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安息の夜
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深い夜が、古びた木の温もりがある彼らの家を包み込んでいた。
彼らが寝起きする部屋を見せてもらうと十帖ほどの広さで、三つの簡素な木製ベッドが並んでいる。
修学旅行や民泊の相部屋のような雰囲気だ。
そこからドアもなく質素で低いパーテーション一枚隔てただけのリビングのソファが、今夜の僕の居場所。
ベッドを譲られそうになったけれど、丁寧にお断りした…。
三人はそれぞれのベッドに横たわっているが、とても「眠りについた」と言える雰囲気ではなかった。
「……君。寒くはないか? 毛布が必要なら、俺のを使ってくれ」
グラウスが大きな身体を窮屈そうに折り曲げ、何度も寝返りを打つ音が聞こえる。
その声はひどく緊張で上ずっており、暗闇の中でも彼がソファに座る僕の方をチラチラと伺っているのが分かった。
彼の心臓の鼓動がここまで響いてきそうなほど、興奮で荒ぶっている。
「グラウス、静かにしろ。……君、すまない。もし俺たちの存在が不快なら、俺たちが外で寝ても構わない……」
ゼンジの言葉はいつも通り冷静を装っていたが、耳をそばだてているのが丸わかりだった。
彼にとって、僕のような「美しい存在」と同じ空気を吸い、
同じ部屋で夜を明かすこと自体が、
分不相応なまでの栄誉に感じられ、
恐怖に近い高揚感を生んでいるようだった。
「……はぁ……はぁ……っ……」
ディアロスに至っては、もはや言葉にもなっていなかった。
パーテーションの隙間から時折見える彼の青白い瞳は、
獲物を狙う獣のような、
あるいは壊れ物を崇める信者のような、
異様な執着を孕んで潤んでいる。
静かな夜の闇の中で、
僕は思わず身を縮めた。
野宿にならなかったのは幸運なはずなのに、僕は安心するどころか、かえって異世界の異質さを感じ取っていた。
(……なんで、こんなことになったんだろう)
僕は一人、窓から差し込む冷たい光を見つめながら、遠い元の世界に思いを馳せる。
ほんの十数時間前まで、僕はただの学生だった。
それが今では、
恐ろしい魔族が闊歩する街…
砂塵が舞い、
半人半獣が飛び、
飛空艇がある世界で、
歪な価値観から、自分を不器量だと思い込んでいる三人の男たちに、僕は囲われ、崇め奉られている。
この世界の美醜の基準は、僕の知る常識の斜め上を行っている。
彼らが僕に寄せる過剰なまでの敬意と情熱は、いつか牙を剥くことはないだろうか。
もし僕が彼らの期待する何かでなくなった時、この平穏は崩れ去るのではないか。
賑やかで、
恐ろしくて、
そしてひどく静かな夜。
異世界の現実に一人で取り残されたような焦燥感に、
僕はただ、借り物の薄い毛布を強く握りしめることしかできなかった。
彼らが寝起きする部屋を見せてもらうと十帖ほどの広さで、三つの簡素な木製ベッドが並んでいる。
修学旅行や民泊の相部屋のような雰囲気だ。
そこからドアもなく質素で低いパーテーション一枚隔てただけのリビングのソファが、今夜の僕の居場所。
ベッドを譲られそうになったけれど、丁寧にお断りした…。
三人はそれぞれのベッドに横たわっているが、とても「眠りについた」と言える雰囲気ではなかった。
「……君。寒くはないか? 毛布が必要なら、俺のを使ってくれ」
グラウスが大きな身体を窮屈そうに折り曲げ、何度も寝返りを打つ音が聞こえる。
その声はひどく緊張で上ずっており、暗闇の中でも彼がソファに座る僕の方をチラチラと伺っているのが分かった。
彼の心臓の鼓動がここまで響いてきそうなほど、興奮で荒ぶっている。
「グラウス、静かにしろ。……君、すまない。もし俺たちの存在が不快なら、俺たちが外で寝ても構わない……」
ゼンジの言葉はいつも通り冷静を装っていたが、耳をそばだてているのが丸わかりだった。
彼にとって、僕のような「美しい存在」と同じ空気を吸い、
同じ部屋で夜を明かすこと自体が、
分不相応なまでの栄誉に感じられ、
恐怖に近い高揚感を生んでいるようだった。
「……はぁ……はぁ……っ……」
ディアロスに至っては、もはや言葉にもなっていなかった。
パーテーションの隙間から時折見える彼の青白い瞳は、
獲物を狙う獣のような、
あるいは壊れ物を崇める信者のような、
異様な執着を孕んで潤んでいる。
静かな夜の闇の中で、
僕は思わず身を縮めた。
野宿にならなかったのは幸運なはずなのに、僕は安心するどころか、かえって異世界の異質さを感じ取っていた。
(……なんで、こんなことになったんだろう)
僕は一人、窓から差し込む冷たい光を見つめながら、遠い元の世界に思いを馳せる。
ほんの十数時間前まで、僕はただの学生だった。
それが今では、
恐ろしい魔族が闊歩する街…
砂塵が舞い、
半人半獣が飛び、
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もし僕が彼らの期待する何かでなくなった時、この平穏は崩れ去るのではないか。
賑やかで、
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そしてひどく静かな夜。
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