必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 明日レッスンが休みと聞けば、遠慮無く当然のように葉璃を泊まらせるために、聖南自らが葉璃ママへと連絡して快く承諾をもらった。

 そんな聖南は今、葉璃の案内でなぜか定食屋にやって来ている。

 恭也の彼女らしき人を目撃してしまいしばらくほっぺたが膨らみっぱなしだった葉璃は、レッスン終わりで腹ぺこ過ぎて機嫌が悪いのだろうと、またもやそういう事にしておいた。

 葉璃はここへ家族と何度か来た事があるらしく、店の店主と仲睦まじく会話をしている。

 人見知りな葉璃が笑顔を見せるくらいだから、きっと何度も訪れている常連なのだろう。

 聖南はというと、借りてきた猫のように大人しく葉璃の隣に着席している。

 こんなに田舎のおじいちゃん宅感のあるお店に来るのは初めてで、どんなものが出てくるのかさえ知らない。

 芸能生活が長く、家族が居なかった聖南は、こういう庶民的な店にまったく馴染みが無かった。


「な、なぁ、葉璃……ここ何屋なんだ?」
「定食屋さんだって言ったじゃないですか。 聖南さんまた高ーいお店に連れてく気だったでしょ?  だから今日はここです。  俺が奢ります」
「定食屋ってどういう事なんだよ?」
「はい、これメニューです。  どれ食べますか?」


 渡された紙きれには数種類のおかずの定食メニューが書かれていて、聖南は無難に唐揚げをチョイスし、葉璃は生姜焼きを頼んでいた。

 ほんの十分ほどで運ばれてきた定食は、聖南の度肝を抜くほどボリューム満点で、ご飯茶碗から数センチ山のように盛り上がったご飯の量を見て目を見開いた。

 葉璃はペロリだったが聖南はやっとの事で完食した。


「美味しかったぁ。 ごちそうさまでした」
「苦しい………」


 味はとても美味しかった。 家庭的なおかずと味噌汁に、確かにほっこりした。

 だが量が多い。

 これから隔週恒例のラジオの仕事に行くのだが、まともに話せるかも分からないほど満腹だった。

 なぜかここは葉璃が出すと言って聞かず、財布を差し出すとキレられたので「ごちそうさま」とだけ言ってその後は黙っておく。

 会計の驚きの安さにも聖南は再度目を見開き、商売は成り立っているのかといらぬ心配をしてしまった。

 眼鏡を掛けてハンドルを握ったが、お腹が苦しくて背凭れに体を預けて休憩していると、葉璃に心配そうな瞳を向けられた。


「聖南さんが行った事ないようなお店に連れて行ってあげたかったんですけど……。  お口に合いませんでした?」
「いや、美味かったよ、マジで。  ただ腹が苦しいだけ」
「そっか、良かったです」
「葉璃あの量普通にペロッと食うよな、すげぇわ」
「聖南さんが小食なんですよ~」
「俺は普通だ」


 葉璃が大食いに近いほどよく食べるのは見ていてすごく気持ちがいいし、もっと食えと促してしまうほどモグモグする姿は可愛い。

 だが葉璃に付き合って聖南も同じ量を食べなければならないとなると、もっと胃袋を鍛えなければと思った。

 どうせなら葉璃と美味しいものを一緒に食べ、美味しいね、と言い合いたいからだ。

 しかも葉璃の馴染みの店に聖南を連れて来たかったと聞けば、こんなに嬉しい事はない。

 やっと葉璃のテリトリーをも聖南は許された気がした。

 満腹感を慣らすため、まったりとシートに体を預けていた聖南の耳に、驚くべき台詞が聞こえてしまう。


「なんか甘いの食べたいなー……」


 可愛い可愛い葉璃が、あれだけ食べたというのに助手席でデザートをご所望した。

 まだ食べるのかと驚きを持って見詰めたものの、葉璃に甘い聖南は「よし、買ってきてやる」と張り切った。

 聖南もそれほど詳しいわけではないので、大急ぎでお洒落なカフェを調べて車で移動し、パンケーキをテイクアウトで注文した。

 さすがに、葉璃の分だけだ。

 聖南がカフェに入ると騒ぎが巻き起こってしまったが、プライベートだからとファンサービスは握手のみに留めて、葉璃のパンケーキを待った。

 一方、葉璃は三軒向こうのコーヒーショップで聖南のエスプレッソを注文しに行ってくれている。

 人見知りのくせに、

「聖南さんのためならがんばります。 待っててください」

といじらしい事を言われてしまうと、あまりに嬉しくてそのエスプレッソは勿体なくて飲めないかもしれない。

 聖南にはまるで不似合いなパンケーキを大事そうに抱え車内で葉璃を待つ間、互いが互いの物を買う妙さに気が付いた聖南は、何とも優しげに笑った。



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