6 / 21
赤の想い、我が運命_グラウス視点
しおりを挟む
重苦しい静寂が満ちている。
だが、俺の胸の内は、
今なお嵐の中にいる。
並んだ三つのベッドの端で、俺は仰向けになり、天井の染みを見つめていた。
隣でゼンジやディアロスが死んだように息を潜めているのがわかる。
あいつらも同じだろう。
パーテーション一枚向こう側で、
あの奇跡のような君が眠っているのだから。
(……本当に出会ってしまった。あんな、夢のような御方に)
数時間前、砂塵の舞う広場で、俺は自分の目を疑った。
薄紫の肌の魔族男に片手で抱えられ、投げ出されていた小さな君。
埃にまみれ、震えていたその姿をひと目見た瞬間、俺の全身の血が逆流するような衝撃が走った。
まさかの自宅の玄関扉を開けた瞬間に再会するとは思わなかった……
これこそ我が運命だろうか。
透き通るような白い肌。折れてしまいそうなほど細い四肢。
そして、すべてを包み込むような、この世のものとは思えぬ儚い輝き。
この世界で「むさ苦しさと不器量の極み」と忌み嫌われる己の姿、
諦めていたはずなのに、君に恐ろしく見えないだろうか、あの瞬間、それだけが心配になった――
リーダーとして、俺は決めていたはずだ。この厳しい世界で、仲間を守り抜くことだけを……
だが、君の前に膝をついた瞬間、これまでの価値観など粉々に砕け散った。
俺のこの分厚い胸板も、丸太のような腕も、戦うための誇り――
だが、君の華奢な肩を支えようとしたとき、涙を拭おうとしたとき、
自分の手がどれほど無骨で、凶器のように恐ろしいものかと初めて呪った。
俺のような大男が、
あんな滑らかな肌に触れていいはずがない。
食事も喉を通らなかっただろう……
あの細い喉に、俺たちが食うような荒っぽい飯が通るはずがない。
次はもっと柔らかいものを…。
寝床も温かい毛布を用意すべきだ。
ソファで横たわる君の気配に、全神経を集中させる。
俺が寝返りを打つたびに、古びた木製のベッドがギィと鳴る。
そのわずかな音ですら、君の眠りを妨げるのではないかと、呼吸を止めるほど緊張する。
俺の中にある「保護欲」という名の猛獣が、檻の中で暴れている。
ああ、君を誰にも触れさせたくない。
この俺の肉体を盾として、
世界のあらゆる穢れから遠ざけたい。
「……」
思わず、まだ名前も知らぬ君への呼びかけが漏れそうになり、口を閉ざした。
君が「護衛として、身の回りの世話でも何でも構わないからそばにいたい」という俺たちの厚かましい願いを許してくれたとき、震えが止まらなかった。
この大楯と大槍も、この力と身体も、すべては君のために。
この夜が明けたら、俺は君ために何ができるだろう。
君を守るためなら、
俺は神に背き、
魔王すらもこの大槍で貫いてみせる。
暗闇の中、俺は握り締めた拳に誓った。
俺の赤き巨躯に宿るのは、理性を焼き尽くさんばかりの、狂気的なまでの忠誠だ。
だが、俺の胸の内は、
今なお嵐の中にいる。
並んだ三つのベッドの端で、俺は仰向けになり、天井の染みを見つめていた。
隣でゼンジやディアロスが死んだように息を潜めているのがわかる。
あいつらも同じだろう。
パーテーション一枚向こう側で、
あの奇跡のような君が眠っているのだから。
(……本当に出会ってしまった。あんな、夢のような御方に)
数時間前、砂塵の舞う広場で、俺は自分の目を疑った。
薄紫の肌の魔族男に片手で抱えられ、投げ出されていた小さな君。
埃にまみれ、震えていたその姿をひと目見た瞬間、俺の全身の血が逆流するような衝撃が走った。
まさかの自宅の玄関扉を開けた瞬間に再会するとは思わなかった……
これこそ我が運命だろうか。
透き通るような白い肌。折れてしまいそうなほど細い四肢。
そして、すべてを包み込むような、この世のものとは思えぬ儚い輝き。
この世界で「むさ苦しさと不器量の極み」と忌み嫌われる己の姿、
諦めていたはずなのに、君に恐ろしく見えないだろうか、あの瞬間、それだけが心配になった――
リーダーとして、俺は決めていたはずだ。この厳しい世界で、仲間を守り抜くことだけを……
だが、君の前に膝をついた瞬間、これまでの価値観など粉々に砕け散った。
俺のこの分厚い胸板も、丸太のような腕も、戦うための誇り――
だが、君の華奢な肩を支えようとしたとき、涙を拭おうとしたとき、
自分の手がどれほど無骨で、凶器のように恐ろしいものかと初めて呪った。
俺のような大男が、
あんな滑らかな肌に触れていいはずがない。
食事も喉を通らなかっただろう……
あの細い喉に、俺たちが食うような荒っぽい飯が通るはずがない。
次はもっと柔らかいものを…。
寝床も温かい毛布を用意すべきだ。
ソファで横たわる君の気配に、全神経を集中させる。
俺が寝返りを打つたびに、古びた木製のベッドがギィと鳴る。
そのわずかな音ですら、君の眠りを妨げるのではないかと、呼吸を止めるほど緊張する。
俺の中にある「保護欲」という名の猛獣が、檻の中で暴れている。
ああ、君を誰にも触れさせたくない。
この俺の肉体を盾として、
世界のあらゆる穢れから遠ざけたい。
「……」
思わず、まだ名前も知らぬ君への呼びかけが漏れそうになり、口を閉ざした。
君が「護衛として、身の回りの世話でも何でも構わないからそばにいたい」という俺たちの厚かましい願いを許してくれたとき、震えが止まらなかった。
この大楯と大槍も、この力と身体も、すべては君のために。
この夜が明けたら、俺は君ために何ができるだろう。
君を守るためなら、
俺は神に背き、
魔王すらもこの大槍で貫いてみせる。
暗闇の中、俺は握り締めた拳に誓った。
俺の赤き巨躯に宿るのは、理性を焼き尽くさんばかりの、狂気的なまでの忠誠だ。
3
あなたにおすすめの小説
猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした
水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。
そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。
倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。
そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。
体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。
2026.1.5〜
獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。
親友のお願いを聞いたら異世界から来た騎士様に求婚されました
藤吉めぐみ
BL
いつも通りに家に帰っていた大学生の心都(こと)。そんな心都を家の前で待っていたのは3ヶ月前から行方不明になっていた親友・悠隆と、銀の鎧を着た背の高い見知らぬ男。
動揺する心都に悠隆は、「ちょっと異世界に行っててさー。で、向こうの騎士様が付いてきちゃって、心都のところで預かってくれない?」とお願いしてくる。隣の騎士も「あなたに会いたくてここまで来てしまいました」と言い出して……!?
1DKの部屋から始まる、イケメン騎士とお人好し大学生の世界を越えた同居ラブ。
僕、天使に転生したようです!
神代天音
BL
トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。
天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる