優しい狼に初めてを奪われました

須藤慎弥

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金髪の男に惚れた日 ─side 九条─

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 深酒しても記憶を失くす事がない俺は、その時の事をはっきりと覚えている。

 唐突な俺の告白を少しだけ驚いた顔で受け止めた後、静かな口調で七海は諭し始めた。


「……九条君が今言ってくれたの、冗談じゃないって事くらい俺にも分かるよ。でもそれを言うべきなのは俺にじゃない。俺と九条君は今日会ったばっかりで、お酒も入って、楽しい場に居たから……」
「違う。 そうじゃない。俺、七海のこと好きになった」
「……九条君……」


 飄々と諭しているようでいて、七海が取り繕い困っているのは分かっていた。

 告白に対する返事も、当然予測出来た。

 酔いに任せて言ったわけではない事も、俺が軽率にこんな台詞を言う奴じゃないって事も、七海は分かっていたと思う。

 その日ほとんど機能しなかった俺のこの考察。これだけは正しかった。

 後に判明するのだが、七海は断り慣れをしていた。

 やたらと男にモテる七海は「好き」「付き合ってほしい」という言葉、台詞にかなり免疫があり、悲しいかな俺も大勢の男達のうちの一人だったという事だ。


「出会ったばっかなのが気になるなら、これからお互いの事知って好きになってけばいいだろ。人生どこでどうなるか分かんねぇよ。男に告ってる時点で今、俺は人生の分岐点に居る」


 飲み過ぎだと窘めてきた七海から水を受け取りながら、俺は情けなくも追い縋るような真似をした。

 一緒に居て楽しい。

 誰が相手でもそう思った事なんか無かった。

 小一時間会話をしたくらいで大袈裟なと、頭のどこかではもちろん冷静な自分も居たが口が勝手に縋っていたのだ。

 しかし、未来を提案しても七海の表情は変わらなかった。

 思わずカウンターのテーブルに突っ伏しそうになる。


「九条君、ごめん……九条君のこと、そういう風に見れない……」
「…………」


 付き合った先には何があるのか。

 俺はあまり深く考えていなかったかもしれない。

 対して七海は、きちんと考えていた。

 軽々しい言葉のみで、男同士の将来を明るいだけのものにしてやれるという確約は無かった。

 地域弁護士を経て叩き上げで議員になった厳格な父、それを支える教育ママと化していた厳しい母親、一人っ子故に親の期待を一心に背負わされた俺。

 どう考えても、たとえ七海がイエスと言ってくれたとしても未来は険しい。

 たった小一時間の付き合いだからと諦めたくは無かったが、七海の諭しと、きっぱりとした姿勢を受けて俺も一応その先まで考えた。

 遊びを知らずクソ真面目に生きてきたせいか、未来には困難な道のりしか想像がつかず、つい天秤にかけてしまったのだ。

 俺はいつかその時が来たら、七海を守り通せるのかどうか。

 結果、七海にそのつもりが無いのなら無理だろうという結論が出た。

 四六時中こいつと居たら楽しいだろうな。

 よく知りもしない相手にそんな感情を抱いたのが初めてだったので、七海が断ってくれなければ俺は天秤にかける事もしなかった。

 酔っ払っていても尚、未来を思い描いた冷静な俺が勝ったというわけだ。


「──じゃあ、たまに飲みに行こ。もう好きだとか付き合えなんて言わねぇから。七海と話してて楽しかったのは本当なんだ。これから友人として、付き合っていきたい」


 ダメか?と伺いを立てると、七海はアルコールにより紅くなった目元を細めて微笑んだ。


「それはもちろん、いいよ!」


 綺麗な笑顔だと思った。

 続いてこんな台詞がきたとしても、七海らしいなと不器用に笑い返した俺は初恋に気付いたと同時にフラれた事になる。


「俺、伊達政宗のファンだって言ったじゃん? 伊達様、諸々あって眼帯してるけど、オッドアイだったっていう噂あるんだよ。九条君も黒い眼帯してみてよ、似合いそう!」
「…………」


 今しがたまで気まずい雰囲気が流れていたはずが、七海の天真爛漫さにはまいった。

 思わず笑ってしまうのも、無理もないだろう。

 その日は七海に付き合ってもらい、とことん飲んだ。

 好意云々の話は一度も出さず、終電がなくなる間際まで二人で尽きない会話を楽しんだ。

 気付いた事が三つ。

 一つ目。国立の文学部在籍なだけあって、七海は頭は悪くない。だがかなりの天然だ。

 二つ目。下戸というわけではないが、七海はそれほど酒が強くない。吐きたくないからという理由で、終盤はずっとノンアルコールカクテルを飲んでいた。

 三つ目。七海は、人を惹き付ける不思議な魅力がある。見た目と正反対だと思ったのは、内向的ではなく控えめなところだった。合コンで気の利く女性が男達に気に入られるのと似た事象である。

 俺は、その気配りと人懐っこさにまんまと堕ちたのだ。

 だがまぁいい。

 即日失恋したものの、新しい友人は出来た。

 幼い頃から、本当は喉から手が出るほど欲していた「友人」というものが。



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