151 / 206
清算
6
しおりを挟む俺には理解し難い思想を持った二人は、仲良く寄り添い合って別宅であるマンションへと帰って行った。
和彦の両親にこんな事を思うのはどうなんだって分かってるけど、何とも奇妙だった。
二人の後ろ姿を見送って重厚な玄関の戸が閉まると、俺と和彦は同時に顔を見合わせて溜め息を吐く始末で。
なんか疲れた。
重たい話をしてたからじゃなく、あのテンションと突飛な発言の数々にめちゃくちゃ疲れた。
御両親は、普通じゃないと思ってた和彦の比ではない。食わせ者のにおい、意味深な視線、どこまでが冗談でどこからが本気なのか分からない、妙な不気味さ。
ストレートなヘタレである和彦が可愛く思えてくるほどだ。
「七海さん、先にお風呂どうぞ……って、やっぱり気を使わせてしまいましたよね……」
螺旋階段でゆっくりと三階に上がり、躊躇いなく和彦の寝室に入った俺はベッドサイドの一人掛けソファにドカッと腰掛けた。
脱力した俺の元へ、サイドの髪を耳にかけながら申し訳なさそうに近寄ってくる。
相変わらず和彦の背後にキラキラが見える俺は、何の気無しに「なぁ」と呟いていた。
「はい?」
背の高い色男が、俺を見詰めて小首を傾げる。
月の光が横目に見えて、感慨深かった。
ソファの肘掛けに腕を乗せて傍までやって来た和彦を見上げていると、さらにしみじみと思いを馳せる。
この三ヶ月くらいの間に、俺の人生は大きく変わった。
和彦ほどではないけど、俺にだって塞ぎ込んでしまう時期もあった。
どうしたら「恋」が出来るんだろう。
漫画みたいな劇的な出会いって、現実世界にはやっぱどこにも転がってないじゃん。 夢見過ぎだったんだよな、俺……なんて。
その夢を追い過ぎたせいで変な奴に目付けられて、ストーカーされるわ噂を広められるわ、それが元で誤解されるわ、ほんとに散々だった。
──和彦と出会った事以外は。
「七海さん?」
「…………」
黙って和彦を見詰め続ける俺を変に思ったのか、「大丈夫ですか?」と足元に跪いて俺の膝に手のひらを乗せてきた。
のほほんとしたメルヘン王子かと思えば、見た目だけはほんとに満点な和彦はこうしているとまるで騎士みたいだ。
不可思議極まりないんだけど、何故だか和彦の両親と対面した事で現実味を帯びてきた。
こんなにキラキラした恋人が目の前に居ることが。
「……和彦、……好きだよ」
「…………え……?」
あまりに唐突だった。
不意に口をついて出た、俺がずっと言い渋ってた思いがけない告白に和彦の目が見開かれる。
……スッと言えちゃったよ。
疲労で脱力しきってるはずの俺の心の中が、正体不明のよく分からないあったかいものでいっぱいになっていた。
出会いは最悪だったとしても、和彦は不器用に、時として暴走しながらも俺に「恋」を気付かせてくれた。
漫画みたいな恋したいんでしょ、なんて勘付かれてて赤っ恥もいいとこだけど、その通りで何も言えなかったもんな。
あらぬ誤解を招くくらい、夢見がちの俺も充分おかしかった。
「な、七海さん……? 急にどうしたんですか……?」
「好きだよ、和彦。……好き。……好き」
「…………っ」
言えなかった分を取り戻すが如く、和彦に想いを伝えていく。
全然そんな雰囲気じゃなかった……むしろ今日は疲れたからとりあえず早く風呂入って寝たいよね、……和彦でさえそう思ってたに違いない。
「七海さん……」
膝に乗っていた手のひらが、ゆっくりと優しく俺のほっぺたを撫でる。
感極まって瞳を潤ませている和彦が愛おしくてたまらない。
……待ってたのかな。俺の言葉を。
自覚してもなかなか言わない俺に痺れを切らすどころか、「七海さんは恥ずかしがり屋さんですから」と目尻を下げる和彦の、どこが優しくないんだよ。
言葉は意味を成す。
薄っぺらく浅識だった俺の意識を変えてくれたのは、紛れも無く目の前に居る佐倉和彦だ。
これまでどんな言葉の刃を受けてきたのか知らないし、今さら知ろうとなんて思わないけど、和彦は人よりちょっと繊細で打たれ弱いだけなんだよ。
愛おしいじゃん。
愛おしさしかないじゃん。
「……僕も好きです。大好きです。……好きになってごめんなさい……」
跪いたまま、縋るように俺の背中に腕を回す和彦の、優し過ぎる愛情が痛いほど胸を締め付けた。
両親も、和彦を傷付けてきた奴らも、これから出会う幾多の他人も、もう誰も和彦を傷付けてほしくない。
俺に囚われた和彦は、俺だけ見てればいい。俺の言葉だけで一喜一憂してればいい。
俺もそうするから。和彦に魂をあげるから。謎の契約ってやつ、二度とバカにしないで結んであげるから。
「なんで謝るんだよ。もっと言って。好きって、いっぱい言って」
「七海さん……っ、好きです。好きです。……大好きです。好きなんです、七海さん……」
「足りない……んっ!」
俺は生意気にも、挑発した。
視線に熱を込めると、意図を汲んで立ち上がった和彦が俺の頬を取り、荒々しく唇を奪う。
「んっ……和、彦……っ、……っ」
「好きです、七海さん。好き。好き」
「俺も、……っ、……好き、好き……っ」
そんなんじゃ足りない。
全然足りない。
俺も言い足りないから、キスの合間にたくさん言わせて。
漫画の主人公みたいにかわいくなんか出来ないけど、今沸き立ったこの想いが和彦に伝わるのなら俺は……この瞬間にでも魂をあげてもいい。
1
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!
僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして?
※R対象話には『*』マーク付けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる