必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
326 / 541
49♡

49♡

しおりを挟む
─葉璃─



 今日はヤキモチ焼きが一段と凄かった聖南は、お風呂上がりにアイスココアを作ってくれた。

 昨日あんな事があったから、もしかしたら……という思いはあったけど、やっぱりだった。

 元気いっぱいに俺を翻弄していた聖南が、急に「離れていくな」と言い出して……。

 それだけならまだしも、アキラさんへのヤキモチが加速し始めた聖南は少しずつ気持ちを吐露し始めて、俺はそこでようやく、心が不安定なんだと気付いた。

 まぁでも、聖南のヤキモチ焼きは今に始まった事じゃないから……正直あんまり違和感は無かったかな。


『───俳優の荻蔵斗真さんの熱愛スクープです!』


 寝てないまま朝の九時を迎えて、俺も聖南も目が冴えててリビングでテレビを見てのんびり微睡んでいると、また荻蔵さんのニュースが流れた。

 聖南はピタッと俺にくっついて、「ふっ」と笑う。


「まだ懲りねぇのか、荻蔵」
「みたいですね……。 ちゃんと彼女作ればいいのに」
「事務所ももう放ったらかしてるもんな。 こいつ今後は、たらし役とかそういう役しか回ってこないんじゃね? もしくは幹部にキレられて謹慎言い渡されるか」


 見てろ、と笑う聖南はいつもの調子に戻ってて一安心だ。

 あれから俺は、なるべくアキラさんの名前を出さないでいたから、それも少しは功を奏してるかな。

 聖南の表情を見て安心した俺は、再びテレビに視線を向ける。 朝のワイドショーってあんまりゆっくり見た事がないんだけど……荻蔵さんのこれまでのスキャンダル遍歴なるものまで放送されていて呆れちゃったよ。

 あんなにたくさん浮名を流していたとは知らなかった。 予想のかなり上をいく現実を見ると、素人ながらにも出演作や事務所に傷を付けないようにしてほしいと思ってしまう。

 はは、……と乾いた笑いを漏らしていると、聖南が上体を起こして俺をジッと見詰めていた。

 わぁ……今日も抜群にかっこいい。


「葉璃、腹減らないの?」
「減らないです。 朝は相変わらず食べられない」
「そうなんだ。 だから夜あんなに食うんだ」
「え、俺そんなに食べてます?」


 いや別に、と笑った聖南は、立ち上がって二杯目のコーヒーを注ぎに行った。

 それを俺は視線で追い掛ける。 聖南の歩き方とかふとした時の横顔とかを見逃さないようにって、体が勝手に動くんだ。

 その時ちょうど、キッチンにいつも置いてある聖南の自宅用のスマホが鳴り響いた。

 注いだそばからコーヒーを啜る聖南が、画面を見るなり「あ」と声を上げる。


「社長だ」
「えっ…………」


 ───社長……っ? そ、それは……やばい、……やばい。

 俺の脳裏に、昨日社長の前で聖南のお父さんにあれやこれやとぶち撒けてしまった事が鮮明に蘇ってきた。

 いくら聖南のためだとはいえ、頭に血が上ってたからって俺みたいな凡人があんなに怒鳴り倒していいはずがない。

 社長が聖南に電話してきたのって……どういう理由なのかな。

 絶対、絶対、絶対、俺の話が出るよね。 あの場に俺がいるなんて不自然でしかないんだし、聖南のお父さんにあんなに捲し立ててしまった事も「先輩後輩だから」って言い訳はきっと通用しない。

 ただの「先輩後輩」じゃないって、……バレたのかもしれない。

 俺のスマホは電源を落としてあるし、どういう事なんだって事情を聴きたくて聖南に掛けてきたとしたら……。


「はいはーい」


 俺がぐるぐるし始めている事に気付かないまま、聖南は何とも軽い口調で応じた。

 胸がざわざわする。

 さっきまでの甘いムードが一変してしまった。


「今から? ……あぁ、うん。 フリーだけど。 ……分かった」


 短い会話の後、ソッとスマホをキッチンに置くと聖南がソファに戻ってきた。

 聖南のこの表情では、内容までは窺えない。

 けれど次の瞬間、聖南の口から俺の不安を増長する言葉が告げられる。


「社長に俺らの事がバレた。 葉璃も呼ばれたから、今から事務所行くぞ」
「え…………」


 俺達の事が、バレた、……? それ……相当ヤバくない?

 あまりの衝撃的な台詞に、なかなか思考が追いついてこない。

 もしかして俺たちの関係がバレちゃったかも、と考えない事もなかった。 

 俺があの場でとった行動は、誰が見ても「聖南のための激怒」だったからだ。

 でも、でも、……一番バレちゃいけない人物にバレちゃっただなんて、そんなの……っ。


「大丈夫。 何があっても葉璃は俺が守るから」
「い、え、い、……や、……え……!?」
「ぷっ……! 葉璃、動揺し過ぎだって。 マジで大丈夫だから。 俺がついてる」


 そんな事を言われても、俺はちっともホッと出来ない。 笑う余裕まである聖南が逆に信じられないよ

 だって俺、……どうしよう。 聖南のためにブチ切れたのに、その結果が聖南に迷惑を掛けてしまうかもしれないなんて、本当に向こう見ずに行動し過ぎたんだ。

 とてもじゃないけど行けない、と俺は一回だけごねてみたけど、「大丈夫だから」と押し切られて、足取り重く聖南の車の助手席に乗り込んだ。

 俺はどうなってもいい。 社長の怒りが治まらないなら、デビューがふいになってもしょうがないと思ってる。

 だって聖南は大塚芸能事務所の稼ぎ頭で、CROWNのセナなんだよ。

 男と付き合ってるなんて異常だって言われるに決まってる。

 俺と聖南を一緒に呼び出すなんて、きっと社長はカンカンに怒ってるんだ。

 だから、社長が聖南に傷付ける言葉を言う前に、俺が先陣切って言わなきゃ。

 別れたくないけど、……「別れます」って。

 だから聖南の事はこれまで通りよろしくお願いします、って……。

 ただただ俺が、調子に乗り過ぎた。 

 聖南への想いを自覚したあの日から、いつかこうなるかもしれないって分かってたはずなのに、俺は聖南の隣に居ることに慣れ過ぎてしまってた。

 甘やかされて、とろとろに愛されるのが心地良くて、もう二度と離れられない……離れたくない……と生意気にもそんなことを思うようになってしまったんだ。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ユキ・シオン

那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。 成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。 出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。 次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。 青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。 そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり…… ※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

お弁当屋さんの僕と強面のあなた

寺蔵
BL
社会人×18歳。 「汚い子」そう言われ続け、育ってきた水無瀬葉月。 高校を卒業してようやく両親から離れ、 お弁当屋さんで仕事をしながら生活を始める。 そのお店に毎朝お弁当を買いに来る強面の男、陸王遼平と徐々に仲良くなって――。 プリンも食べたこと無い、ドリンクバーにも行った事のない葉月が遼平にひたすら甘やかされる話です(*´∀`*) 地味な子が綺麗にしてもらったり幸せになったりします。

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

処理中です...