狂愛サイリューム

須藤慎弥

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6❥胸騒ぎ

6❥9

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 話をする前にまずは綺麗にしてください、と葉璃に怒られた。

 冷静になった聖南は素直に「はい」と頷き、バスルームで身を清めていたその間も葉璃は何かを言いたそうにしていた。

 だがしかし、ぷっと膨れた頬が痩せる事はなく、葉璃のために深夜だが甘いコーヒーを入れた聖南は手際良くベッドメイキングを済ませて、窓の外を眺めている不機嫌な恋人を寝室に呼んだ。

 当然、頬が膨れたままヨタヨタと歩いてきた葉璃は聖南と距離を取ってベッド脇に腰掛ける。


「……葉璃ちゃん、ごめん」
「………………」
「ごめん」


 聖南はぴたりと葉璃にくっつき、何度も耳元で謝罪の言葉を囁いた。

 葉璃が聖南のぐるぐるを良しとしていたのは、セックスを終えたほんの数分だけだった。

 今度は葉璃がだんまりを決め込んでいて、聖南はどうしていいか分からなくなる。

 マグカップを手渡すと、チラと聖南を見て受け取り、口を付けてくれた事に少しだけホッとした。


「……葉璃ちゃん……」
「聖南さんのぐるぐるの理由、なんとなく分かります」
「……それ多分当たってる」
「あのルイって人の事でしょ?」
「……あぁ、……そう。  葉璃、アイツの事睨んでただろ。  すげぇ違和感だったんだよ。  葉璃がルイを見てた目が、出会った頃の俺を見る目だったから」
「………………」


 聖南は葉璃の事を、誰よりもよく知っていると自負していた。

 聖南の知っている葉璃は、他人と目を合わせられず、話し掛けられると体をプルプルと震わせるか弱いうさぎそのものだった。

 今日のように強気に相手を睨みつけるなど、あり得ない事なのだ。

 きちんとした説明が無ければ聖南は納得出来ない。

 しかし我を忘れて強引に体を貪ってしまった手前、だんまりを決め込まれてもあまり強くは出られなかった。

 葉璃の怒りはごもっともだからである。


「葉璃、……ごめんな。  ……痛かった?」
「ううん、痛くはなかったです。  激しいのは好きって、前にも言いました」
「あ、そう……」


 プンプンした葉璃は無意識なのだろうが、しゅんと肩を落とした聖南を不意打ちでドキッとさせて困る。

 嫉妬に狂う聖南を許してくれる葉璃の怒りは、先程の激しいセックスが原因ではないという事だ。

 迷い無く力強く葉璃を導いたはずの聖南が、唐突にぐるぐるし始めた訳を察している瞳に動揺が走る。


「なぁ、ルイとどこで何を話したのか教えてよ。  頭おかしくなりそうなんだ。  俺、葉璃のこと全部知ってたい。  そうでないと支えらんねぇし、支えてもらいたくねぇ」


 葉璃の手からマグカップを奪い、それをサイドテーブルに静かに置いてから愛しの恋人をぎゅっと抱き締めた。

 これはワガママなどでは決してない。

 恋人であれば当たり前だと思うのだ。

 二人の間で何かが起こる度に、互いの平穏のために隠し事はしないでいようと誓い合い、今日の葉璃のぐるぐるの時もそう諭し直した聖南である。

 聞きたい事は一つで、重要なのは葉璃が「話してくれる事」だ。

 聖南が腕の力を緩めるのを見計らった葉璃は、俯きがちにだがゆっくりと口を開いた。


「……話しますけど、誰にも話さないって約束してください」
「誰にもって、誰にも?」
「はい、……気を使われたくないんです」
「……分かった」
「実は───」


 神妙に頷いたものの、聖南には葉璃がそれほど他言無用を念押しする意味が分からなかった。

 けれど、けれど、だ。

 甘えている、成長していないなどという、葉璃を多大にぐるぐるさせたあれをぶつけた相手がルイだと聞けば、納得であった。


「はっ?  マジでっ?」
「はい……。  俺も今日ビックリしたんですよ、てっきり俳優さんだと思ってたんで……」
「あの日事務所に居たのか、ルイ」
「……そうみたいです」


 彼自らが、どこの事務所にも入っていないと言っていたではないか。

 フリーであるにも関わらず、子役時代この世界に居たというツテなのかケイタに抜擢され、CROWNのバックダンサーを担うルイの実力はこの目でしっかりと把握している。

 聖南はようやく、ルイがETOILEの新メンバー候補に上がっているという真意を見た気がした。


「選ばせるも何も、はなからルイは事務所のゴリ押しっつーわけか」
「何を選ばせるんですか?」
「あぁーっと……これ言っていいのか?」
「何?  何ですか?」
「うっ……ちょっ、かわいー。  葉璃かわいー♡」
「聖南さんっ、はぐらかさないで下さい!」


 腿に乗り上げてムゥと唇を尖らせて詰め寄られては、話も逸れる。

 未だに葉璃は自身の見た目の破壊力を知らない。  故に、こうして無闇やたらと無邪気に可愛さをダダ漏れさせる。

 聖南はたまらず、すべすべの頬に頬擦りし、聖南と同じ香りを全身に纏った葉璃を目一杯抱き締めた。

 今しがた謝罪したというのに、また欲が湧き上がってきそうになる。  葉璃の最終兵器である上目遣いと頬の膨らみは、いつ見ても心臓に悪い。


「ETOILEの新メンバー候補決まったっつってたろ。  あれ、ルイもその候補に入ってるらしい」
「えっ!?  あ、だから選ばせる、か……!  でもルイさんはCROWNのバックダンサーなんですよね?」
「そうなんだけど、社長の意図は違うみたいだな」
「ルイさんが……ETOILEに……?」



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