僕らのプライオリティ

須藤慎弥

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後日猥談

─初夜─8

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 じわっと振り返った視線の先に、欲情した目で僕を射抜くりっくんの姿があった。

 目が合った瞬間に「可愛いですね」と微笑まれた僕は、盛大に照れて顔を背ける。

 そんなの……反則だ。

 僕のだらしない顔を見てそんなことを言うなんて、叱られる時よりドキッとしちゃうじゃん……。


「ひ、っ……! んんっ……」
「ふふっ……」


 りっくんは、僕の中に入ってる指の先っぽをクニクニっと動かしていたずらに笑った。

 まるで〝よく聞いて〟と注意を引くような合図めいた蠢きに、僕は従うしかない。


「……冬季くん。繋がることに対して、冬季くんが恐怖を覚えていることは知っています。ですが、跡継ぎがどうこうなんて話は初耳でした。そんなことを考えていたなんて、思ってもみませんでした」


 優しい声に、顔を背けたままの僕は耳を傾けた。

 幸い、りっくんの指はいたずらを仕掛けてこない。僕が締め付けなきゃ、ちゃんと聞いてられる。


「話したかとは思いますが、俺には腹違いの兄と姉が居ますので実質の次男にあたります。跡継ぎの問題はありません。あったとしても、君をいたく気に入っている父がそれについてを咎めるとは思えない。万が一があれば俺も反発するつもりですし。そもそも、形にこだわる必要は無いと思うんです」
「あっ……で、でも、りっくん養子縁組がどうとか……言ってなかった……?」


 出来るだけお腹に力を入れないように、りっくんをチラと窺った。するとりっくんは、少しだけ遠慮がちに微笑んでローションのボトルを手に取る。

 まさかまた、喋りながらコトを進めるつもりなのかと焦った僕をよそに、りっくんはボトルを掴んだだけで淡く微笑んでいる。


「俺が冬季くんと養子縁組の手続きを踏もうとしているのは、先々のことを考えての事です。俺に何かあった時、もしくは君に何かあった時……現在のパートナーシップ制度では深入り出来ない。より強いつながりが必要となるので、それこそ万が一に備えようとしているんです」
「そ、なの……?」
「はい。俺たちのプライオリティは互いであると、他者にいくら主張しようがどうしようもない時があります。それが今の世の中です」


 そういうもの、なのか……。

 僕は世間知らずだ。親が居ないからとか、施設育ちだからとか関係なく、ただ僕が社会を知ろうとしてなかっただけに過ぎない。

 りっくんが僕とより深い関係になろうとしてるのは、ただ束縛したいだけなのかと思ったけど、そうじゃなかった。

 二人のどちらかに何かあった時、愛し合っていてもどうにも出来ない場合があるってことを、大人なりっくんは危惧してたってこと。

 後々、跡継ぎ問題が起きて僕はお払い箱になるかもしれない……なんて不安は、りっくんにしてみれば寝耳に水な話だったってわけだ。

 りっくんは、僕よりはるかに先を見据えていた。

 贖罪まじりの重たい愛情を与えてくれながら、ホントに8020運動を目指そうとしている。


「りっくん……」


 なんだか、プロポーズされてるみたいだ。

 僕の不安を毎度毎度一蹴してくれる、りっくんの包容力と愛情に感動しちゃった。

 これから先、りっくんの隣には万が一を備えた僕が当たり前のように居て、共に人生を歩んでいこうって……そんな風に受け取ってしまえる。

 うるうるしながらりっくんに左手を伸ばすと、その手をしっかり掴んで今度は満点の笑顔を見せてくれた。


「俺が今さら、君以外の人間を愛せるはずがないでしょう? 俺が触れたいと思うのは、冬季くん……君だけです」
「あっ……りっくん……っ」


 カッコイイ……! りっくん、カッコ良すぎるよ……っ。

 僕の不安を煽らないように、こんな風にダイレクトに気持ちを伝えてくれるりっくんが好き。ホントに好き。

 いつもだったら大声で捲し立ててるようなセリフなのに、欲情に任せて伝えない我慢強いところが大好き。

 キスもセックスと同等の幸福感を得られるって言ってたけど、僕はりっくんのその言葉だけで幸せいっぱいだよ。

 りっくんとなら、ぎゅっと手を握り合って、見つめ合って、ドキドキを分け合うだけでいい。

 もはやエッチなことは二の次だ。


「さて、一件落着したことですし、そろそろ中の具合を堪能させていただきましょうか」
「え、やっ……あぁっ……!」


 ……と、思ってたのは僕だけだったみたい。

 ボトルのキャップを器用に片手で開けたりっくんが、僕の中でおとなしくしていた指を動かし始めた。



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