狂愛サイリューム

須藤慎弥

文字の大きさ
139 / 632
13❥生放送本番・七月二十二日

13❥4

しおりを挟む



 葉璃は出番終わりのLilyの楽屋でヒナタの変身を解いて聖南達の元へ戻ってきたが、あれこれ話す間もなく今度はETOILEとしての出番が迫っていた。

 当然のように居座り続けているルイのおかげで、楽屋で「ヒナタ」という単語が禁句になってしまったため誰一人葉璃を労う事が出来ていない。

 リハーサルとは雲泥の差であったLilyの出番から五組後に披露されたmemoryのステージを、ルイと葉璃は仲良さげに寄り添って(聖南にはそう見えた)テレビにかじりついて観ており、恭也と共に歯ぎしりした聖南はふと思った。


『今日俺……葉璃に触ってねぇ』


 「行ってきます」「行ってらっしゃい」の毎朝恒例のキスも、聖南の車内で簡素にだった。

 普段なら玄関先で思う存分イチャイチャしなければ気が済まないが、今日に限ってはそうも言っていられなかったのだ。

 聖南は忙し過ぎる葉璃に触れていないばかりか、今も尚ロクに話すらしていない。

 もはやパニック寸前のスタッフから袖待機を命じられた葉璃と恭也が、ピクッと体を揺らした。


「うっ! ……い、う、い、行ってきます……」
「葉璃、落ち着いて」
「……恭也……っ」


 冷静そうに見える恭也も、葉璃ほどではないが相当に緊張している。

 二人は聖南達を一度振り返り、そそくさと楽屋を出て行った。 一言だけ「頑張って来い」とは言ったものの、それが彼らに届いているかは愚問である。

 葉璃の緊張を解してやるためのハグも、ルイが居るので出来なかった。

 いつまで居るんだよと不満を口にしてしまいそうになるが、アキラが視線で「我慢しろ」と命令してくるので、覚えたての我慢を聖南は頑張っている。

 葉璃と恭也のスタンバイのため、CMに入ったテレビ画面を見詰めた。

 ETOILEは、二曲目の中盤でメインステージから中央ステージまでの花道を歌唱しながら練り歩かなくてはならない。

 昨日のリハーサルでそれを知った葉璃は、聖南達も見守る中こんな無茶を言っていた。


『あ、あの……ここ歩くのは全然構わないんですけど、……透明になれる布を貸してください。 じゃないとお客さんから丸見えです』


 葉璃の必死の無茶振りはとても冗談などには聞こえず、一瞬思考が止まったあの時のスタッフの呆気にとられた顔と言ったらなかった。

 盛大に笑い転げた聖南達を、葉璃はステージ上からぷっと頬を膨らませて睨み付けてきたのだが、あまり声に出して笑わない恭也までも爆笑させた彼のネガティブは健在だ。


「まーたハルぽにょは本番前にどっか行ってたしやなぁ。 マジでいつもどこに行ってんのやろ。 心配やわ」
「………………」


 ルイの呟きは、楽屋内の全員から華麗にスルーされた。

 この分では恐らくCROWNの出番までルイはここに居付く。

 うっかり口を滑らせてヒナタの正体を知られてしまわぬよう、とにかく口数の少ない聖南達の楽屋は妙な緊張感に包まれていた。


『ま、とりあえずは成功……だよな』


 葉璃の大仕事はひとまず終わった。

 霧山美宇の代役も見事に務め上げ、出番直前まで騒動が巻き起こっていたLily・ヒナタとしての任務も確実にこなし、聖南も一安心だ。

 ETOILEのハルは、もはや聖南の心配には及ばない。

 彼らにはまだ二曲しか授けていない点については頭が上がらないけれど、二人それぞれの個性が今日も爆発し、会場を大いに沸かせている。

 透明な布を欲していた花道も難なく歩み、先に中央ステージに上がっていた恭也から葉璃が抱きかかえられていた際には、客席全体が黄色い悲鳴に包まれた。

 近頃の恭也は、この悲鳴めいた歓声を心地良く思っている節がある。

 聖南との交際の目くらましになると直々に言ってやって以来、遠慮がまるで無くなった。

 カメラの前でも平気で葉璃と密着し、時には肩や腰を抱いて、ひどい時には顔を寄せてファンサービスをしている。

 テレビにはその危なげな模様が、バッチリと電波に乗って視聴者にも届いている事だろう。


「おぉ、恭也攻めるな」
「あはは……っ、ハル君、顔真っ赤だよ」
「ハルぽにょ本番中に照れてどうするん」
「………………」


『俺も公衆の面前で葉璃とイチャイチャしてぇよ! 畜生……っ』


 一体何を見せられているのか。

 葉璃の恋人は俺だ!と、鼻息荒くステージに駆け上がりたい気分だ。

 たまに思う事がある。


『なんで葉璃と恭也をCROWNに加入させなかったんだよ、社長の野郎……』


 出来上がってしまったCROWNの色に二人が合わないという事はもちろん理解しているのに
、こうも二人が暗黙の了解で堂々とイチャついている様を見ると、噛み締めた奥歯がすり減っていつか粉々になりそうだ。

 
「───良かったねー!」
「あぁ。 二人ともいいステージだった」
「ハルぽにょと恭也に冷たい飲み物用意しとこ」


 ETOILEの出番が終わり、続けざまにメインステージでは大所帯の女性アイドルグループがパフォーマンスを始めた。

 まだ戻らない二人へ、ケイタはパチパチと拍手をして労い、アキラはETOILEの出番が終わるなり無情にもテレビの音量を最小にしてフッと微笑んだ。

 黙ってETOILEのステージを眺めていたルイはというと、突如として付き人の血が騒いだのかキビキビと長机の上を整頓している。

 成田も林も、本日の葉璃のすべての出番が終了した事にホッと胸を撫で下ろしていた。


「……あ、林と成田さん。 ちょっといい?」
「はい、?」
「どうしたセナ?」


 葉璃と恭也が戻って来る前に、聖南はこの後の動きを二人に言い伝えておかねばならなかった。

 楽屋には葉璃の付き人魂が芽生えたルイが居るので、込み入った事は話せない。

 二人を廊下に連れ出すと、聖南は腕を組んで神妙に彼らを見据えた。



しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

灰の底で君に出会う

鮭茶漬け
BL
両親を亡くした高校生、神崎透は叔母の家に引き取られて暮らしている。しかしその家は、家族と呼べる場所ではなかった。家事、雑用、そしてバイト。どれだけ働いても感謝されることはなく、透は「穀潰し」と呼ばれながら日々を過ごしていた。 それでも透は思っている。ここに置いてもらえるだけでありがたい、と。 これは――居場所を持たなかった少年が、初めて愛を知るまでの物語。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

処理中です...