美醜の価値観が混沌とした異世界で三人の男たちに愛されて崇め奉られる。

flour7g

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逃げだした先の出会い。

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巨漢の魔族男は、まるで市場で買った家畜でも扱うように、僕をキャラバンの荷台へと放り投げた。

 だが、僕は縄で自由の利かない身を必死に捩り、動き出した荷台から決死の覚悟で飛び降りた。

 どこへ行けばいいのかも、
誰を信じればいいのかも分からない。

 また声をかけた瞬間に捕まって、
別の誰かに「商品」にされるかもしれない――。
 
 背後を振り返る余裕なんてなかった。
じりじりと胸を焼くような焦燥感に急かされ、僕はただ、ひたすらに地面を蹴って走り続けた。

 迷い込んだのは、砂埃と夕陽が混じり合う、入り組んだ裏路地。

 数人の浮浪者が力なく蹲っているその影を縫うように歩き、息を切らしていた、その時。

 古びた民家だろうか。
開いた木の扉から出てきた男たちと、正面からぶつかった。

「あっ……」

 ――見上げた瞬間、心臓が跳ねた。

 三人の男たちは、
僕から見ても精悍で、
美しく、
そして逞しかった。

 何より、これまで見てきた恐ろしい者や半獣人たちとは違う「人間の姿」をしていることが、極限状態だった僕を救った。

「助けて、ください……お願い……っ」

 気づけば、涙ながらに彼らの衣服にしがみついていた。

 言葉なんて支離滅裂だったはずだ。
なのに、彼らは拒絶することなく、それどころか招かれざる客である僕を、壊れ物を扱うような手つきで部屋へと迎え入れてくれた。

 ――今、僕は三人の男に囲まれ、ソファに座っている。

 黒地に青薔薇の刺繍が入った学園指定のブレザーに、黒のローファー。

異世界の民家にはあまりに馴染まない格好の僕を、彼らは食い入るように見つめていた。

 だが、その眼差しは、先ほどの魔族のような「強欲」なものではない。

 そこにあるのは――困惑、怯え、不安。そして、奇跡を待つような縋るような期待。

 三人は、モデルのように美しく、彫刻のように雄々しい肉体を持っていた。

 2メートルはありそうな高身長に、鍛え抜かれた筋肉。宝石のように澄んだ瞳。

 なのに、彼らには強者の驕りなんて微塵も感じられなかった。



「……君の身の安全を、俺たちが預かってもいいのか? 
それは、たとえ、一晩だけでも光栄なことだ」

 最初に口を開いたのは、赤髪のウルフカットが野性的なグラウスだ。
 筋骨隆々の分厚い胸板を持つ大男だが、その垂れ目がちな緑の瞳は震えている。



「本気か? ……信じたくないわけじゃない。ただ……本当に、俺たちのような男と同じ部屋で寝起きするつもりなのか?」

 補佐人だという黒髪の青年、ゼンジが詰め寄る。
侍のような凛とした佇まいだが、その金色の瞳には、自分の価値を疑うような悲痛な色が混じっていた。



「こんな俺たちのところで……後悔、しないか?」

 長い銀髪の間から、青い瞳を向けてきたのは魔導士のディアロス。
 青白い肌に冷淡な口調。だが、その瞳に宿る独占欲にも似た光は、誰よりも強く僕に執着していた。





 彼らは丁寧で、謙虚で――そして、同情してしまうほど必死に、僕という存在に「救い」を見出していた。
 
 無理もない。この狂った世界の価値観では、彼らのような「美しき勇者」たちは、ただの「見栄えがしない不器量な人間」に過ぎないのだから。
 

 疲れ果てた僕は、枯れかけた声で、もう何度目か分からない言葉を繰り返す。


「……言っただろ。僕は、君たち三人が最高に――美しくて、かっこいいと思ってるよ」

 その瞬間、三人が弾かれたように肩を震わせる。

 なぜなら。

 美醜の価値観がはちゃめちゃなこの世界において、
僕の言葉は、彼らにとって人生で初めて浴びせられた「愛の告白」にも等しい衝撃だったからだ。
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