狂愛サイリューム

須藤慎弥

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6❥胸騒ぎ

6❥10

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 ルイが新メンバー候補である事を言っていいものか数秒悩んだが、葉璃の最終兵器にコロッとやられた聖南は口を滑らせてしまう。

 近々その件についての話は葉璃と恭也にも成されるだろうが、隠し事はしないスタンスを葉璃に強いた負い目もあって苦笑しながら打ち明けると、葉璃は明らかに嫌そうに顔を歪めた。


「アイツ上手いんだよ。  あんま言いたくねぇけど、俺の動き方に似てる」
「ほ、ほんとですか!?  ……見たいな」
「……見るか?  動画ある」
「見たいです!  見せて!」
「うぉっ、かわいー……!  かわいーよ葉璃ちゃん!  もう少し可愛いの抑えて♡」
「何言ってるんですかっ」


 グッと顔を寄せられて、キラキラのまん丸な瞳でねだられては聖南はイチコロである。

 もうっ、と膨れられても、可愛いを垂れ流す葉璃がいけない。

 スマホを手にして動画を見せている最中、聖南は葉璃を膝の上に乗せて抱き締めたまま離さなかった。

 肩に付くほど伸びた整えられた髪の隙間から、色白のうなじがチラ見している。

 見えないところであればキスマークを付けてもいいかと、聖南が吸いつこうと唇を寄せて行った直後、葉璃がボソッと「似てる…」と呟いた。

 認めたくはないが、聖南自身もそう感じた事が葉璃にも伝わったようだ。


「…………ほんとだ。  聖南さんだ……」
「俺じゃねぇよ」
「似てるって意味です。  ……確かに、似てます」
「………………」


 聖南のスマホを操作し、約四分間のCROWNの動画をもう一度再生する葉璃の表情が、複雑なものへと変化してゆく。

 絶妙な抜き加減と、しっかりと振りをこなしつつのルーズな動きはどこか聖南と通ずる。

 長身故に、あまりオーバーにやってしまうとキビキビとして見えてダサくなると聖南は思っていた。

 ケイタや葉璃のようにダンスに関して抜群のセンスがあるわけではないので、上手に見せる事よりも二人との調和を意識しているのだ。

 葉璃はその抜き加減が聖南らしいと褒めてくれる。

 その意識的なものがルイと似ているとなると、何とも微妙な心境だ。


「───でも、他の候補の方を見てないから分からないですよね。  これからどうなるかなんて」
「まぁな。  ただ……ルイが近々大塚と正式に契約結んだらその時は、そういう事だ」
「ゴリ押し、ってやつですか」
「社長も社長の周りも、先見の明がある。  俺の事見捨てなかったのもそうなんだよ。  だからさ、俺がルイの存在でいくらぐるぐるするっつっても、社長の判断には身を任せるしか無え」
「………………」


 そうですか、と小さく頷いた葉璃は、聖南特製の甘いコーヒーを飲み干して寝室を出た。

 聖南も黙ってあとを付いていく。

 マグカップを洗い、洗面所に向かう葉璃の後ろを歩く聖南は少々気味が悪いが、葉璃にはいつもの事なので無言のまま聖南にも歯磨き粉を付けた歯ブラシを渡してきた。

 口をゆすぐプラスチックのコップは二人とも同じものを使っているため、聖南と葉璃は順番にそれを終える。

 もはや阿吽の呼吸だった。


「明日は午前中Lilyの方行くんだろ?」
「……はい、そうです」


 ベッドに横になると、葉璃は聖南に背中を向ける事が多い。  ぴたりと密着し、聖南が包み込むようにして葉璃を抱いてやれるためか一瞬で寝られると言う。

 今日もいつも通り葉璃を包み込んだ聖南は、安心しきっていつ寝落ちするか分からない恋人の後頭部に口付けて労った。


「ヒナタめちゃくちゃ馴染んでたな。  通しリハ見たけど本番の方が動けてたぞ。  葉璃が吹っ切れたの見れて良かった」
「ほんとですか?  俺モニターチェック苦手だから、ステージ上がると体だけが頼りで……フォーメーションとか大丈夫かなっていつも不安なんです」
「聞くに聞けねぇしな、アイツらがあんなだと」
「……ですね……」
「具体的にどんな事言われたとか、されたかとかは聞かねぇけど、もしまた嫌な思いしたらすぐ俺に連絡しろ」
「…………はい」
「俺には何でも話して。  これからはちゃんと話すって言うなら、ルイと接触したの黙ってた事、許してやる」
「ゆ、許すって……!」
「隠してたじゃん。  ヒナタの時だけじゃなくて、葉璃の時も会話してたとかムカつく。  葉璃ちゃんは俺だけ見てりゃいいの。  誰にも心を乱されるな」
「聖南さん……」


 先輩としての憤りかと思えば、やはり口をついて出るのは子ども染みた独占欲だった。

 牽制をかけ、これからは葉璃も溜め込まないでいてくれるであろうLilyの件はひとまず置いておく。

 林マネージャーが葉璃に付けない日があるのなら、他の者を見張りにあてがうのもアリではないのかと、社長に直談判しに行こうという算段も付けた。

 あとは……聖南のぐるぐるの根が、この平穏な自分達を脅かさないか。  それだけが心配だ。


「さっきは怖い思いさせてマジでごめんな」
「いいんです、もう。  ……聖南さんがヤキモチ焼きで子どもみたいだって事は知ってますから。  俺が言わなかったのも悪いんです」
「はーるーっ♡」
「い、痛いですよっ、聖南さんっ」
「俺、葉璃の事大好き。  めちゃくちゃ好き。  訳分かんねぇくらい好き」
「わ、わ、分かりました……!」
「言って」
「………………っ?」
「葉璃も言って!」
「…………聖南さん、大好きです」
「ふふっ、はーるーーっ♡」
「痛いですってば!」


 聖南の胸騒ぎが払拭されたわけではないので、まだ安心は出来ない。

 けれど今、腕の中で耳を赤くしている葉璃の恋人は聖南だ。  みっともない嫉妬をぶつけても許してくれる葉璃は、聖南の大切なたった一人の人なのだ。





 翌日、葉璃のマネージャーの件を直談判しに社長の元を訪れた聖南は、フロア一帯に響き渡るほどの大きな声で「嫌だ!」とごねていた。


「なんでだよ!  嫌だ!  んなの許せるか!  いくら社長の提案でも、そんなの許すわけねぇだろ!  俺と葉璃の事知ってんだから分かるよなっ?」


 聖南の剣幕に驚きながらも、社長は呑気にお茶を啜って煎餅を齧った。

 やたらと胸騒ぎを覚えていた聖南の本当のぐるぐるは、他でもないこの日から始まった。





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