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⑪情交
─迅─④
しおりを挟む「──雷にゃん、まだ腹痛てぇ?」
何件か記事を読んでみたが、副作用が何たらと書いてあって雷にそれが当てはまるのか分からなかった。
直接聞いてみようとした俺は、バスルームの扉を開けたその瞬間に安堵する。
鼻スレスレまで湯船に浸かった雷のツラがカピバラみてぇに和んでて、誰が見てもほっこりしてたからだ。
「あ、迅! なんかもう大丈夫そ!! お腹温めたらポカポカしてきてぇ、あんなの使ったの初めてだからさぁ、腹がビックリしちまっ……ッ?」
良かった。 マジで良かった。
カピバラでも猫でも何でもいいんだけど。
浴槽の外から雷の頭を抱き寄せる。
俺のガチ焦りなんか知らねぇコイツは呑気なもんで、ちゃぷんっと湯を弾いて「えっ、なになに♡」と惚けやがった。
凹んだツラして腹擦ってるとこを見ちまった俺は色々と言いてぇ事あったんだが、キンキラキン頭を抱くと何もかもがすっ飛んでいった。
「……バカ。 勝手なことするなよ。 ……心配するじゃん」
「し、心配……ッ? えッ?♡」
「喜ぶな。 バカ雷にゃん」
ぺしっと軽めのデコピンだけお見舞いして、とりあえず体と髪を洗ってしまう。
窘められても文句を言わなかった雷は、お決まりの赤面でブクブクと湯に沈み、こっそり俺をガン見している。
シャワーの水圧がヤバい。 浴槽から来てる視線もヤバい。
イレギュラーが発生したんだから、雷がなんと言おうと俺は風呂に浸かる。 そんでカピバラ雷を抱っこする。
二人で入ってもゆったりな浴槽は、恋人同士がイチャつくためにあるもんだろ。
「わわわわッ……迅ッ、これはちょっと……ッ」
「うるせぇ。 逃げるな」
案の定ジタバタしやがる体を後ろから抱き締めて、逃げらんねぇように腕に少しだけ力を込めた。
白を基調としたピッカピカなバスルームと浴槽を改めて見回して、濡れた前髪をかき上げる。
目に入んなかったが、こうして見るとシャワーヘッドが見たことねぇくらいデケぇ。 水圧も強かったしいいホテルだ。
しかもこの部屋の風呂はマイクロバブルバス。
お子様な雷なら絶対に喜ぶと思ったんだが、使い方とか読む前にイチジク騒動があって保留になっちまった。
俺の太ももの上でカチコチに固まってる雷は、照れてまたカピバラになってるし。
「雷にゃん、腹は? もう痛くねぇの?」
「お、おう!! 全然!!」
「……出した後って事だよな?」
「…………うんって言うべき?」
「それが答えじゃん」
「んぅぅ……ッ! 笑わないでくれ、……ッ」
「どこに笑う要素ある?」
「むぅぅ……ッ」
何かを気にしてるらしい雷は、不満とか文句があるわけじゃなく、腹痛を引きずってるわけでもなく、単に恥ずかしがってるだけだと分かった。
何に対してかなんて、わざわざ聞かねぇ。
すぐに沈もうとする雷を抱き直した俺は、「大丈夫だから」と言ってさらにギュッと抱きしめた。
やっと頭が働きだした気がする。
華奢で薄い体。 細い首とエロいうなじ。 一丁前に耳たぶに二つずつ光ってるピアス。 腹に回した手のひらが事故ると、すぐにコトが始まる。 ただそれは、俺のさじ加減だ。
これが俗に言う……生殺し。
密着してんだぞ。 触れ合ってんだぞ。 美味そうな耳と首筋が目の前なんだぞ。
再び、俺の忍耐力が試される時が来た。
「……アレどうやって持ってきたんだ?」
「えぇ、どうやってって……コートのポケットにインして、だけど。 一応箱ごと持ってきたんだけど、潰れたらどうしよってちょっとドキドキだった」
「……はぁ……。 バカだ……」
「しみじみ言うなッッ!! だ、だってなッ? 動画で言ってたんだもん! 性交前はお尻洗うのがマナーですよって! マナーは守んないとだろ!?」
「性交って……」
動画全部を鵜呑みにするヤツが居るかって……あ、ここに居たわ。
雷はちょっとやそっとじゃ理解出来ねぇほど、バカ素直なんだよな。
先輩が雷に寄越した謎の動画三部作を熱心に何回も観返してると豪語してたが、俺も観る必要がありそうだ。
童貞男子は経験値どころか知識も浅い。
何をどうすればいいか分かんねぇから目先の教科書に頼る……その気持ちは分からなくもねぇけど。
俺だって初心者の部類に入るんだから、それこそ同盟組んで一緒に探ろうぜ。
「……迅……、俺……」
「ん?」
「俺は……、ご存知の通り女じゃねぇから、さ……」
「あ?」
……何? コイツ……何つった?
頭まで湯船ン中に浸かっちまいそうな勢いで、雷がショボンと肩を落としている。
ただし今コイツは、俺にとって聞き捨てならねぇ言葉を吐きやがった。
瞬速で眉間にシワの寄った俺に気付かねぇ雷が、さらに続ける。
「迅がヤな思いしたらヤダなって……。 俺……、指一本レッスンの覚悟はしてるし、迅とエッチなことするのハズいけど楽しみだったんだ。 でも迅にめんどいって思われたら最後じゃん。 やっぱ男ウザッ!って言われたら俺……、俺……ッ」
「おい、雷にゃん」
「俺すげぇ迅のこと好きなんだよッ! 自分でもキモいくらい! てか俺の気持ち迅にバレたら、迅もキモいって思うかもしんねぇくらいめちゃめちゃ好きなんだよ! だから嫌われたくねぇんだよ! 男だからって理由で捨てられたくねぇんだよ! ……ふッ、ふぇぇぇんんッッ!!」
「………………」
急に感情的になった雷がバシャバシャと湯をかいて暴れ、俺はそれを無言で止める。
そうこうしてるとバックハグからの横抱きになり、雷の泣きっ面を真下に見やる事が出来た。
華奢な肩を抱いて落ち着かせてみても、いつからそんな事を思ってたのか凹みっぱなしの雷は、俺とまったく目を合わせようとしねぇ。
……めんどいなんて思うかよ。 ウザッなんて言うかよ。
雷のことは何ヶ月もかけて落としたってのに、俺が捨てられる事はあっても雷を捨てるなんてもってのほかなんだけど。
まぁ今の錯乱で、俺への好きがキャパオーバーになりかけてるってのは嬉しい発見だったが。
……ていうか。
今日の雷はことこどく、いつも以上に、俺の予定を潰しにきやがるな?
「雷にゃん、なんでお前はそうなんだよ」
「ふぇッ、ふぇッ、……うぅッッ?」
「何もかも先越して楽しい?」
「さ、先……?」
「毎回雷にゃんにいいとこ持ってかれちまうんだけど。 その自覚はあるか? うん? 俺には言わせてくんねぇの?」
「…………ッッ?」
5
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