必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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39☆

39☆ 4・アキラとケイタはセナハルの味方

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 アキラはこんな展開を望んでいたわけではない。

 そしてケイタもまた、ハルのか弱いイメージが一変する意外な一面に驚いていたと同時に、二人がこのまま仲違いするのではないかと焦り始めた。


「セナ!  話してやれって!」
「ハル君が居なくなってもいいの!?」


 ハルがいよいよ扉に手を掛けようとした時、ようやくセナは意を決したように胡座をかいてハルを呼んだ。


「…………葉璃、ここ座って。  全部話すから」


 しょんぼりと肩を落としたセナとハルは、似たような浮かない表情で向かい合う。

 セナハル以外の三人は、このままここに居てもいいのかと互いの顔を見合わせたが、今さら出て行くのも水を差しそうで、気配を消す事に専念した。

 と言いつつ、腹ぺこの成田はちゃっかり飲み物のオーダーをして、テーブルいっぱいの料理に手を付け始めたのだが。


「例のキスの件、あんだろ」
「……はい、ありましたね。  謝罪を受け入れてあげてって言ったやつでしょ?」
「あぁ。  あれな、無くなった」
「え!?  なんでですか!  聖南さんまたブチ切れたんですかっ?」


 セナの前にちょこん、と座ったハルが驚いて身を乗り出し、またセナがキレて仕事をふいにしたのかと怒っている。

 今日は特に頼りがいのないセナの下手な説明では、彼が最も恐れているハルの「嫌いです」発言がいつ飛び出すか分からない。

 気配を消そうとしたアキラとケイタは思わず口を挟んだ。


「ハル、セナはブチ切れたわけじゃねぇんだ」
「ちゃんと謝罪を受け入れるつもりだったんだよ。  でもそのモデルが、謝罪の場でセナに言い寄ったらしい」
「しかもボイスレコーダー持ち込んでね」


 食事中の成田まで加わってセナの擁護に回った事で、ハルの表情がいくらか柔らかくなった。


「えぇ?  ……そ、そうなんですか、聖南さん?」
「あぁ。  恋人いるから困るっつったんだけど、それでもいいって抜かしやがって。  それをボイスレコーダーで録って揺さぶろうとしてきたんだよ、この俺を」
「…………で、それと俺に連絡してくれなかったのと、どう関係があるんですか?」
「え…………」
「それならそうと言ってくれれば良かったじゃないですか。  なんで話してくれなかったんですか?」


 まぁそうくるだろうな、とアキラはビールを飲みながらセナを見やると、いつも飄々としている男前が見事なほどにやられた顔をしていて、含んだビールを吹き出しそうになった。

 こんなにも完全に押し負かされているセナを見るのは初めてで、ケイタも二人から目が離せない。

 ハルがグッとさらにセナに近寄り、「聖南さん!」と黙りこくる恋人を見詰めた。

 見守る三人の前では相当言い難いのか、セナはハルを指先で呼ぶと、何かを耳打ちした。

 しばし静かな時が流れたかと思うと、ハルは突然セナの肩をえいっと一発叩く。


「…………っ言うわけないじゃないですか!  俺そんな分からずやに見えます!?」
「だって実際、こないだ言いやがったろ。  俺……あれ超トラウマなってんだよ」
「それはそうかもしれないですけど、ちゃんと理由があるのに!  だから約束を破った事にはならないです!  きっと聖南さんも先々の事考えて俺を守ろうとしてくれたんでしょう!?」
「……話すの怖かったんだよ、あの言葉聞きたくねぇし。  俺の中ではあの約束は絶対だったから」
「だからって聖南さん……時と場合によりますよ……。  ……でも、なーんだ……良かったぁ」


 ハルの強張った雰囲気がようやく解けた事により、室内に漂う張り詰めた空気も一瞬で穏やかになった気がした。

 アキラは今日のセッティングをする際、都合が付けばどうしてもハルをこの場に呼びたかった。

 その連絡をハルにすると、ハルもまた不安な毎日を過ごしている事を聞いてやるせなく、昔から知る家族同然のセナがハルを不安にさせて誠に申し訳ないと陳謝したくらいだ。

 ハルはケイタの言っていた通り、連絡がこなくなったという事は、セナは女性であるモデルの方を選んだのかもしれないとかなり深刻に思い悩み始めていてとても可哀想であった。

 ジメジメしたセナを復活させてくれるのはハルしかいない。 直接会って誤解が解ければハルも安心するのではとの思いからだった。

 セナが何故ハルと連絡を取りたがらなかったのかは今しがた聞いた事がすべてで、思いもよらなかったけれど。

 セナはセナで、ハルとの約束を破ってしまった後悔と、ハルに捨てられるかもしれない恐怖、そしてモデルが持ち込んだというボイスレコーダーによってハルが脅かされるかもしれない世間の風評を、何としてでも食い止めなければという恋人としてのプライドがあった。


「約束、破った事になんない?」


 セナは恐る恐るハルに尋ねてみている。


「ならないです。  その人、頭おかしいです」
「だよなー!  俺も同じ事言ったよ、ハル君!」
「……ちょっ、ケイタ、もうちょい黙ってろ」


 ようやく二人が誤解から解き放たれて和解しようとしているのに、ウーロンハイ三杯と日本酒の冷やで楽しくなってきているケイタが右手を上げて「なー!」と言うのをアキラは即座に止めた。

 だがケイタの楽しげな声は二人には届いていないようで、セナは両手を広げてハルを抱き締め、ハルもそれに応えてひっしと抱き合っている。

 ───俺らの前なんだけど。

 アキラはそう言いたかったが、もはや何を言ってもバカップルが復活した二人には届かなそうだった。



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