46 / 223
⑤御姉様
─迅─⑤
しおりを挟む「……ところで、迅クンに俺のこと何にも話してねぇ感じ?」
額に怒りマークをいくつか作って、雷のほっぺたを摘み上げる寸前。
そんな俺を、テーブルを挟んだ向こうから束バッキー野郎がジッと見ていた。
「何にもって?」
「迅クン固まってたけど」
「あっ、……それは、……そのぉ……」
弁当を平らげた雷は、指先じゃなく割り箸の先同士をツンツンさせて口ごもった。
まったく表情には出さずに居たつもりだが、束バッキー野郎には俺の緊張がバレてたらしい。
雷は雷で下手くそな説明を未だに渋り、「なんで話さなかったんだ」と詰め寄られている。
そんなツラで雷を見るなよ。 小さい脳みそを泡立たせて困ってんじゃねぇか。
「それは、風呂入ったあとにじっくりゆっくり説明してもらうんで」
「俺が説明した方が早いんじゃね? 雷はほら、アレだから」
「あぁ、そうしてくれると助かるっす。 ……雷はアレですしね」
「おい! 二人してなんかよくねぇ事言ってんな!? 俺だって分かんだぞ! アレとかソレとか濁してても……んむッ」
「シーッ。 黙っておやつ食ってろ。 ……説明どぞ」
雷が口を挟むと雑談が長くなる。
俺は一刻も早く二人だけの旅気分を謳歌したくて、雷の口にチョコレートを放り込んだ。 その時少しだけ、指先が舌に触れて思わず目を細める。
あったけぇそれでキスの感触を一瞬で思い出した俺は、次のチョコレートを指先にスタンバイして束バッキー野郎を見返した。
「手懐けてんねぇ、迅クン。 ついでに、俺がひたすら守ってきた雷のピュアな体に痕付けて満足か? ん?」
「……バレてんすか」
「俺に当て付けてんだろ、それ。 んな事しても無駄だけどな。 見てろ」
「………………」
……は? 何が無駄なんだよ。 〝見てろ〟って何をだ。
てか言い草おかしくねぇ?
雷のこと、おバカで能天気で素直過ぎて危なっかしいから守ってたんじゃねぇの?
奴の言い方は、好物は最後に取っとく次男的な意図を感じるんだけど。
雷は俺が付けたタトゥーを嫌がってシャツのボタンをギリギリまで留めてんのに、束バッキー野郎が間近でそれを確認したのも解せない。
怪しかった雲行きがさらにドス黒い曇天と化した気がした。
「雷」
「ふぁいっ?」
「来いよ」
「ふぁいッッ」
俺が現在進行系でチョコレートを与えてる雷に向かって、束バッキー野郎が太ももを叩いて両腕を広げた。
何やってんだ、と嘲笑った矢先、雷は口をもぐもぐさせながら束バッキー野郎の懐にすっ飛んで行く。
チビで身軽なせいでマジでそう見えた。
感動的な再会が再度目の前で繰り広げられた事で、俺の機嫌はその瞬間、見事に地に落ちる。
「……ほらな。 半年も離れてたのに呼べば俺んとこに飛んで来る。 手懐けるってこういう事を言うんだよ」
「いや、まず説明してくださいよ」
「何だ? 余裕かましてくんじゃん」
「気になって拳が震えてるんで早く説明お願いします」
「震えてんの? 迅クン大丈夫かよ」
は? 大丈夫じゃねぇよ。
雷に触るな。 近寄るな。 会話するな。 勝手にLINEでトークするな。 俺の目の前で平然と抱き締めるな。 俺を差し置いて雷を守ってたとかほざくな。
……言いてぇ事が津波状態で右の拳がそわそわしてんだよ。
従順な犬みてぇに尻尾振ってる雷にも相当頭にきてるが、その怒りはあとから晴らさせてもらうから構わねぇ。
俺は、バイト中以外は滅多に浮かべない薄ら笑いを浮かべて、もう一回「説明を」と告げた。
「まぁ……簡単に説明すると、三つ上の先輩にけしかけられて女装始めて、ハマっちまったってだけ」
「……簡潔っすね」
「てかな、あっちのキャラで仕事してっと売り上げの調子いいんだ、これが」
「仕事は何を?」
「地元のアクセショップで働いてんだけど、今度こっちに新しく店舗構える事になって、この度めでたく店長に任命されましたー」
「えぇ!? 修也先輩、出世したの!? おめでとー!!」
「この話しようと思って雷をここに呼んだんだよ。 番犬がついて来たけど」
「ぶはっ、それって迅のこと?」
……はぁ。 どこ行っても俺は番犬呼ばわりかよ。
あり得ねぇ。 マジで胸クソ。
俺がこんなに必死になってんのに。
必要以上に雷を束縛していた先輩と二人きりになんてさせらんねぇって、シチュエーション的に何かあったらどうすんだって、肝冷えてた俺の気持ちをやっぱりアイツは何にも分かっちゃいねぇ。
なぁ、雷にゃん。
お前がいま束バッキー野郎に引っ付いてるとこ見て、俺がキレないとでも思ってる?
邪魔でしかねぇって分かってて同行した俺の無神経さを、ほんとに番犬としてだけ捉えてんの?
俺はこんなヤツじゃなかったんだって。
喘ぎ声聞いてほっとけなくなって、〝腹減りでニャーニャーうるせぇから黙らせるため〟の餌付けが、いつの間にか〝雷にゃんを満足させるため〟に変わった。
俺だけにエロい声と顔を晒して、俺のイケボでイくように教え込んで、チビなりの小さい手で俺の肩に爪痕を残しゃいいんだ。
なぁ、……。
「雷にゃん」
沈黙のなか、俺は怒りマークを消して静かに雷を呼んだ。
「……な、なんだよ」
雷がゆっくり振り返ってくる。
サラサラで柔らかいキンキラキンな髪と、クソ生意気な可愛いツラと、いつでも甘え唇は誰のものか。
その目には俺しか映ってねぇ。
って事は、もう分かるよな?
「戻って来い」
俺は束バッキー野郎の真似をして、そっくりそのまま同じ事をした。
愛称を呼んで、太ももを叩いて、両腕を広げる。
先輩後輩としての時をゆるく過ごした長さが勝つか、リア充を捨てて毎日欠かさず甘やかしてきた想密度が勝つか。
……ンなの、負ける気しねぇって。
「……偉そうだぞ、迅」
「戻って来たじゃん」
「そ、そりゃ、お前のおっかねぇ拳でぶん殴られたくねぇからな」
「理由はどうでもいい」
「…………フンッ」
ブツクサ言いながら、すとんと俺の胡座の上に戻って来た優越感はハンパじゃなかった。
俺の膝を選んだのなら、どんだけ悪態吐こうが不貞腐れてようが構わねぇ。
束バッキー野郎、お前はこの、大照れしたクッソ可愛い雷のツラを知らねぇだろ。
手懐けるってのはこういう事を言うんだよ。
「なぁ、───〝雷にゃん〟って何?」
食いつきたくてたまんなかったほっぺたを上機嫌に触っていると、負け確が決定した束バッキー野郎の問いが遠くに聞こえた。
それに俺はもちろん、薄ら笑いだけで応えた。
5
あなたにおすすめの小説
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる