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本心 ─和彦─
3※
しおりを挟む中に在るものに慣れようとする体が、触れる度に熱を帯びていく。
我慢は、「優しい」と同じくらい難しい。
この状況下で僕の忍耐力を試されるのはまさに苦行のようだ。
けれど七海さんの苦しそうな顔を見たら、無理強いは出来ない。
初めての記憶を何としてでも塗り替えたい僕は、白い肌に散った痕を撫でて微笑んだ。
「いいえ。これが七海さんの「初めて」です。僕はもう、七海さんにとっては知らない人ではないでしょう? ……ドキドキするくらい僕を意識してくれてる」
「そ、そう、だけど……っ、俺、和彦の事、なんも知らな……っ」
「佐倉和彦、四月生まれの二十歳、B型のRhマイナス、好きな人は芝浦七海。僕は他人と関わるのが苦手です。あと、愛想笑いも」
「え、……っ」
「ちょっとだけ動いていいですか?」
「動く、……って……っんん、……ん……っ!」
腰を引いて襞を擦ると、七海さんは腕を宙に彷徨わせて顎を沿らせた。
ゆらゆらした細腕を掴み、僕の背中に回すよう仕向けてゆっくりと動いてみる。ほんの少しのピストンで、七海さんではなく僕が絶頂を迎えてしまいそうだった。
内襞を擦る気持ち良さは二人同時に感じる事が出来る。
肌を寄せて抱き締めていると、七海さんから強くしがみつかれて悦に浸った。
──そっか……七海さんは僕の事をほとんど知らないんだ。
教える間もなく僕が後悔に沈んだから。
顔も見たくない、嫌いだと言い放った七海さんはきっと、僕の事なんて知りたくもない。
そう悲観し、己の罪の意識に苛まれていた僕を救ったのが張本人である七海さんだった。
僕が変だって事を知った上でドキドキしてくれている。
縋ってくれている。
あの日のように戸惑いを滲ませたそれではなく、僕の何もかもを分かってくれて尚、ほっぺたを真っ赤に染めている。
喘ぐ七海さんの唇を奪いながら、僕はこれまでにないほど欲情していた。
──何が僕達を引き寄せたんだろう。
二度目はないと絶望していたのに、七海さんは僕の何処に惹かれて幸せをもたらしてくれたのか。
無垢故に少しだけ鈍感で、恋のドキドキをイライラに変換して僕を追い掛けてくれた、可愛い追尾者。
出会い方が最悪だった僕に、本心で対峙してくれた唯一の人。
「大丈夫ですか? 痛くない?」
「ぅ、ん……っ、……ゆっくり、して、……出ちゃいそ、……っなるから……っ」
「三回目ですね。いっぱい出て……可愛い」
「え……っ!?」
「さっき、二回目出てましたよ」
「な、っ……! う、嘘っ……?」
「僕が動いてすぐです。……扱かずにイったから、気付かなかった?」
「…………っっ」
か、可愛い……。
七海さんのお腹には放たれた先走りと精液がたくさん飛び散っているのに、僕の動きに必死で気付かなかったんだ……。
「あの日とは感じ方が違うでしょう? 心も、体も」
知らずに達していたのが恥ずかしかったのか、七海さんはそっぽを向いて僕ではなく枕を握り締めている。
そっとその腕を取って、痛がるくらい二の腕に吸い付いた。
痛みも快感に変わるほど、もう何も出ないと泣き言を言われようとも、これからいくらでも愛してあげたい。
わざと大きく抜き差しして、亀頭が七海さんのいいところを擦るように素早く腰を打ち付ける。
ゆっくりじゃダメだ。
三度目も、七海さんの性器には触れずに射精させたい。
「んっ……か、和彦、っ、ゆっくり、……して、おねがい、……っ、ゆっくり……っ」
「ゆっくりだと七海さんが焦れったいと思いますよ。何たって三回目ですから」
「い、言わない、で……っ、やめ、っ……!」
「僕の背中に爪痕を残してください。七海さんに傷付けてほしい」
「そんなこ、と……っ、できな……っ」
「僕の腕や肩を噛んで声を殺してもいいです。もっと揺さぶりますからね、覚悟して」
窓から射し込む陽の光が、絶句した七海さんの目尻から溢れる涙をキラキラと輝かせて、思わず見惚れてしまう。
突き上げを激しくすると予告した直後から、七海さんの腰を持って声すら上げられないほどに挿抜した。
するとすぐに三度目の射精をした七海さんから、挑戦的に内壁を締め付けられる。
濡れた腹部から精液を指先に取り、虚ろな目で僕を見る七海さんの前でそれを舐めた。
温かくて、精液独特の風味。
一番最初に飲んだものより、これは少し薄かった。
「七海さん。四回目の味見もしたいです」
「はっ……? ……な、に……っ、バカなこと……!」
「今日はあと何回分味見出来るのかな。……楽しみ」
「……っっ! おかしい……っ! 和彦は、っ、……おかしい!」
「久しぶりに聞きました……それ。七海さんの前では取り繕わなくていいから嬉しいです。僕のありのままを好きになってくれて……」
「そんなの、言ってない……! すき、なんて、言ってな……っ」
言葉とは裏腹に、抜き差しする僕を締め上げてくる天の邪鬼な七海さん。
そんなところが好きなんです。
イライラして、唇を尖らせて罵声を飛ばすその表情は、如実に僕に「好き」を伝えてくる。
もしかすると、僕が何もかもを狂わせてしまったから、七海さんも僕と同じで「おかしく」なったのかもしれない。
「でも……ドキドキするんでしょう?」
「んあっ……っ、あっ、ぅぅっ……、ん……!」
「一生に一度の恋ですよ、七海さん。死ぬまで離しません」
「待っ……、やめて、……っ……優しく、して……って……や、ぁぁぁ──っ」
強く抱き締めて己の快感を追うと、触れ合った互いの肌がじわりと温かくなった。
四回目の絶頂を迎えた七海さんは、一際高い嬌声を上げた後に僕の背中から腕を手放す。
同時に、全身から力が抜けているのを感じてほっぺたを辿ると、泣きながら意識を飛ばした七海さんの寝顔がそこにあった。
「……え、……僕、まだ一度も……」
すやすやと寝入ってしまった七海さんの体を、僕は優しく抱き上げて少しだけ揺する。
──こんな事は初めてだ。
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