蓮と蜜

須藤慎弥

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相談

・②・

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 一見怖そうに見える蓮くんは、強面だったり背が高かったりで威圧感があるせいで誤解されがちだけれど、実はとっても優しい。

 ただ、普段は無口なのに言いたい事は言わなきゃ気が済まない性格だからか、あんまりオブラートに包まない物言いでお姉ちゃんをよく怒らせている。

 まぁ、そんな痴話喧嘩も僕には見せつけられているようにしか感じないんだけれど。


「あれ、お姉ちゃんもうお風呂?」


 たった今も、ご飯を食べたあとのまったりタイムに他愛もない会話をしていたと思ったら、蓮くんがお姉ちゃんの気に触ることを言ったらしい。

 僕は食器を流しに運んでいて二人の会話があんまり聞こえなかったから、なんでお姉ちゃんが少し怒った様子でリビングを出て行ったか分からなかった。


「体がベタベタするってうるせぇから、シャワー浴びてくればって言っただけ」
「あ、……そうですか」


 僕の呟きに返事をくれた蓮くんは、テーブルに残った食器を流しに持ってきてくれた。

 そんな事で機嫌が悪くなったの?と不思議に思いつつ、蓮くんから食器を受け取る。

 指先が蓮くんに触れないよう気を遣う僕は、すでに緊張し始めていた。

 背の高い蓮くんが隣に立つと、僕のチビさが際立つ。すぐそばで喋られると、嫌でもドキドキする。

 意識すると目が泳いでしょうがないから、俯く事しか出来なかった。

 ありがとうの意味を込めてペコッと頭を下げると、蓮くんは何も言わずに台拭きをし始める。

 まるで家族みたいな阿吽の呼吸に、僕はまた嬉しくなった。

 僕ん家の事情を知ってる蓮くんは、僕ら姉弟からすると色々と助けてくれる言わば恩人なのに、感謝されるような事はしてないっていつもお礼を受け取ってくれない。


「今日も帰らないって?」


 無言でテーブルを拭いてくれた蓮くんが、僕の隣に戻ってくるなり藪から棒に言った。

 何の事だかすぐにピンときた僕は、台拭きを受け取りながら首を振る。


「……分かんないです……」
「連絡すら気軽に出来ねぇな」
「……はい」
「ま、居ないなら居ない方がいいか」
「……はい」


 蓮くんが気にかけているのは、僕の両親の事だ。

 いつからか両親は話もしなくなって、お互いの顔を見るのも嫌だとばかりにバラバラに帰宅する。いや帰宅すればいい方で、帰ってこない日もザラにある。

 お母さんは実家が近いからいいとして、問題はお父さんだ。お父さんはどこで何をしてるのか本当に分からない。

 とはいえ、過去に蓮くんにも大いに迷惑をかけた元凶はお父さんだし、帰ってこないならその方が良かったりする。


「今日も美味かったよ」
「……良かったです」
「皿洗いぐらいさせろよ」
「ダメです。片付けまでが料理なので」
「なんなの、それ。蜜ルール?」


 僕の重たい空気を察したのか、蓮くんの軽口に優しさを感じた。

 もう何度も繰り返してきたやり取りで、僕が洗い物を譲らない事を知ってるのに、考え込まないように配慮してくれる蓮くんは本当に優しい。


「お姉ちゃんすぐ戻ってくると思うんで、あの……ゆっくりしててください」


 こうして蓮くんと隣同士で立ってるだけでも、僕は緊張してるんだ。

 もちろん顔なんか一切見られない。

 ごはん中は向かいに座ってるから仕方ないけれど、今は僕が見上げなきゃ自爆する心配も無い。

 お姉ちゃんを挟んで初めて成立する関係なんだし、これ以上蓮くんに気を遣わせたくなかった僕はテレビの方を指差した。

 すると蓮くんは、僕の精一杯の親切を無視してスッと屈んだ。


「なぁ、蜜」
「……っ!」


 ……ビックリした。

 気安く名前を呼ばれた事もだけれど、内緒話をするみたいに蓮くんの気配がすぐそばにあって心臓が飛び跳ねた。


「相談っつーか、話があるんだけど」
「……ぼ、僕にですか? お姉ちゃんならもうすぐ戻るって……」
「蜜に聞いてほしい」
「え、……」


 だからヒソヒソ声なのかぁ、なんて納得してる場合じゃない。

 蓮くんがこんな事を言うなんて初めてで、しかもお姉ちゃんがいない時を選んでの相談……?

 僕に? なんで?

 プチパニックを起こしながら、でも僕は蓮くんの方は見れずに下を向いたまま聞き耳だけを立てる。


「最近アイツ、変なんだよ」
「へ、変? ……変?」
「簡潔に言うと、男いるっぽい」
「えっ!?」


 蓮くんはそう言うと、背筋を伸ばして両手をポケットに突っ込んだ。

 驚いて蓮くんの顔を見上げた僕を無表情で見おろす様に、ドキッとする間も無い。

 こんなにも飄々と僕に語る蓮くんの気が知れなくて、色んな事を加味しても「まさか」の思いに駆られた。



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