんだけど。


「僕より年上だなんて信じられないな」


 ベッドに横たえて、衣服を全部脱がせた。

 苦しそうだったわけじゃない。

 単に、僕の心臓のモヤモヤの正体が七海さんの裸を見る事で判明すればいいと、それだけの気持ちだった。

 その体はまだ成長途中なんじゃないのってくらい細くて華奢で、抱き締めてみると小ささがより際立つ。

 今の今まで空気の悪い居酒屋に居たのに、七海さんの髪からふわっとシャンプーのいい匂いがしてイライラした。

 約束してた男と会うために、わざわざシャワーを浴びてきたの?

 そんなにその男とセックスしたかったの?


「この可愛い寝顔を……一体何人の男達が知ってるんだろう」


 女性にしか興味の無い、男を相手にするなんてはなから考えもしなかった僕が、七海さんの裸体を前にすると目の前がクラクラするほど性欲を揺さぶられる。

 小さくてピンク色した乳首にそそられて舐めてみると、無意識であるはずの七海さんが可愛く啼いた。


「ん……っ」


 鼻にかかったその一声、体をわずかに動かしたその体動一つで、僕の理性はものの見事に地に落ちた。

 寝ている七海さんから漏れ出る掠れた甘い声を聞きたくて、夢中で乳首を舐めた。

 我慢出来なくて唇もたくさん舐めた。

 舌を入れると噛まれちゃいそうだったから、控え目に唇だけを啄んだ。

 僕にこんな趣味はない。

 寝てる相手を勝手にいたぶって、勝手に興奮するなんて趣味は、本当に無いはずだった。


「……何、これ……」


 女性の体とは明らかに違う、興奮する要素なんて色白で滑らかな肌くらいしかないと思っていたのに、僕は……。


「メロメロってこういう事? 七海さん、僕が知らない間に、どんな秘密の策を出してきてたの? ……怖いよ、七海さん……」


 下着の中が張り詰めていて痛い。

 お酒の味がするぷるんとした唇も、ピンク色の小さな乳首も、真っ白で直視できない体躯も、何なら七海さんの小ぶりな性器までも、視界に入る七海さんすべてに興奮した。

 おかしい。こんな事ありえない。


 ……落とせるもんなら落としてみてよって、……僕が落ちてるよ。


 どこか一歩引いたような素振りでみんなの輪に居た七海さんは、愛想笑いがとってもうまかった。

 けれど僕には、七海さんがどこか無理して笑っているように見えて、それが不明瞭な儚さを生んでいた。

 ヤンチャそうな見た目に反し、場を乱さないようにその愛想笑いで乗り切ろうとしていた七海さんが、男漁りをしに来ているなんて到底信じたくない。

 今日は約束してる人が居たからなのか、いつもあぁなのかは分からないけど、合コンに参加した男達がつい七海さんを目で追ってしまうっていうのは自ら痛感した。


「あ……お尻……可愛い……」


 七海さんの肌は、ずっと撫でていたくなるほどつるつるでスベスベだ。

 夢中で首筋にキスを落としながら、触り心地の良い体を撫で回していた手のひらが行き着いた先。

 引き締まったお尻の丸みにふと動きを止める。


 ──ダメ、いけない。これ以上はダメ。
 意識のない、寝てる男相手だよ、佐倉和彦。


 寝かせちゃった当の本人である僕がここまでやってしまってる事は棚に上げて、そこでやっと躊躇した。

 同意なくやってしまったら、七海さんはきっと怒るだろう。

 誘ってもくれなかった僕の事はそもそもがタイプじゃないのかもしれないし、目が覚めて僕から貫かれてるのに気付いたら、気持ち悪いって全力で暴れられてしまうかもしれない。

 可愛いお尻をさわさわと揉んだ後、僕は七海さんの寝顔をしばらく見詰めた。

 ここまでするつもりはなかった。

 僕じゃない人と体を繋げるくらいならと寝かせてしまったお詫びに、一晩様子を見てあげなきゃって思っただけなんだよ。


 ──理由を後付けして、裸に剥いてはしまったけれど。


「七海さん……」


 もしも……七海さんが僕を誘ってくれていたら、二つ返事でOKしていたと思う。

 でも誘ってくれなかった。

 「抜け出したい」って僕から誘っても、頷いてくれなかった。

 抜けたら山本さんの面目が立たないって、悪魔なんて異名とは程遠い七海さんの優しさを前に、僕はツラくなった。

 これはもう……僕が七海さんを落とすゲームじゃない。

 ゲームなんて名目は誤認で、もはや不必要だ。



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