蓮と蜜

須藤慎弥

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 自分の気持ちを言葉で伝えることが苦手な僕は、必然的に口数も少ないから〝何を考えているのか分からない〟と陰口を叩かれている。

 そもそも人付き合いも苦手なコミュ障だし、友達と呼べる人が一人も居ない僕はきっとクラスでも浮いた存在。

 それでも別にいいんだ。

 僕のことを理解してくれる人がいるだけで、たとえ学校で常にひとりぼっちだとしても寂しくない。

 誰かと仲良くしたって、お互いを知るために会話を交わしたって、長い時間を共有したって、意味が無い。

 深く知って、合わなかったらどうするの?

 嫌いになったらバイバイするだけじゃない?

 誰とも争いたくない僕は喧嘩なんかもってのほかで、だったら最初から仲良くしたくないって、社会性を身に着けなきゃいけなかった頃から意固地は変わらない。

 だから僕は、友達は要らない。

 好きな人は、見ているだけでいい。

 十七になった今まで何も困ることは無かったから、きっとこれからもそうだって、冷静に、楽観的に捉えられているんだと思う。

 ただ一つ、〝好きな人〟に関してだけは冷静でいられない時がある。

 そう例えば、何の変哲もない晩ごはんを作って「美味そう」と褒めてくれたり、いかにも食が進むとばかりに「おかわり」を欲してくれたり、最後に僕の目を見て「ごちそうさま」と手を合わせてくれたら、それだけで幸せな気持ちになる。

 無駄口は一切叩かないクール一徹な人が、今日も黙々と食べてくれる姿を想像しながら料理を作るこの時間が、僕は大好きだ。

 深く関われなくていい。想いが通じるなんて、はなから思っちゃいない。

 幸せな気持ちになれる── それが僕にとっての最重要事項。


「── ただいまー。みっくん、蓮がバイト終わりに来るってよ」


 お味噌汁用の小ねぎを刻んでいると、リビングキッチンにやって来るなりそう言ったのは三つ上のお姉ちゃんだ。


「うん。そのつもりで支度してたよ」
「そっか。ふふっ」


 今年高校を卒業して、春から建設会社の事務員さんとして働いている男勝りで美人なお姉ちゃんに「お疲れ様」と言うと、茶目っ気たっぷりな笑顔が返ってくる。

 残業がほとんど無くて、きっちり十七時で退勤できるホワイトな会社は稀らしく、今日も無事にその恩恵を受けられて機嫌がいい。

 そばのデジタル時計がいつもの時間を示していて、これから恋人に会えるお姉ちゃんがルンルンで鼻歌を口ずさむ気持ちも分かる。

 理由は少し違うけれど、おかげで僕も上機嫌だ。


「良かった。今日も食べてもらえる……」


 お姉ちゃんの恋人……芸能人みたいな名前の橋本蓮くんは、毎日来るわけじゃない。

 〝家庭の事情〟で就職せざるを得なかったお姉ちゃんに対し、蓮くんは〝実家の都合〟で美容師の資格取得のために専門学校に通っていて、生活費をバイトで補っているとか。

 実家の美容院で働く蓮くんもなかなかのホワイト勤務だから、ここに来るのはおそらく十九時半頃。

 ご飯を食べに来る曜日も時間も把握している僕は、訳ありな両親に代わって毎日作っている晩ごはんが、週に三回ほんの少し豪華になる。


「今日のメインは何?」


 茶色い髪を一つ結びにしながら、僕より少し背の高いお姉ちゃんが隣に立つ。ちなみに顔はあんまり似ていない。


「……とんかつか、ポークソテーか、酢豚」


 お味噌汁用の白菜を刻んでいた僕は、とんかつ用の豚肉が三枚入ったパックを指差した。

 お姉ちゃんに決定権を託すと、難しい顔で数秒悩んだ後に「酢豚かな」とにっこり笑う。


「分かった」


 だったらこの白菜と小鍋に沸かしたお湯は、中華スープに変更だ。卵でとじて、真ん中に小葱を添えよう。

 瞬時に蓮くんが食べたそうなものを選んだあたり、お姉ちゃんの蓮くん愛が伝わってくる。


「いつもごめんね、みっくん。助かってるよ」
「……ううん。そんな……」


 あとは任せたって意味なんだろう。

 すまなさそうな表情で僕の頭を撫でると、お姉ちゃんはリビングを出て行った。

 帰ってくるかどうかも分からない両親の分は無いから、今日も蓮くんが来てくれると知って僕のほっぺたはだらしない。

 手料理を食べてもらえる事、しっかり目と目を合わせて「美味いよ」と褒めてもらえる事、食後の団らんに僕も参加させてもらえる事……嬉しい事が目白押しなんだもん。


「ダメダメ。しっかりしろ、蜜」


 喜んでもいいけど浮かれちゃいけない。

 蓮くんは僕じゃなく、お姉ちゃんに会いに来るんだ。勘違いするな。


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