3 / 12
相談
・②・
しおりを挟む一見怖そうに見える蓮くんは、強面だったり背が高かったりで威圧感があるせいで誤解されがちだけれど、実はとっても優しい。
ただ、普段は無口なのに言いたい事は言わなきゃ気が済まない性格だからか、あんまりオブラートに包まない物言いでお姉ちゃんをよく怒らせている。
まぁ、そんな痴話喧嘩も僕には見せつけられているようにしか感じないんだけれど。
「あれ、お姉ちゃんもうお風呂?」
たった今も、ご飯を食べたあとのまったりタイムに他愛もない会話をしていたと思ったら、蓮くんがお姉ちゃんの気に触ることを言ったらしい。
僕は食器を流しに運んでいて二人の会話があんまり聞こえなかったから、なんでお姉ちゃんが少し怒った様子でリビングを出て行ったか分からなかった。
「体がベタベタするってうるせぇから、シャワー浴びてくればって言っただけ」
「あ、……そうですか」
僕の呟きに返事をくれた蓮くんは、テーブルに残った食器を流しに持ってきてくれた。
そんな事で機嫌が悪くなったの?と不思議に思いつつ、蓮くんから食器を受け取る。
指先が蓮くんに触れないよう気を遣う僕は、すでに緊張し始めていた。
背の高い蓮くんが隣に立つと、僕のチビさが際立つ。すぐそばで喋られると、嫌でもドキドキする。
意識すると目が泳いでしょうがないから、俯く事しか出来なかった。
ありがとうの意味を込めてペコッと頭を下げると、蓮くんは何も言わずに台拭きをし始める。
まるで家族みたいな阿吽の呼吸に、僕はまた嬉しくなった。
僕ん家の事情を知ってる蓮くんは、僕ら姉弟からすると色々と助けてくれる言わば恩人なのに、感謝されるような事はしてないっていつもお礼を受け取ってくれない。
「今日も帰らないって?」
無言でテーブルを拭いてくれた蓮くんが、僕の隣に戻ってくるなり藪から棒に言った。
何の事だかすぐにピンときた僕は、台拭きを受け取りながら首を振る。
「……分かんないです……」
「連絡すら気軽に出来ねぇな」
「……はい」
「ま、居ないなら居ない方がいいか」
「……はい」
蓮くんが気にかけているのは、僕の両親の事だ。
いつからか両親は話もしなくなって、お互いの顔を見るのも嫌だとばかりにバラバラに帰宅する。いや帰宅すればいい方で、帰ってこない日もザラにある。
お母さんは実家が近いからいいとして、問題はお父さんだ。お父さんはどこで何をしてるのか本当に分からない。
とはいえ、過去に蓮くんにも大いに迷惑をかけた元凶はお父さんだし、帰ってこないならその方が良かったりする。
「今日も美味かったよ」
「……良かったです」
「皿洗いぐらいさせろよ」
「ダメです。片付けまでが料理なので」
「なんなの、それ。蜜ルール?」
僕の重たい空気を察したのか、蓮くんの軽口に優しさを感じた。
もう何度も繰り返してきたやり取りで、僕が洗い物を譲らない事を知ってるのに、考え込まないように配慮してくれる蓮くんは本当に優しい。
「お姉ちゃんすぐ戻ってくると思うんで、あの……ゆっくりしててください」
こうして蓮くんと隣同士で立ってるだけでも、僕は緊張してるんだ。
もちろん顔なんか一切見られない。
ごはん中は向かいに座ってるから仕方ないけれど、今は僕が見上げなきゃ自爆する心配も無い。
お姉ちゃんを挟んで初めて成立する関係なんだし、これ以上蓮くんに気を遣わせたくなかった僕はテレビの方を指差した。
すると蓮くんは、僕の精一杯の親切を無視してスッと屈んだ。
「なぁ、蜜」
「……っ!」
……ビックリした。
気安く名前を呼ばれた事もだけれど、内緒話をするみたいに蓮くんの気配がすぐそばにあって心臓が飛び跳ねた。
「相談っつーか、話があるんだけど」
「……ぼ、僕にですか? お姉ちゃんならもうすぐ戻るって……」
「蜜に聞いてほしい」
「え、……」
だからヒソヒソ声なのかぁ、なんて納得してる場合じゃない。
蓮くんがこんな事を言うなんて初めてで、しかもお姉ちゃんがいない時を選んでの相談……?
僕に? なんで?
プチパニックを起こしながら、でも僕は蓮くんの方は見れずに下を向いたまま聞き耳だけを立てる。
「最近アイツ、変なんだよ」
「へ、変? ……変?」
「簡潔に言うと、男いるっぽい」
「えっ!?」
蓮くんはそう言うと、背筋を伸ばして両手をポケットに突っ込んだ。
驚いて蓮くんの顔を見上げた僕を無表情で見おろす様に、ドキッとする間も無い。
こんなにも飄々と僕に語る蓮くんの気が知れなくて、色んな事を加味しても「まさか」の思いに駆られた。
11
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?
痩せようとか思わねぇの?〜デリカシー0の君は、デブにゾッコン〜
四月一日 真実
BL
ふくよか体型で、自分に自信のない主人公 佐分は、嫌いな陽キャ似鳥と同じクラスになってしまう。
「あんなやつ、誰が好きになるんだよ」と心無い一言を言われたり、「痩せるきねえの?」なんてデリカシーの無い言葉をかけられたり。好きになる要素がない!
__と思っていたが、実は似鳥は、佐分のことが好みどストライクで……
※他サイトにも掲載しています。
薄紅の檻、月下の契り
雪兎
BL
あらすじ
大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。
没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。
しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。
鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。
一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。
冷ややかな契約婚として始まった同居生活。
だが、伊織は次第に知ることになる。
鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。
発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。
伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。
月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。
大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
幼馴染みの二人
朏猫(ミカヅキネコ)
BL
三人兄弟の末っ子・三春は、小さい頃から幼馴染みでもある二番目の兄の親友に恋をしていた。ある日、片思いのその人が美容師として地元に戻って来たと兄から聞かされた三春。しかもその人に髪を切ってもらうことになって……。幼馴染みたちの日常と恋の物語。※他サイトにも掲載
[兄の親友×末っ子 / BL]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる