蓮と蜜

須藤慎弥

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相談

・③・

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「ま、まま待ってください、蓮くん。お姉ちゃんに限ってそんな事……っ」
「信じらんねぇよなぁ」
「はい! ていうか、信じたくないです!」


 蓮くんがウソを吐いてるとは思ってない。でも、そんな事あるはずない、信じたくないと蓮くんの言葉を否定したくなるのも仕方がないと思う。

 だってお姉ちゃんだよ?

 お姉ちゃんが蓮くんを裏切るなんてとても信じられない。

 きっかけや時期は知らないけれど、お姉ちゃんはいつも蓮くんの話題ばかりだった。

 僕が好きになるずっと前から、何なら一目惚れだったんじゃないかってくらい、お姉ちゃんはずっとずっと蓮くん一筋に見えた。

 だから、はっきりと宣言されなくても二人の空気感の違いですぐに分かった。

 お姉ちゃん、良かったね。やっとモテモテの蓮くんをひとりじめ出来るね。

 僕とお姉ちゃんの間で恋バナなんかしなかったから、そっと心の中で祝福したのを覚えてる。

 頭の上にお花が咲いてるみたいに、毎日ルンルンだったお姉ちゃんのことだ。

 きっと何かの間違いだよ。


「俺そんなに鈍くねぇからさ、分かるんだよ。アイツ絶対男いる」
「いや、いやいや……そんな……」


 蓮くんの声色から、なんだか絶対の自信がありそうだ。〝鈍くない〟だけでこんな事を言ってるとは思えないし、そうなると僕の頭はもっと混乱する。

 いくら僕がお姉ちゃんを庇おうと首を振っても、蓮くんにもそう感じた根拠があるはずで、どちらも否定しきれないからさらに困った。


「そこで相談なんだけど」
「…………」


 蓮くんはジッと僕を見おろしていて、居たたまれなくなった僕は咄嗟に俯いた。

 見つめられるのは慣れてない。今日も変わらず見惚れるくらいにかっこいい蓮くんは、その自覚があるのかないのか僕を大いに戸惑わせる。

 なぜか僕が責められているような気になって、居心地も悪かった。

 蓮くんの声が遠くに感じるほどには、僕は動揺していたんだ。


「蜜、花を尾行するの手伝ってくんねぇ?」
「えっ!? お、お姉ちゃんを尾行するんですか?」
「そう。問い詰めるにしても証拠が必要じゃん」
「…………」


 そ、そっか、そうだよね……。

 蓮くんの気持ちを考えると、何かをキッカケに裏切られたと感じたのは蓮くんの方で、彼氏としては黙ってられないというのも当然だ。

 尾行して証拠を掴んで、問い詰める。

 それに僕を巻き込む必要があるのかは置いといて、正直あまり気が進まない。

 疑いながら尾行するって、確信犯じゃない?


「気が進まないよな」
「まぁ、その……ちょっと頭の中が混乱してて……」
「だよな。俺も」


 そう言われると断りにくい。

 部外者の僕より、出来れば蓮くんの方が事実を知りたくないよね。それにきっと、本当は問い詰めたくもないはず。

 恐る恐る見上げると、蓮くんと目が合った。

 表情に変化の無い蓮くんはいつも通りに見える。

 とんでもない話を僕に持ち掛けてきたわりには飄々としているし、「ですよね……」と呟いた僕の頭をぽんぽんと撫でる余裕まである。


「とりあえず土日空けといて」


 いいな?と瞳を覗き込まれた。

 否応なしに頷く羽目になった僕の心は、ちょっと現金すぎる。

 頭を撫でられて、至近距離で見つめられて、間近で囁かれるなんて初めての事で、混乱中の頭が沸騰しそうになった。

 覗き込まれた瞳がハートマークになる寸前、僕への念押しが完了した蓮くんは静かにテーブルの定位置につく。

 それを黙って目で追っていた僕は、たった数分の間に起こった感情の処理にしばらくかかった。



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