僕の甘美な眠り姫

須藤慎弥

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僕の甘美な眠り姫①

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「おはよう、ちー君」
「ん…おはよー」

   隣を歩く小柄な幼馴染みを盗み見ると、朝が弱い彼らしくぼんやりと前を見据えてやっとの事で歩を進めている。

   起きてすぐ出て来たのではないかというほど、眠そうだ。

   まぁこれは、毎日の事なのだけれど。


「朝ごはん、食べたの?」
「……食べたよ。  レタス……と、トマト」
「そう。  昨日は眠れた?」
「少しだけ。  お昼寝すると夜寝られないから困るなぁ…」
「でもお昼寝しないと……あ、いや。  なんでもない」


   言葉を濁した久遠(くおん)にも、極端に朝が苦手で眠そうな千里(ちり)はまったく興味を示さない。

   お昼寝しないと夜がキツイでしょ、と言ってしまいそうになって、慌ててその台詞は飲み込んだ。

   ついでに、久遠の貴重なもふもふタイムも、千里にバレたら二度と一緒に昼休みを過ごしてもらえないかもしれないので、余計な事を口走りそうになった唇をギュッと噤む。

   噤んだ矢先に、そういえばと思い出す。


「ちー君、今日のお昼は図書室に行こう。  あったかくてポカポカした陽当たりのいい場所、見付けたんだ。  そこでお昼寝しようね」
「んー…だからお昼寝すると夜が…」
「だーめ。  五限目、居眠りして怒られるのはちー君だよ?  お昼寝しとかないと、夕方まで保たないじゃない」
「そうだけど……」


   きちんと返事をしてくれるのはいいが、どうも声に覇気が無い。

   もしかしたら睡魔の限界が来て、目を開けたまま寝ているのかもしれないと思うと心穏やかでいられなかった。

   いつも以上に眠そうな千里の頭と腰辺りから、久遠が独り占めしたいと願ってやまないアレが出現してしまうので、絶対に人前で寝かせてなるものかと話し掛け続ける。


「宿題した?」
「したよ。  ……夜は目パッチリだから」
「そっか。  ちー君は偉い子だね」
「なんだよそれー。  同い年だろー…」
「あっ、ちょっとちー君、寝ないでよ?  お昼まで我慢だよっ」


   バスに乗り込み隣同士に腰掛けると、肩口に頭を寄せてきた千里は揺れと振動で心地良くなり欠伸を連発している。

   小柄な千里が潰されてしまわないように、久遠の全身を使って守ってやりながら満員電車もやり過ごそうとした。

   車窓からの景色に目を奪われて数秒よそ見をした隙に、久遠の体にもたれ掛かった千里は瞬く間に堕ちようとしている。


「……ちょっ、起きて、ちー君。  どうしたの、今日。  いつもより眠そう」
「そうなんだよ。  眠たい…何なんだろー…」
「…………何か、変わった事した?」
   

   してない、と首を振る千里が、人でごった返した車両内でも涼しい顔の久遠の胸元に、頭をこすり付けてきた。

   いつもいつも無防備で、本人の意思ではないと分かっているのに甘えてくるような態度をしてくるこの子の事が…久遠の中では絶対的な存在である。

   それはもう、ずっと前からだ。






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