必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 見事としか言いようのな手入れの行き届いた日本庭園の脇から、駐車場へと抜ける。 薄暗いそこにビクついていた葉璃を後部座席に乗せ、自分も続いた。


「えっ? ちょっ、……?」


 聖南も乗り込んできた事に戸惑う葉璃をシートごと倒し、のしかかる。

 感激のまま柔らかなほっぺたを両手で包み込むと、好きだという感情がとめどなく溢れた。

 瞳を閉じて小さく深呼吸し、ゆっくりその目を開くと倒されたシートの上でジッと聖南を見上げている葉璃を見詰めた。


「日向聖南は、倉田葉璃を一生愛すると誓います」
「……なっ、え、? ……聖南さんっ?」
「病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も……いや貧しくはならねぇか。 伴侶として愛し、敬い、慈しむ事を誓います」
「聖南さん! 何ですか、どうしたんですか、急に!?」


 聖南は突然、葉璃に向かって誓いの言葉を恭しく告げた。 気障だと分かっていながら、言わずにはいられなかったのである。

 葉璃が父親へ啖呵を切っていた間、あまりの感動で聖南は拳を握っていた。

 実質縛ることは出来ないが、ここまで目に見える愛を伝えてくれた葉璃には一生離れてほしくない。 葉璃がしっかりと愛し返してくれると分かった以上、聖南はもう、一人では生きていけなくなった。

 この感謝と喜びをどう伝えたらいいかと悩む間も無く告げたそれは、葉璃にはあまりにも唐突過ぎてオロオロさせてしまった。


「……聖南さん……っ?」
「言いたくなったから」
「だ、だからって……」
「葉璃の返事はまだいらない。 俺とずっと一緒に居てほしいし、離れて欲しくないけど、俺が葉璃の人生を縛るのは無理だ。 葉璃が前言ってただろ」
「………………」
「もし俺達が別れる事になったら、葉璃は俺の事が大好きだから別れてあげますって。 その後ストーカーになるとか言ってたけどな。 何で好きなのに別れられんの、ってあん時は腹立ったし訳分かんなかったけど、今なら分かる。 愛してるから、自分よりも相手の事の方が大事になるんだ」


 一方的に好きの気持ちを押し付けるだけが聖南の愛し方だと思っていたけれど、葉璃が聖南を思っての行動にようやく、あの時の葉璃の言葉の意味が分かった。

 大好きだからこそ、相手が思うようにさせてやりたい。

 縛るだけが恋愛ではない。

 聖南の生きる糧である葉璃を失えば、その時自分はどうなってしまうかなど正直分からない。 だが、もしもの時は葉璃の考えを尊重するだろう。

 愛しているから。

 困らせたくはないから。

 幸せでいてほしいから。

 そうなったら聖南は本当に息絶えてしまうかもしれないけれど、葉璃の気持ちが一番だと思えるようになっている。

 愛する者のためならば、造作もない。

 葉璃が聖南の気持ちを汲んで行動を起こしたように、相手を思いやる事も愛なのだと教えてくれた。


「……聖南さん、……」
「ん?」


 瞳を丸くしたまま、無言で見上げてくる葉璃と見詰め合っていると、ふと形の良い小ぶりな唇が動く。


「聖南さん、俺の返事待っててくれるなら、三年後にまた言って下さい」


 ほっぺたに乗った聖南の両手に、葉璃は照れながら自身の掌を重ねた。 薄っすらと微笑みを浮かべたその顔に見惚れた聖南は、かわいー……とついつい本音が漏れる。

 しかし「三年後」という意味深なワードに頭をフル回転させるが、意味がよく分からない。


「三年後? 三年後って何?」
「俺のターニングポイントが三年後、……だからです」
「………………」
「俺はまだ、聖南さんを支えてあげられません。 まだまだ聖南さんを追い掛けなきゃいけない俺が、三年後……今より自信持って聖南さんと並んでいられてたら、返事します」


 フル回転させた頭の中で、社長の言葉がふいに浮かんだ。

 ───ETOILEは三年後、新しく三名加入させる。と話していたが、葉璃の決めた「三年」とはその事だろうか。

 この世界でのアイドルは、デビューから三年が消えるか残れるかの境目ともあり、社長の発言にも聖南はそれほど驚かなかったが……まさか葉璃がそれを前向きに捉えているとは知らず、何やら聖南は嬉しくなった。

 知らない他人が三人も入ってくるなんて嫌だな、と以前の葉璃なら愚痴の一つでも漏らしていたに違いない。


「……いっちょまえな事を」
「ふふっ……ごめんなさい。 でも俺は、聖南さんの言葉は貰いましたからね。 キャンセル不可ですよ」
「キャンセルなんてするかよ。 葉璃には今までもめちゃくちゃ待たされたからな。 三年なんてあっという間だ。 しかも今は、……ちゃんと俺の横にいるし」
「あ、前の事は言わないで下さいよ! 俺なりに悩んでたんですからっ」


 足をとたとたと動かして可愛く怒る葉璃を、聖南は彼にとっては重たいほどの愛を持って見詰めた。

 眩しく高らかに成長し続ける葉璃と、この先も共に歩んでいけるのならいくらだって待つ。


「それは俺も一緒。 葉璃、俺の言葉貰ったんなら誓いのキスは」
「今日の聖南さん、……気障ですね」
「うるせぇ」


 聖南はゆっくり、照れ隠しで揶揄う葉璃の唇を奪った。

 誓いのキスを模しているので、あくまでも優しく、やわらかな唇だけを堪能した。

 ───幸せだ。







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