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62・ETOILE初舞台前日
〜同室争奪戦Ⅱ〜
「は!?! なんでだよ!!!」
アキラの一言に、葉璃の匂いを堪能していた聖南が勢い良く立ち上がった。
そんな事は聞いていないと焦りまくる聖南を前に、お茶を飲んでいたケイタが冷静に視線を寄越す。
「明日はETOILEの大事な初お披露目の日なんだよ? 獣セナが暴れたらハル君……明日に支障をきたすかもしれない」
その台詞で聖南はすべてを察したが、それでも葉璃と別部屋など考えたくもないと拳を握った。
立ち上がって憤る聖南を黙って見ていた葉璃はというと、自身の手のひら文字の件が流れたらしいと分かって弁当に意識が向いていた。
聖南が置いてくれた三つ目の弁当の中に好物のだし巻き卵が入っていて、CROWN三人の会話はほとんど聞いていない。
「なっ…!? それはねぇよ! ダメだ、俺は認めねぇからな!」
「残念ながら社長命令なんだよ。 ETOILEとしてツアーに同行してんだから、ハルと恭也にとってはマジで大事な日だ。 今日、我慢出来んのか、セナ?」
「が、我慢……我慢する! するって!」
「セナ、禁欲は真っ平なんだろ。 一週間ぶりに会えたハル君はどう?」
ケイタが葉璃に視線を移し、聖南も、隣でご飯をもぐもぐしている葉璃を見た。
───もちろんこの一言しかない。
「かわいー! かわいーに決まってんだろ!」
「そう思う相手が同じ部屋に居ます、シャワー浴びて色っぽくなりました、ベッドイン、……その後は何が起こる?」
「セッ……」
「皆まで言うな! ……だろ、そうなんだよ。 セナハル揃うとそうなっちまうだろうから、先手を打たれたわけだな」
「畜生……社長の野郎……」
聖南は苦々しく下唇を噛み、ドカッと腰を下ろして腕を組んだ。
分かりやすく拗ねている聖南の怒りの矛先は、長年面倒を見てくれている社長へと向かった。
二週間ほど前に社長室へ訪れた際、併設された会議室に葉璃を連れ込んだ聖南を見ていたからか、社長がそんな事をアキラとケイタに託していたなど何とも腹立たしい。
「て事で、ハル君と同室なのはアキラか俺なんだけど」
「てかなんでお前らのどっちかと葉璃が同室なんだよ」
そもそもナゼ同室にこだわるのか。
聖南ではない誰かと葉璃が同室で一晩過ごす事を思えば、シングルルームでも文句は言わないからそれぞれ一人部屋にしてほしい。
「CROWNとETOILEの親睦を深めろってさ。 もうかなり深まってるとは思うけどね」
「ツインルームで一人は色々とキツイもんがあんだぞ。 セナハルはイチャついてるから分かんねぇかもしんねぇけど」
「シングル五部屋借りて一人ずつ泊まればいいだろ!? ツイン三部屋と何が違うんだよ!」
「しつこいよ、セナ。 もう決まった事なんだから今さら部屋取り直すなんて無理」
CROWNの最年少であるケイタにピシャリと一喝された聖南は、ガルル……と獣のようにアキラとケイタを交互に睨む。
聖南が葉璃と一夜を過ごせないのは精神的に痛いが、もう何を言っても揺るがなさそうだ。
社長命令という事、そして愛しの葉璃を前に「我慢」が出来るか実は自信がない事を鑑みれば黙るしかない。
先週の禁欲は本当に頭がおかしくなりそうだったのだ。
「……俺がダメなら、恭也と葉璃を同室にすれば?」
「恭也とセナは同じ匂いすっからダメだ。 万が一があると困るからな」
聖南の提案に恭也の瞳がキラリと輝いたが、即座にアキラから一蹴される。
聞き捨てならないとばかりに、恭也が弁当をかき込む葉璃を見て呟いた。
「……葉璃の事、大好きですけど、そんな感情は無いのに……」
「危ねぇ橋は渡らないに限る」
「ハル君の事、平気で「大好き」って言える事自体がギリギリのラインだと思うよ。 セナも恭也も考え方似てそうだし」
「セナと恭也が同室、俺かケイタがハルと同室、あぶれた奴が一人部屋だ」
「そんな事があっていいのか!? お前らも油断してたらコロッといくんじゃねぇの!?」
「セナと一緒にするなよ~」
「俺とケイタは人前でハルを抱き締めたいとは思わねぇから」
満足そうにお腹を擦る葉璃に四人の視線が注がれる。
四つ目の弁当に手を出すかどうかを迷っていた葉璃は、その幾多から突き刺さる視線にはまるで気付かない。
そこで聖南の脳にふと、ある考えがよぎる。
アキラとケイタは抱き締めたいとは思わない、という事はもしかして……。
聖南が葉璃の頭上越しに恭也を見た。
「…………恭也、抱き締めたいと思った事あんの?」
「………………ありますよ」
「ほら、恭也も危ない!」
───確かに危ない。
恭也がどれだけ葉璃に恋愛感情は無いと断言していても、それが男である事がネックならば、聖南の経験上それは何の弊害にもならないとこの身で痛感している。
どんなきっかけで友情が恋心へ育つか分からない、ましてや恭也と葉璃は異常なほど仲がいい。
「やべぇな、マジで恭也も危ねぇ。 納得いかねぇけどアキラとケイタで甘んじる」
「そんじゃ、俺とケイタでロシアンたこ焼きだな」
「何だそれ。 そんなので葉璃との同室を決めんのか。 それなら俺でいいじゃん」
「セナは黙ってろ」
仲良さげな四人の語らいの意味が分からないまま、葉璃はついに四つ目の弁当を広げた。
早く皆と合流しようと急いだので、朝を抜いたせいか昼から食欲が止まらない。
右隣の聖南がお茶を差し出し、左隣の恭也は白身フライにしょう油だかソースだかを適量垂らしてやっている。
甲斐甲斐しい葉璃の両サイドは放っておいて、アキラとケイタによる葉璃との同室争奪戦が始まった。
「わさび入り食った方が一人部屋な! アキラには負けない!」
「俺も負けねぇ。 ハルと話したい事たくさんあるし」
用意された二つのたこ焼きのどちらかに、成田に仕込ませたわさびが大量に注入されている。
紙皿にのったそれを、二人はジロジロと値踏みした。
「こんな時くらい譲れよー! ハル君と俺って二人きりになった事、ほんっとに数えるくらいしかないんだけど!」
「そうだっけ? じゃあ俺の方がいいよな、ハルは。 慣れてるだろ」
「ずるいって、それは! 俺もハル君とちゃんと話したいよ!」
「俺はコレにする」
「あ! もう選んでるし!! じゃあ俺はこれ。 残り物には福があるんだよーん」
聖南と恭也が面白がって見守る中、アキラとケイタは同時にたこ焼きを口に含んだ。
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