迅雷上等♡─無欠版─

須藤慎弥

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⑤御姉様

─迅─⑥

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… … …



「───なんでそんなにムキになるんだよ。 仕方ねぇだろ?」
「イヤだ!! 俺にだってプライドってもんがあんだよ!! てか、俺がこれ着ちゃいけねぇっての!?」


 俺達が泊まる客室に来て十分後。

 完璧に浴衣を着こなした俺の二十七センチ下で、チビ雷がニャーニャー怒っている。

 宿の浴衣セットが収納されたクローゼットを開けて、俺達は室内探訪を楽しむ前にまずは気分のアガる浴衣に袖を通した。

 その浴衣が問題だった。


「着ちゃいけねぇんじゃなくて、着ない方がいいんじゃね?ってアドバイスしてるだけ。 俺一応ショップ店員だし」
「んなの知るか!! せっかく宿に来てんのに着ないとかあり得ねぇ! 俺はこれでいいんだ! ……あ、あれっ、なんだこれ……どうなってんの!?」


 フンッと俺に背中を向けて帯を結ぼうと躍起になってるが、不器用過ぎて手に絡まっている。

 面白え。 ずっと見てられるな。

 束バッキー野郎に勝利を収めてすぐ、薄ら笑いのまま雷を連れて退室した俺はマジで気分上々だった。

 再会を無邪気に喜んでた雷は束バッキー野郎とまだ話し足りねぇ感じではあったが、俺の「内風呂楽しみじゃね?」の一言でニッコニコ。

 それなのにあれからたった十分で、機関車みてぇに見えない蒸気を頭の上からポッポッさせて、何にそんなにプンスカ怒ってるのか。

 理由は分かりきってるけど、可愛くて面白えからもう少し揶揄おう。


「……分かった分かった、じゃあ勝手にしろ。 でも我慢出来ねぇから笑ってていい?」
「はぁ!? バカにしやがってぇぇ! ダメに決まってんだろ! 笑うな!」


 いや笑うだろ。

 雷がこんなにキレてるワケ……それは、用意されてたギャグみてぇな浴衣のサイズにあった。

 クローゼットの中には、男性用Lサイズの浴衣が二着と、明らかな子ども用サイズ一着の計三着しか無かった。

 雷が予約した時に〝男二人〟と告げたからには、サイズ違いを置いておくよりも同サイズを用意した方が……というのは宿側の図らいだろう。

 浴衣の丈は体に沿わせて工夫して着れば調整がきく。 だから雷のも、とは思ったんだけど、あまりにもデカ過ぎた。

 調整したところで、腹部分がブヨブヨになってかえってダサく見えるぞって説明を三回はしてやったんだけどな。

 言う事を聞かねぇ雷は、「調整は嫌」「サイズ変更は嫌」とか言ってむくれて、ズルズルと裾を引き摺って歩いている。


「なんでそんなに拘るのかねー」
「こだわるに決まってんだろ! これか子ども用しか無えんだから!」
「ぷっ……! あははは……ッ」
「おーいー!! 迅の貴重な爆笑さらって嬉し恥ずかしだけど! 笑うなっての!!」


 ブッカブカの浴衣とグッチャグチャな帯に絡まった雷が、ニャーニャー喚いてる姿はマジで可愛い。

 末期だからな、俺は。

 チビで不器用でワガママで人の話聞かねぇきかん坊でも、年に一回あるか無いかの俺の爆笑をさらうコイツのことが、心底可愛くて仕方ねぇ。

 意地張ってLサイズ着てる不相応なプライドまで可愛く思えるって、俺相当ヤバイ。


「……あー面白え。 Sサイズくれってフロントに言ってやろうか?」
「要らねぇ! そんなの俺のプライドが許さね……んッッ」


 キレながらなぜか爪先立ちしてきた雷に、迷わずキスをした。

 ベロは入れてねぇ。 すぐ離れた。

 ほんの何センチかでも、雷の顔が迫ってきたらそりゃやっちまうだろ。

 プライド振りかざしてイキってたのに、唇で唇を塞いだだけで借りてきた猫状態になるの最高。

 その反応だけで抜ける。

 コイツと居ると退屈しねぇから忘れてたが、ここは情緒溢れた雰囲気のある森の中の宿。 窓の外は、暗闇の中に生い茂った木々が下からライトアップされていてキレイ。

 三階にある俺達の客室からも、一つ上の階だった束バッキー野郎の客室からも、ほとんど同じ景観の非現実的な場所。

 今まで生きてきて一度も興味が湧かなかった、〝思い出〟ってやつが作れそうだ。


「迅……ッ、お前そのいきなりブチュッてしてくんのやめ……っ」
「そうだな、浴衣なんか要らねぇよな」
「なっ……な、なんで心変わりしたんだ! うぁ……ッ♡」


 また日本語の使い方間違えてる。

 おまけに、グッチャグチャな帯を掴んで引き寄せて、ちょっと強めに腰抱いたらすぐこのツラする。

 いけねぇんだって。

 俺もあっという間にその気になっちまうんだから。


「だってさ、……どうせすぐ脱ぐじゃん」
「……ッッ! お、お前……ッ、よくもそんなこっ恥ずかしい事をイケボで……ッ、しれっと能面で……ッッ」
「こっ恥ずかしくなんかねぇ。 俺はいつでも堂々とエロい事を言う」
「そ、そうでございますか、……」


 至近距離で顔を寄せていく。

 猫目を潤ませてキス待ちのツラした雷を何秒か見つめてると……俺のチン○が元気になった。

 と言ってもまだ半勃ち。

 このままディープキスかまして、雷の意識と全身の力を吸い取ってやれば完勃ちなんだが、それだと楽しみが半減するような気がした。

 俺はホンモノの末っ子で、束バッキー野郎より次男気質。 好物は最後に取っとくタイプで間違い無え。

 あと、今日俺はミッション遂行もしたい。

 少しは俺の気持ちを考えやがれって押し倒したいし、大会の予選と本戦では試験的にやってみたい事もあるし、何より……今日の長え夜を思い出にしたい。

 今にも膝から崩れ落ちそうなくらい、〝ドキドキしてます〟な表情で俺を見上げてくる、雷にゃんとの甘酸っぱい思い出を。


「〝迅、もう一回キスして〟って言いたそうなツラだな」
「…………ッッ!? どんなツラだよ! そんなのしてねぇ!」
「鏡見る?」
「み、見ねぇよ! 俺はどうせイケ迅と比べたら下の下だ! 今さら見られるかっての!」
「どこが下の下だよ。 雷にゃんは最上位」
「え、っ……」


 反応いいな。 ほっぺた赤くしやがって。

 マジで襲うぞ、この野郎。




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