優しい狼に初めてを奪われました

須藤慎弥

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前進 ─和彦─

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 吸い上げたそこが雑な円形で赤く染まって、白い肌に映えるそれが僕が付けたものだと思うと、背中がゾクゾクするほどの優越感を覚える。

 シャツの隙間から忍び込ませた手のひらで体を撫で回し、意味深に腰のくびれをなぞってみれば、息を詰めて甘い吐息を漏らす悩ましい小悪魔ちゃん。

 廊下や閉め切ったカーテンと窓の向こう側があまりに賑やかで、いつも僕の耳を甘やかに犯す控えめな声が聞こえ辛い。


「んっ……んっ、……っ、ダメだって、言って……」


 もちろんここで貫くつもりなんてない。

 何の用意も無く七海さんに手を出す事など出来ないよ。そんなの、……愛する人の心と体に傷を付けるだけになってしまう。

 僕も前が窮屈になってきて押し倒したいのは山々だけれど、今は可愛く強がる唇を舐めるだけに留めておく。


「答えてください。ついでに、なぜそうなると七海さんがムカつくのかという理由もお答えを」
「は……っ? な、んで…言わなきゃ……っ、ぅんん……、……っ、……やめっ……誰か来たら、どうすんだ……!」
「大きな声を上げなければ誰も来ませんよ。この埃っぽさ……使用される頻度も少ないはず」


 湿っぽい教室はいつからカーテンが閉め切られているのか、空気があんまりよろしくない。

 けれど興奮した。

 場所も、シチュエーションも、目の前に七海さんが居るというだけで魅惑の空間になる。得意だった我慢がきかなくなりそうだ。


「こんなとこで……っ、さらけ出したく、ないんだけどっ?」


 強気で言い返すわりには、瞳を潤ませて力なく僕を見て怒った顔をするなんて……反則でしょ。

 そんな事を言いつつ僕を押し除けないところを見ると、手のひらの感覚が気持ちいいみたいだ。

 体を捻りはするのに、七海さんは自由に動き回る僕のやらしい腕を止める気配がない。

 少々強引に唇を奪って舌を誘い出し絡ませても、いつもの引っ込み思案ないじらしいそれとなんら変わらない。


「それが校内での醍醐味ではないんですか? 七海さんのお好きな漫画に、こういうシチュエーションがいくつもありましたよ」
「なっ……なっ……!?」
「僕も「萌え」ました。あれを読んでから、七海さんと至るところでしたくてたまらなくなったんです。大好きな人になら、ところ構わず襲ってもいいんだ……と、僕にとってあれは貴重なバイブルとなりました」
「か、和彦……、読んだの? ……あれを?」
「どれを?」
「今言ってたじゃん! お、俺の趣味の漫画って……あれしか……!」


 キスをやめて、愛らしい乳首を弄るのもやめて、七海さんを囲うように長机に両手をつく。

 あたふたし始めた七海さんをまじまじと見たかったからだ。


「ふふふ……っ、九条さんからそういうものがあると教えて頂いて、昨夜七海さんが僕ではなくPCと仲良くしていた横で……」
「えっ、昨日……っ? 俺の隣で読んだっての!?」
「そうです。昨日読んだのが男子高校生が出てくる恋愛ものだったんですよ。驚きました……萌えがギッシリ詰まっていたんですもん。僕も七海さんも高校生だったら、本当にいたるところでこうして……」


 読み慣れない漫画というものをスマホでじっくりと吟味した、昨夜のお気に入りシーンを真似てキスを迫ると、肩を押されて拒否された。

 白状したせいで別の意味で顔を赤らめてしまい、そういう気分ではなかったのかもしれないけれど……そこは流されてキスしましょうよ、七海さん……。


「ちょっ……ダメだよ、あれは漫画! フィクション! 実際に校内でヤッてる奴らなんて居な……っ」
「居るじゃないですか、ここに」
「俺らは高校生じゃないだろ!」
「いいじゃないですか。疑似体験。僕も七海さんもお互いが初めての恋人でしょう? こういう経験してこなかったということは、僕達は人生の半分は損していますよね」
「半分は言い過ぎ! ……ちょ、待っ……んむっ」


 動揺する七海さんのブレザー姿を思い浮かべた僕は、まさしくこれから疑似体験を…と大事な事を聞き忘れたまま七海さんの頬を取る。

 ちゅっ、と唇を合わせて、空いている方の手でピンクに染まった耳をこちょこちょした。

 くすぐったさが心地良いのか、至近距離で鼻にかかった声が聞けて心が満たされる。

 僕に触れられて恥ずかしがって、強い口調と瞳で見詰めてくる視線からは恋情しか感じない。

 素直にヤキモチを焼いてると言ってくれたら、もっと僕の心が満足するのに。

 抱き締めて、甘やかして、恋を認めた七海さんとたくさん蕩けるようなキスがしたいのに。


「まったく……七海さんってばすぐ魔性を使うんですから……。なぜ明日から僕の周りが騒がしくなるのか、なぜそれを七海さんが嫌がるのか、その理由を聞いていませんでした」
「い、嫌がってな……っ、ないよ……! 俺は……、んっ、待てよっ……舐め、るな……! 喋れな……っ」
「あ、ごめんなさい。ここ……ピンク色が濃くなって僕を誘うからつい。続けてください」


 強がりを止めない七海さんに焦れてもう一度シャツを捲りあげた先には、ぷくっと待つ可愛い突起物があった。

 吸い寄せられるように舐めて味わっていては、いつまで経っても七海さんは口を割らないと分かりきっているのに……無闇に振り撒かれる芳しい魔性は僕には効果覿面なんだ。




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