49 / 206
本心
4
しおりを挟むもう、それ以上は聞けなかった。
俺に好意を持ってくれて、告白までしてくれた九条君に、俺は赤裸々に話し過ぎた。
何度となく溜め息を吐く九条君の表情……それは怒らせたというより、俺が考えなしにベラベラ喋ったせいで落ち込ませてしまったと言えた。
『九条君、……ごめん、……ごめん……』
『嘘だよ、怒ってねぇから。そんな顔すんなよ……悪かったって』
『いや、俺も……無神経過ぎた。ごめん……』
『その「ごめん」って、俺の告白の返事も兼ねてない?』
『え──っ!? い、いや、そんな事……ある、かもしれない……』
俺を好きになってくれたのは嬉しいけど、どれだけ告白を重ねられてもきっと、九条君をそういう目で見る日はこない。
──何かが違うから。
一年前、酔っ払った九条君から最初の告白を受けた時に直感した、「この人じゃない」。
直感なんかあるわけない、好意を持たれたら誰でも嬉しいだろ、てか漫画の読み過ぎだろ、って他人は笑うのかもしれない。
俺だってそう。
応えない自分にビンタしてやりたいくらい、九条君は見た目はもちろん人としても魅力的な男だ。
何しろ俺は、探してたんだから。
九条君みたいに、俺を想ってくれる人と出会って自然と恋に落ちる……普通の恋愛をしてみたいって、思い描いた通りの夢が叶いそうなのに、俺の心は「何かが違う」と拒んでいた。
その「何か」って何? ……と聞かれても、すぐには答えられない。
──九条君に恋をするイメージがまったく湧かない。好きになれない。キスは出来ない。セックスはもっと無理だ。
「何か」が邪魔をして拒む理由は、いくらも見付かるのに。
『……ごめん……』
もしも三度目の告白があったら俺も九条君もツラいだけだから、ここはきっぱり断っておかないといけない。
こういう時、どんな顔をしたらいいのか分からなかった。
雰囲気や酔いに呑まれてじゃなく、真剣な告白をしてくれたのは、九条君が初めてだった。
でも……友達だって思ってたから、すごくツラい。
和彦の言ってた「無意識」「魔性」という言葉が身に沁みた。
自覚なんて無かったんだ。
九条君が一年も俺を想っていてくれて、告白してくれるほどの事をした自覚が俺には……ない。
『……なぁ七海、俺さ、男だからとか女だからとか関係ねぇと思うんだよ。七海がやたらと飲み会に行く理由も分かったし、だったら尚さらあいつの事許しちゃいけねぇと思う。ハラスメントと一緒で、相手が嫌だと思った瞬間にそれは罪になるんだ』
『だから許せないって言ってるじゃん……嫌いって。何も矛盾してないよ』
何を知りたかったのかも分からない俺が、九条君が含みを持たす矛盾点を悟れるわけない。
俺に好きだと言った九条君は、初めてを奪った和彦を物凄く毛嫌いしていて、自分の事のように憤慨してくれて嬉しい気持ちはある。
だけど、なんかイラついた。
和彦は変わってるし、強引だし、人の話聞かないし、脳内お花畑なんじゃないのってくらい自分に都合の良いように解釈するし、熱出した俺にステーキ出してくるし、ポカリは口移しだったし……そうかと思えば一切の手出しをやめて寝ずに看病してくれたり、ほんと……究極に変な奴だよ。
それに、俺の「初めて」を奪いやがった優しい顔した獣、……狼だ。
そんな和彦の事を悪く言うのは、俺だけでいい。
当事者である俺だけで。
『はぁ……。七海は変わってるって事と、俺ん家には来ないって事だけは分かった』
『俺は変わってない。変わってんのは和彦。九条君の気持ちはありがたいけど、家には……行けないよ』
九条君が立ち上がったのを、俺は視線だけで追い掛けた。
ストーカーは恐怖だけど、対策すれば多分何とかなる。
でも九条君との関係は何とかならない。
万が一が起きないように、友達のままで居たいがために厚意を拒否した俺は、自分が身勝手だと分かっていた。
『マジで悪かった。あいつに姫抱きされてる七海見てたらなんか焦って。いきなりキス迫ったの、本気で悪かったって反省してる』
『いいよ、もう。マジな告白してくれたの、……九条君が初めてだった。応えられないけど……嬉しかった。……ありがとう』
『ふぅん? 七海への告白は俺が「初めて」か』
『うん……』
言いながら、真っ直ぐに九条君を見上げた。
俺からハッキリキッパリ断られてしまったのに、九条君は何だか毅然としているように見えた。
『七海は変わってるな。絶対俺の方がまともだと思うのに。変な奴』
『えぇ? やめてよ、俺に変な奴って言うの。俺は変わってないって』
『ドアチェーン掛けとけよ。あと、スマホは絶対握って寝ろ。何かあった後じゃ遅いんだからな、あいつの時みたいに』
うん、と俺が返事をする前に、九条君はさっさと玄関を出て行ってしまった。
外から『早く』と急かす声がしたから慌ててドアチェーンを掛けて、部屋は灯りを付けたままにした。
俺まだ起きてるよ、ピッキングしに来たら即警察に通報するからマズイよ、ストーカーにそんなアピールをするためだ。
ベッドに入って、九条君に言われた通りにスマホをぎゅっと握る。
何で、男同士でも強姦が成立するのか、なんて聞いちゃったんだろ……。
俺は何を教えてほしかったんだ。
頭が良い九条君に、何と言ってほしかったんだ。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、「なんで帰るんだよ!」と和彦の背中を追い掛けたくなってしまった、その理由を九条君は教えてくれなかった。
──当たり前だ。
2
あなたにおすすめの小説
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。
溺愛極道と逃げたがりのウサギ
イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。
想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。
悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。
※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。
二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。
脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない
綿毛ぽぽ
BL
アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。
━━━━━━━━━━━
現役人気アイドル×脱落モブ男
表紙はくま様からお借りしました
https://www.pixiv.net/artworks/84182395
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる