必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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─葉璃─



 つい先週、聖南へのサプライズプレゼントとしてパフォーマンスをしたばかりのTzホールで今日、CROWNのツアーが開幕した。

 俺と恭也はこの土日からデビュー会見の日までレッスン以外の外出が禁止だって林さんに言われたから、ツアー初日である今日は観に行きたくても行けない状況にある。

 昨日聖南からラジオが公開生放送だって聞いた時は驚いたけど、すごい事を考えるなぁって素直に感心した。

 それを実現させたスタッフさん達の苦労や努力も同時に感じて、絶対に聴かなきゃと十分前からスマホ片手に待機してたら突然、聖南から着信があった。

 生放送直前なのに「会いてぇ!」って叫んでたから早々に切ったけど。

 聖南の声色と物凄いハイテンションさを耳にすると、ライブをめちゃくちゃ楽しめたんだと分かったから、通話を切った後は笑ってしまった俺だ。

 ───良かったね、聖南。

 色々な思いを募らせながらあれだけ準備に時間を掛けて、聖南もたくさん関わって作り上げてきた満を持してのツアーは、きっと「成功」の二文字しかない。

 俺と恭也も来月中旬からそれに加わる事になるから、レッスンを死ぬ気でがんばらないと。

 聖南の思いと、CROWNの今後のために、ETOILEとしても、倉田葉璃個人としても力になれたらいいな。

 時折声を上げて笑ってしまった公開生放送のラジオは大成功のうちに終了して、俺は今その余韻に浸って自分のベッドに転がっている。

 見慣れた天井を仰ぎ見ながら、スタッフさん達に囲まれて楽しむ聖南を想像すると会いたくてたまらなくなってくる。


「聖南さん今頃打ち上げ中かなー……」


 まるでこの場にCROWNが居るかのような饒舌な三人の掛け合いに、まだワクワクが止まらない。

 会場に行けなかったリスナーの子達も、こうした気持ちを胸に「次は絶対ライブ行こう」って思ったんじゃないかな。

 チケット発売から数分でSOLD OUTだったらしいから、チケットを買えなくて悔しい思いをしたファンも大勢居ると思う。

 その気持ちを無駄にしたくないって熱い思いが、三人の言葉の端々から伝わってきて流石と言わざるを得なかった。

 ホールの臨場感そのままにライブ直後に公開生放送するなんて、誰が思い付くだろう。

 聖南はツアーの企画発案者としてあらゆる方面の業績を結果として出さなきゃいけなかったから、一時期は俺と会うのを我慢して奔走していた。

 その度に「会いてぇよ~」って泣き言を言ってたけど、仕事を全うしている聖南は以前より遥かに生き生きとしててカッコいいから、そのままを伝えてあげたらすぐにやる気を取り戻してくれた。

 褒められる事に慣れ過ぎてた聖南は、そうやって「カッコいい」って言葉をストレートに言ってあげつつも、さっきみたいに冷たくあしらって飴と鞭を使い分けるといいらしい事が分かった。

 お互いがしっかりしなきゃ、俺と聖南はダラダラと甘い沼に二人して沈んでしまう一方だ。

 俺がダメな時は聖南に叱ってもらうし、聖南がダメな時は俺が出来る範囲で叱咤する。

 そんな俺は元来ネガティブだから相変わらずぐるぐる悩んでしまう事もあるかもしれないけど、それは聖南に甘んじてもらって、でもなるべく俺自身も悩まないように気を付けていくんだ。

 なんと言っても、大好きな人だから。

 瞳を瞑ると、さっきまでイヤホンから流れてきてた聖南の声が蘇ってきて、ふふっと笑みを溢してしまう。

 見た目もさることながら、声までカッコいいなんて反則だよなぁ。

 まだ打ち上げの途中だろうし、俺は明日も朝からレッスンだからこのまま寝ちゃおうって思ったその時、スマホがブルブル震えた。

 もしかして、と期待して画面を見ると「聖南♡」からだった。


「…………わぁ……聖南さんだ……!」


 まだ0時を回ってないから打ち上げが盛り上がってる最中だと思ってたのに。

 今日はさすがに、俺が寝ちゃった後で聖南からメッセージがくるんだろうと勝手に思い込んでたから、声が聞けるなんて嬉しい。


「もしもし、聖南さん?」
『お、葉璃? ごめん、寝てた?』
「ううん。 何で?」
『出るの遅かったから』
「あ、いや……それは……」
『何?』


 もう今日は聖南の声は聞けないだろうなって思ってたから、電話してくれてすごく嬉しい……って、スマホを握ってちょっとキュンキュンしてただけ。

 でもそれを言うのは少し照れくさくて、胸に秘めておいた。


「何でもないよ。 聖南さん、初日お疲れ様でした。 ラジオも聴いてましたよ、面白かった!」
『おー、お疲れ。 ラジオ面白かった? 良かった』
「あれ、聖南さんやけに落ち着いてるね。 さっきあれだけ興奮してたのに」


 電話の向こうの聖南はいつもの聖南だ。

 ラジオ直前のハイテンションはどこにいったんだろってくらい大人しいから、……何かあったのかな。


『さっきのはマジでごめん。 会いてぇのはほんとだったけど、あれは俺がまずかった。 今も興奮はしてんだけどな。 でもちょっと感慨深くてしんみり中なんだよ』


 確かに聖南の周囲は物音一つしない。

 打ち上げ会場から離れた場所で、恐らく聖南は今一人で感動と興奮を噛み締めてるんだ。


「……そっか……。 聖南さん、すごい時間と労力かけてこのツアーに走り回ってましたもんね。 ……初日大成功おめでとうございます。 明日からもまだたくさん公演あるんだから、残りのしんみりは最後の日にしてください」
『ふっ……そうだな。 残りは最終日に取っとかないとな。 あー……葉璃、声だけでも聞けて良かった。 ……愛してるよ』
「俺も聖南さんの事大好きです。 明日も心の中でいっぱい応援しますね。 ちゃんと寝て、しっかり食べて、カッコいい聖南さんをみんなに観てもらって下さい」
『あぁ、分かった。 葉璃から言われるまでもなく俺はカッコいいけどな』
「あはは……! その調子です。 ……聖南さん、みんなのために、明日もがんばってね。 応援してます」


 聖南の中の喜びが俺にも伝わってくるほど、温かく落ち着いた声だった。

 切る間際に「おやすみ」と言われたけど、
───何だか胸が熱くて眠れそうにないや。



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