狂愛サイリューム

須藤慎弥

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31♡迫る足音

31♡6

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「葉璃……」


 ほっぺたに触れてる聖南が、俺の下手くそな笑顔に呆然となった。

 何か言いたそうに唇が少し開くも、発せられたのは俺の名前だけ。

 天井でくるくる回るシーリングファンの音のみが響く、静かな時。

 聖南と俺は見詰め合った。

 ……そっか。聖南は去年の事があるから、過剰に心配してるんだ。

 聖南があの日の事を未だに、そんなになるまで気にしてたとは思わなくてちょっとビックリした。

 でも俺は言ったはずだよ、聖南。

 確かになかなか経験する事じゃない。それに、麗々さん達のやった事って結局は聖南への復讐だったのかもしれない。

 だからって俺は、あの時の事を〝聖南のせいだ〟なんて思った事ないよ。

 拉致されちゃうような隙を見せた俺がいけない。聖南に復讐心を抱いてた麗々さん達は、たまたま軟弱そうな俺をターゲットに選んだだけで、本当は聖南を追い詰められれば誰でも良かったんだ。

 あの日、俺は自分でも信じられないくらい「初舞台」への執念があった。

 病院に行けという聖南の反対を押しきって舞台に立った時の、ステージから見た光景……これが聖南の居る世界なんだ。こんなに眩しくて温かいんだ。俺はこの景色を見て、聖南に愛されて、彼を追うために生まれてきたんだって心から実感した。

 美しい星空みたいな光景を目の当たりにした俺は、今日の日は二度と忘れない……忘れられないと思ったんだよ。

 聖南と同じ場所に傷痕があって、その日の思い出がまるごと俺の体に刻み込まれてる。

 俺は聖南に、ちゃんとその思いを話した事があったんだけどな。

 助けに来てくれた側の聖南には、到底俺の〝感謝に近い本音〟は理解出来ないみたいだ。

 俺自身は強くなったつもりでも、周りからはそう見えないって事、かな。


「俺……ダメですね。そんなに聖南さんを心配させちゃうほど未熟で弱っちいんだもん。俺なんて、……聖南さんの足元にも及びません。背中追いかけたって、生きてるうちは追いつけないと思います。ていうか死んでも追いつけません。それくらい聖南さんは大きくてキラキラ輝いてる、雲の上の上の上の人なんです」
「ん、……ん? 葉璃、なんかちょっと話が逸れて……」


 前髪の隙間から覗く聖南の瞳を見詰めて、初めて綺麗だと思った景色を思い浮かべながら言った。

 心配しないで。

 あの頃も、今も、俺は意外と危機に直面してもあんまり不安とか恐怖とか感じない性分らしいから。

 その前に〝俺なんかを狙うわけない〟って卑屈な頭があるんだけど、逆にそれが良い方に作用してる。

 聖南にこんな顔させて、「守りたいのに守れない」と嘆かせて、聖南から仕事を奪いかねない俺は罪作りだ。

 俺が一番、加害者になってる。


「よく考えてみてくださいよ。俺はこの通りチビだし、筋肉ムキムキでもないし、かっこよくもないし、根暗だし、そんなに頭も良くないし。アイさんは標的を間違えてますよね? 俺みたいな卑屈ネガティブ野郎に構ってるなんて時間の無駄ですよね? そう思いません?」
「お、おい、葉璃。ネガティブ始まってんぞ」


 話してる途中から抱き締められた俺は、素直に聖南の肩に顎を乗せて唇を尖らせた。


「俺いつ、葉璃ちゃんのネガティブスイッチ押したかな?」
「……むぅ……」


 背中をよしよしと擦られる。

 言ってるうちに止まんなくなったんだからしょうがない。

 聖南が俺を心配してくれるのは嬉しい。そんな事で量るもんじゃないけど、愛されてるなぁとしみじみ感じて心がポカポカした。

 でも、でも……。

 あんまり悩まないでほしい。

 去年の事があるから、今回は対策を練られる……そう思えばいいじゃん。


「聖南さんがぐるぐるしてるから……俺はその上をいこうと……」


 聖南の首筋に鼻を埋めて、小さく首を振る。
甘えるみたいになったそれが、ピシッと張り詰めてた聖南の空気を変えた。


「それは暴挙だ」
「違うもん。説得です」
「……説得か。ものは言いようだな」


 クスッと聖南が笑ってくれた。ぎゅっと抱き締めてもくれた。

 離れる気もないのに、危険な賭けをした聖南の方が暴挙だと思うけどな。

 俺が〝もう嫌気が差しました、別れましょ〟って言ったら、その瞬間に聖南は壊れちゃうくせに。


「……聖南さんは、俺のそばに居てください。四六時中一緒に、なんて恐れ多いわがままなんか言いません。だって聖南さんは出来ることすべてやってくれてます。……やり過ぎなくらいです。だからあんまり思いつめ過ぎないでください。俺の方が心配になっちゃいます」
「葉璃……っ」


 痛いほど抱き締められた。

 その勢いと力強さに、聖南の匂いにキュンとしてた俺の鼻がぶにゅっと潰れる。


「たまに分かんなくなるよ。ビクビクしてる葉璃と、土壇場で肝が据わってる葉璃。どっちが本物なんだよ」
「えぇ……俺は俺です」
「答えになってねぇ」
「ふふっ……。聖南さん、ぐるぐる終わりました?」
「おかげさまで。少しはな」


 聖南の不安とか心配する気持ちを、完璧に取り去る事なんて無理だ。その大きさは俺への愛情と比例してるから。

 弱ってる聖南にときめいちゃうくらい俺は平気だって事を分かっててもらえたら、きっと聖南も〝少しは〟安心してくれる。

 あぁ……俺、聖南のこと大好きだ。愛情過多な聖南の想いが、本当に心地良い。

 抱き合って聖南の匂いを嗅いでると、唐突にムラッとしてきちゃった俺は……自分で自分の気が知れない。


「じゃあ、あの……」
「ん?」
「……ま、せんか」
「何? どした?」
「しませんかっ」
「何を? ……って……マジ? いいの?」


 瞬時に理解した聖南はすごい。

 うん、と頷いた俺をひっしと抱き締めて、そのまま勢いをつけて立ち上がった。予想以上の瞬発力に、俺は慌てて聖南の首に両腕を回す。


「葉璃から誘ってくれるなんて……! ウソだろ、マジかよっ? 明日は大雪か!?」
「したくないなら別に……あの、ちょっと恥ずかしくなってきたんで撤回しても……」
「風呂いく!? ベッドいく!?」
「……お風呂で」
「オッケー!! さっ、行こ行こ♡」


 さっきまでのシュンとした聖南はどこに行ったの。

 自分で誘っといて恥ずかしくなった俺に、「やっぱりいいです」の言葉を言わせない聖南はさすがだ。



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