優しい狼に初めてを奪われました

須藤慎弥

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ハロウィンSS 『純白の王子様×エッチなメイド』

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 白を基調とした広ーいバスルームの広ーい脱衣所に籠城した俺は、和彦から手渡された黒いナイロン袋を恐る恐る開けて絶句した。

 あのボンボン狼はこういう趣味があったのか?

 いつからこれを俺に着させようと目論んでた?

 考え込み、推理しながら、どうしても大きな洗面台の鏡に俺が映るからそれを見ないように気を付けて、件の衣装に袖を通す。

 ヒラッヒラのフリッフリだ。

 黒と白の色合いはいい。シンプルで好みだ。

 でもこのデザインはどう考えても男が着るものじゃない。

 漫画での "コスプレエッチ" のジャンルでは、こういうのよくあったよ。

 やっぱそれは、受けが攻めから着るように強要されるパターンが多かったけど。

 ハロウィンってイベントにかこつけて「お互いに着てほしい衣装を持ち寄りましょう、七海さん」とにこやかに提案してきた和彦も、例に漏れず。


「──七海さん」
「…………」
「七海さん、早く出て来てください。僕もう待ちきれません」


 着替え終わって数分。

 扉の向こうから、俺が用意した衣装に身を包んだ和彦の声がかかる。

 大学を卒業して三年。

 恐れ多くもSAKURA産業の本社ビルで社会人経験を積ませてもらって、コネ入社だって言われないよう毎日スーツを着て目下努力中の俺が、なぜにこんな衣装を着なきゃならないんだ。


「……なんでコレを選んだ」
「七海さんに似合うと思ったからですよ」
「なんで……っ、なんでコレが俺に似合うと思うんだ!」
「だって七海さん、漫画みたいな恋がしたいって言ってたじゃないですか。という事は、オーソドックスなものがお気に召すかなぁと。僕も、それを着た七海さんを抱きたくてたまらなかったですし」
「抱き……っ」


 扉越しに会話をするのは、この姿を見せたくないから。

 だって見せたら……ガッカリされるんじゃないのかな。

 俺は、男らしいとは言えない体格だけどれっきとした男だ。

 夢見がちで漫画と小説の趣味からは抜け出せない、あげくちょっと凡人とはかけ離れた思考回路を持つ同性の恋人が居る。

 しかしその恋人は、俺みたいに同性が性の対象というわけではなかった。

 だからすごく怖い。

 毎日毎日たっぷり愛情を貰ってはいるけど……こんな姿見て「想像と違いました」なんてあからさまな表情を浮かべられたら、俺その場で頭の上から魂抜けちゃうぞ。


「……か、和彦は? もう着てんの?」
「はい。でも僕のは普段とあんまり変わらない気がしますよ。これで良かったんですか?」
「うっ、……見たい。すごく見たい。とてつもなく見たい」
「出てこないと見られませんよ、七海さん。……あーあ……、一人でコスプレしてるの悲しくなってきました……もう脱ごうかなぁ……」
「あっ!? ダメダメダメ! 脱ぐなよ! ……あ」


 和彦が脱いだら、俺の眼福予定が狂ってしまう!

 阻止しようと勢い良く脱衣所から飛び出すと、一瞬でそれは和彦の罠だったと判明した。

 扉のすぐ前で待ち構えていた和彦に、ギュッと抱き締められる。


「七海メイドさん、捕獲」
「…………」
「ふふっ。七海さん、とてもよくお似合いです。このガーターベルトがエッチなんですよね」
「和彦、手付きがエロい。てか……和彦すごいな、想像以上に王子様じゃん。まんま絵本から飛び出してきたみたい」
「僕ですか?」


 太ももをツー……と卑猥になぞる指から逃げて、俺が渡した王子様衣装を見事に着こなしている和彦をまじまじと観察した。

 純白のスーツに、ところどころ金色の刺繍糸でラインが引いてあるこれは、イギリス貴族が身に纏っていそうなそれに近い。

 常々和彦は、肩に小鳥や小動物を乗せてそうな雰囲気を醸し出している。

 実際にシマリスのリリくんも飼ってるし、本人は気付いてるのか分からないけど動物の気持ちが伝わってるんじゃないかと思うときがある。

 たまにリリくんと目を合わせて会話してんだもん。

 「え、和彦ってほんとに動物の言葉が分かる、そういう国の王子様?」だなんて、そんな事をこっそり思ってる俺は相当和彦に毒されてるよな。


「うん、……。いいと思う。森の中で小動物と戯れててほしい。その様子を俺が遠くから見てて……あぁ、……いい。写真撮りたいな」
「七海さんは本当に妄想力が豊かですね」
「妄想力なんて言葉は無いよ」
「ふふっ……僕が七海さんのために作った造語なので、お気になさらず」


 和彦は、必ず毎日一つは俺のために何かをしてくれる。

 ほんとは一つどころじゃない、たくさん。

 もう分かったから! って俺が拒否したくなるほど和彦は溺愛が過ぎるから、このカッチリとした王子様衣装を着た姿を見るとさらにドキッとしちゃうのかもしれない。

 なんたって俺はずっと、好きな人に愛されてみたかったから。



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