優しい狼に初めてを奪われました

須藤慎弥

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優しい狼に初めてを奪われました

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 俺の魔性にやられたと平然と語る和彦は、俺が嫌だと言う事は絶対にしない。

 惚れた弱みですと口にした後、少しだけ悪戯を仕掛けられたけど、俺は物足りなさそうな和彦に抱き締められてたっぷりと睡眠を取った。

 俺が着てた制服がびちょびちょだったから帰るに帰れず、やむなく後藤さんを呼び付ける事になって本当に申し訳無かった。

 車ではるばる俺の地元(しかもラブホテル)まで私服を届けてくれて、それでも「仲が良い事は素晴らしい事です」なんて言って笑ってくれて……。

 俺達は二人ともが初めてのラブホテル体験だったから、精算の仕方も分からなくて後藤さんがそこでも活躍した。

 あまりに恥ずかしくて顔は見れなかったけど、二人して何回も何回も謝った。

 謝罪の念が強過ぎたのか、夢でまで後藤さんに謝ってた俺だ。

 何もかもが終わり、大きくは気持ちの面で頑張った和彦を労わなくちゃならなかったのに、目隠しなんてされて一晩中エッチしてた俺達は夜までグッスリだった。

 ずっと、温かった。

 たくさん夢を見た。

 俺は和彦のそばに居ていいのかなってチラと考えたりもしたけど、多分和彦は俺が居なくなったら死ぬ。

 もしくは俺を監禁して、二度とそんな事は言わせないと泣き笑いしながらヤり殺すんだ。

 ヘタレで病みがちな和彦は、どっちの選択もあり得そうだろ。

 怖いくらいの愛は「魂の契約」とやらで充分伝わってる。

 だから今さら、その重みに押しつぶされたりしないんだ。訳が分からないって目くじら立てて怒ったりも、当然しない。
 
 それが佐倉和彦なんだ。

 内面を除けば、ハイスペック過ぎる俺の恋人。

 互いが息絶えても魂ってやつで繋がるらしいから、「生涯」という言葉も当てはまらない。

 どんな言葉がしっくりくるのかは、これから少しずつ探っていこうと思う。





「和彦、昨日はお疲れさまでした。ちゃんと言ってなかった。ごめん」


 遅い時間に目覚めた俺達は、遅い夕食を取った。

 いつでも豪華で温かな食事を、自宅で食べられる贅沢さに染まっちゃいけないと思いつつも、昨日の夜からまともに食べてない俺の箸はいつも以上に進んだ。


「そんな……いいんですよ。七海さんが松田さんの心を開いてくれたおかげで、捜査もスムーズに運ぶ事でしょう。ありがとうございます、七海さん」
「俺はそんな……大した事してないよ……」


 食事の後はリリくんの部屋んぽを一時間満喫し、和彦に手を引かれて久しぶりにデッカいテレビがあるリビングに通された。

 テーブルの上には、見た事もないボトルとシャンパングラスが置いてある。


「七海さん、どうぞ」
「……ありがと」


 並んで腰掛けた俺と和彦は、四人は座れそうな大きなソファにも関わらずぴたりと密着した。

 慣れた手付きでシャンパンのコルクを抜き、ポンっと軽やかなを立てたそれをグラスに注いでいく。

 その横顔は完全にスパダリだ。憎たらしいほどかっこいい。


「はい、七海さん」
「……ん」


 注がれたお酒の色味や香り、グラス、ボトルに書かれた英語でこれがシャンパンだという事は分かったんだけど、なんで?だ。

 首を傾げながら受け取るも、和彦の振る舞いがあまりに楚々としていて、静かな室内に問い掛けは無用だと口を噤む。

 何しろ俺より先に起きてた和彦は、当然と言えば当然なんだけどひっきりなしに電話連絡を受けていたという。

 友彦お父さんに結子お母さん、警察、会社の顧問弁護士、そして……和彦自らが握手を求めて友達になった九条くんとも。

 九条くんは俺が仕込んだボイスレコーダーを回収し、和彦にその音声データを送った。

 その話が友彦お父さんに伝わり、きな臭かった征橋産業の椛島常務をも逮捕に追い込めそうだという朗報に次ぐ朗報は、俺はもちろん和彦が一番ホッとしたんじゃないかな。

 大きな組織が、和彦の前進によって動こうとしている。

 和彦本人だけでなく、取り巻く周囲にも変化が見られるだろう。

 俺は誇らしかった。

 ただただ、和彦と出会うためのすべてが運命的だと思った。

 ……ヘタレでも変人でもいい。どれだけ和彦が変わろうとも、俺はどんな和彦も好きで居続ける。

 おかしな一匹狼は、俺にとっては優しい狼だから。

 俺は優しい狼に初めてを奪われた。

 とても最高な形で、恋を始めている。


「乾杯しましょう」
「……あ、……そういえばそんな事言ってたっけ」
「忘れていたんですか? 七海さんが乾杯したいと言っていたのに」


 クスッと上品に笑う和彦に見惚れながら、半分酔いに任せて言った俺の言葉を覚えててくれた事に感動した。

 和彦が目に見えて変わろうとしている良い兆候と、事件解決が目前となった「乾杯」。

 浮かれていい問題ではないけど、俺と和彦の間だけだったらほんのちょっとだけ御祝いしたって許されるはずだ。

 意識的に変化したいと望んだ、跡継ぎに相応しい決意にも「乾杯」。

 お疲れさま、とグラスを寄せて行くと、和彦もグラスを傾けて軽やかな音を鳴らし、美しく微笑んだ。


「社内の空気が変わる事を望むばかりです。僕の意識も変わりましたし、ますます勉学に励まなければ。スパダリを目指して」


 一口目を口に含むや、和彦らしい決意表明に吹き出しそうになった。


「和彦はヘタレのままでいいって。ま、意識が変わったのはいい事だよな。ほんと……見違えたよ」
「出会った頃に比べて、ですか?」
「うん。まだ和彦とは知り合って浅いけど、人は意識を変えるだけでこんなに伸びしろあるんだなって感動してる」
「七海さんに出会わなければ、僕はずっと以前のままでしたね。何もかも、七海さんのおかげです」


 ……いい加減、自惚れてもいいかな。

 俺の存在が和彦に多少なりとも変化をもたらしてるって、自信過剰なこと思っててもいいかな。

 だとしたら俺はどうなんだろう。

 恋を知った俺も、何かしら和彦から良い影響を貰ってると思うんだけど。


「なぁ、俺は和彦と出会って変わったとこある?」
「七海さんが変わったところ? ……金色だった髪が茶色になりました」
「いや見た目じゃなくて……」


 優雅にキョトンとするんじゃない。

 金髪を茶髪に……なんて、和彦と出会わなくてもその時が来たらやらざるを得なかったよ……。

 相変わらず斜め上から切り替えしてくる和彦の表情は、まさに真剣そのものだった。



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