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重すぎる!愛の包囲網
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バザールで買い出しを終え、
家へと向かう。
僕は慣れない世界に疲れ切った体で、
あのこじんまりした家が今は恋しくて堪らない。
ゼンジが新調してくれた白いシルクのシャツは、肌に吸い付くように滑らかで、彼らの視線の熱をダイレクトに伝えるようで少し落ち着かない。
だが、安息の時間は長くは続かなかった。
「……やはり、来たか」
ディアロスが冷たく呟き、玄関の方を睨む。
直後、地響きのようなノックの音が狭いリビングに響き渡った。
そこに立っていたのは、あの薄紫肌の魔族だった。
背後には、荷車を引いた数人の男たちが控えている。
「……これを。我が番の喉を潤すのに相応しい酒と、繊細な胃を満たす食材、そして流行りの菓子だ。
それと、夜の冷え込みに備えた最高級の毛皮とベッドも持ってきた」
運び込まれる「山盛りの貢ぎ物」は、三人の質素な十帖ほどの部屋をまたたく間に埋め尽くした。
「おい、魔族! ここは俺たちの家だ。入り切らないと言っているだろう!」
グラウスが、天井に届きそうな毛皮の山を支えながら、
近隣の住民に配慮したのか、静かに魔族に詰め寄った。
「狭いこの家が悪い。我が番が窮屈な思いをされる。……外に捨て置けというのか?」
「そうは言っていない! だが、物理的に限界があるだろう!」
魔族男とグラウス、
巨漢二人による「静かめな口論」は、それだけで部屋の空気を震わせる。
僕はその様子をソファの隅で小さくなって眺めていたが、ディアロスが僕の肩に手を置き、耳元で冷たく囁いた。
「気づいているか? この家の周囲……不自然な魔力の壁ができている。
昨日私が張った結界を、外側からさらに強固な結界で包み込んでいる」
「えっ……?」
ディアロスの青い瞳には、隠しきれない不快感が滲んでいた。
――僕は魔力もないし、魔法なんて分かりません!と心の中で叫んだ。
すると、窓際で外の様子を伺っていたゼンジが、自嘲気味に鼻を鳴らした。
「……流石だな。隣近所や、向かいの宿屋と酒場も、住人が丸ごと入れ替わっていやがる。
町人のふりをしているが、あの足捌きは間違いなく訓練を受けた私兵だ。
……魔族、貴様、この地区ごと買い上げやがったな?」
魔族は悪びれる様子もなく、僕に視線を向けた。
「……当然だ。我が番を狙う不逞の輩は多い。
ここを丸ごと俺の管理下に置けば、鼠一匹通さぬ、安全が手に入る」
「……勝手なことを」
ディアロスが魔力を昂ぶらせるが、グラウスがそれを制した。
「……君が、安全が第一なのは確かだ。……おい、魔族。
せっかくだ、お前も座れ。食事は無駄にできない……用意した夕食を始めるぞ」
こうして、
三人の男たちと魔族男と僕、という歪極まりない「五人の晩餐」が始まった。
テーブルの上には、グラウスが怪力で丹念にすりおろした果実と、魔族が持参した最高級の柔らかい肉や新鮮な魚が並ぶ。
「慌ただしくて、すまない…まずはこれを。……俺が毒味は済ませてある」
グラウスが甲斐甲斐しく肉を小さく切り、僕の口元へ運ぶ。
「……無作法だな。俺が飲み物を用意した。口に合うかはわからんが、俺の古着の『お返し』に受け取ってほしい」
ゼンジが、部屋着として自分の古着を を着ている僕を見て、恍惚とした表情でグラスを差し出す。
「その肉は脂が強すぎるだろう、こちらを飲め。身体の芯から温まる魔法薬を混ぜたスープだ」
ディアロスが至近距離からスプーンを差し出す。
「皆、甘いな。我が番よ、俺の持ってきた最高級の菓子を。なんとも、小さな唇だ……俺が指先で菓子を砕いてやろう」
魔族までもが、大きな指で繊細な菓子を摘み、僕に迫ってくる。
四つの熱い視線が、僕の口元、指先、そして首筋を這い回る。
彼らは互いを牽制し合いながら、あわよくば僕の「一番」になりたいという独占欲を、隠そうともしなかった。
(……温かくて美味しい食事のはずなのに、味がしない)
魔族が買い占めた安全な地区の、結界で守られた小さく質素な家。
四人の男たちに囲まれ、
僕は逃げ場のない愛の巣の中にいた。
「……どうした、顔色が赤いな。」
「……熱があるのか?」
「……は……ぁあ……」
「それとも、我らの奉仕に、感じ入っているのか?」
四人の低い囁きが、
静かな部屋に溶け込んでいった。
家へと向かう。
僕は慣れない世界に疲れ切った体で、
あのこじんまりした家が今は恋しくて堪らない。
ゼンジが新調してくれた白いシルクのシャツは、肌に吸い付くように滑らかで、彼らの視線の熱をダイレクトに伝えるようで少し落ち着かない。
だが、安息の時間は長くは続かなかった。
「……やはり、来たか」
ディアロスが冷たく呟き、玄関の方を睨む。
直後、地響きのようなノックの音が狭いリビングに響き渡った。
そこに立っていたのは、あの薄紫肌の魔族だった。
背後には、荷車を引いた数人の男たちが控えている。
「……これを。我が番の喉を潤すのに相応しい酒と、繊細な胃を満たす食材、そして流行りの菓子だ。
それと、夜の冷え込みに備えた最高級の毛皮とベッドも持ってきた」
運び込まれる「山盛りの貢ぎ物」は、三人の質素な十帖ほどの部屋をまたたく間に埋め尽くした。
「おい、魔族! ここは俺たちの家だ。入り切らないと言っているだろう!」
グラウスが、天井に届きそうな毛皮の山を支えながら、
近隣の住民に配慮したのか、静かに魔族に詰め寄った。
「狭いこの家が悪い。我が番が窮屈な思いをされる。……外に捨て置けというのか?」
「そうは言っていない! だが、物理的に限界があるだろう!」
魔族男とグラウス、
巨漢二人による「静かめな口論」は、それだけで部屋の空気を震わせる。
僕はその様子をソファの隅で小さくなって眺めていたが、ディアロスが僕の肩に手を置き、耳元で冷たく囁いた。
「気づいているか? この家の周囲……不自然な魔力の壁ができている。
昨日私が張った結界を、外側からさらに強固な結界で包み込んでいる」
「えっ……?」
ディアロスの青い瞳には、隠しきれない不快感が滲んでいた。
――僕は魔力もないし、魔法なんて分かりません!と心の中で叫んだ。
すると、窓際で外の様子を伺っていたゼンジが、自嘲気味に鼻を鳴らした。
「……流石だな。隣近所や、向かいの宿屋と酒場も、住人が丸ごと入れ替わっていやがる。
町人のふりをしているが、あの足捌きは間違いなく訓練を受けた私兵だ。
……魔族、貴様、この地区ごと買い上げやがったな?」
魔族は悪びれる様子もなく、僕に視線を向けた。
「……当然だ。我が番を狙う不逞の輩は多い。
ここを丸ごと俺の管理下に置けば、鼠一匹通さぬ、安全が手に入る」
「……勝手なことを」
ディアロスが魔力を昂ぶらせるが、グラウスがそれを制した。
「……君が、安全が第一なのは確かだ。……おい、魔族。
せっかくだ、お前も座れ。食事は無駄にできない……用意した夕食を始めるぞ」
こうして、
三人の男たちと魔族男と僕、という歪極まりない「五人の晩餐」が始まった。
テーブルの上には、グラウスが怪力で丹念にすりおろした果実と、魔族が持参した最高級の柔らかい肉や新鮮な魚が並ぶ。
「慌ただしくて、すまない…まずはこれを。……俺が毒味は済ませてある」
グラウスが甲斐甲斐しく肉を小さく切り、僕の口元へ運ぶ。
「……無作法だな。俺が飲み物を用意した。口に合うかはわからんが、俺の古着の『お返し』に受け取ってほしい」
ゼンジが、部屋着として自分の古着を を着ている僕を見て、恍惚とした表情でグラスを差し出す。
「その肉は脂が強すぎるだろう、こちらを飲め。身体の芯から温まる魔法薬を混ぜたスープだ」
ディアロスが至近距離からスプーンを差し出す。
「皆、甘いな。我が番よ、俺の持ってきた最高級の菓子を。なんとも、小さな唇だ……俺が指先で菓子を砕いてやろう」
魔族までもが、大きな指で繊細な菓子を摘み、僕に迫ってくる。
四つの熱い視線が、僕の口元、指先、そして首筋を這い回る。
彼らは互いを牽制し合いながら、あわよくば僕の「一番」になりたいという独占欲を、隠そうともしなかった。
(……温かくて美味しい食事のはずなのに、味がしない)
魔族が買い占めた安全な地区の、結界で守られた小さく質素な家。
四人の男たちに囲まれ、
僕は逃げ場のない愛の巣の中にいた。
「……どうした、顔色が赤いな。」
「……熱があるのか?」
「……は……ぁあ……」
「それとも、我らの奉仕に、感じ入っているのか?」
四人の低い囁きが、
静かな部屋に溶け込んでいった。
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